繰言くりごと)” の例文
おい繰言くりごとの如き、生彩のない、調子の弱い、従って読者に何の印象をも与えない、贅言をくどくどと列べ立てるのが癖だからである。
陳言套語 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
どんな方法によってでも、一人の子供を挙げることさえできたなら、死んでも恨みはないという繰言くりごと。それを細々こまごまと物語りました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こたびとてもまた同き繰言くりごとなるべきを、何の未練有りて、いたづらに目をけがし、おもひきずつけんやと、気強くも右より左に掻遣かきやりけるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今の御姿おすがたはもう一里先か、エヽせめては一日路いちにちじ程も見透みとおしたきを役たたぬ此眼の腹だたしやと門辺かどべに伸びあがりての甲斐かいなき繰言くりごとそれももっともなりき。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
繰言くりごとながら維盛が事頼むは其方一人。少將ことあるの日、未練の最期を遂ぐるやうのことあらんには、時頼、予は草葉の蔭より其方を恨むぞよ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「今さらそんな繰言くりごとをいってみても仕方はない。南郡へも使いが出してあるから、兄の曹仁から加勢に来るのを待つとするか」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういう人たちには純粋な談話の趣味という事は解釈されないのです。言語はすなわち、相談と不平と繰言くりごとと争論と、これよりほかには全く必要がないのです。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
辰五郎の繰言くりごとは際限もなく續きますが、平次はそれをいゝ加減にあしらつて、お瀧の死骸を一應調べました。
女の腐った様な猜疑に満ちた繰言くりごとで変態読者をやんやと云わせて得意がっている彼が無性むしょうしゃくに触っていた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
朝霞のほうはおなじ繰言くりごとのまきかえしにうんざりし、ある日、たまりかねて素ッ気ないことをいうと、白女は朝霞の冷たい態度から、急に曲ったほうへ解釈した。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いふおれには少しもわからぬ繰言くりごと然乍さりながら弟十兵衞の女房お安も拙者の方へ來て居たが思出せば七年あと不※ふと家出いへでして歸らぬゆゑ如何なしたる事ならんと思ひ出た日を命日めいにちに佛事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
敬之進の挨拶は長い身の上の述懐であつた。憐むといふ心があればこそ、丑松ばかりは首を垂れて聞いて居たやうなものゝ、さもなくて、誰がおい繰言くりごとなぞに耳を傾けよう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
老人の繰言くりごとでなく、負け惜しみでなく、わたしはそのころ一人前の人間になっていて、そういう大歌舞伎の芝居を見物することの出来たのを一生の仕合わせだと思っている。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
若い井上安五郎は、ちびちびと盃をなめながら、無言で、大人たちの繰言くりごとを聞いていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
しかるを愚図々々ぐづ/\さかしらだちてのゝしるは隣家となりのおかずかんがへる独身者ひとりもの繰言くりごとなんえらまん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
今更繰言くりごとめき候へども、聖母の我等二人を一つにし給はざりしは、其故なからずやは。
「さなり、呼びて酒ませなばついには歌いもすべし。されどその歌の意しがたし。いな、彼はつぶやかず、繰言くりごとならべず、ただおりおり太き嘆息ためいきするのみ。あわれとおぼさずや——」
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
学校がどうのこうのと云ったって、正しいふみの道はただ一つさ。小野ノむらじにしろ、この僕にしろ、君とは一生を誓い合った同志じゃないか。その繰言くりごとだけはもういい加減に止めたまえ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
両方から繰言くりごとだ。僕はもう時機がやってきたように思う。いっしょに相談しよう。
母がいつ來ても、同じやうな繰言くりごとを聞せて歸すのである。
最後の一句 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ある時は貧にうんじた老女の繰言くりごととはいえ
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
九郎はもう吉次の繰言くりごとには答えもせず、虹いろにかすんでいる伊豆半島の山を空を、じいっと、飽かぬ眸でながめていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辰五郎の繰言くりごとは際限もなく続きますが、平次はそれをいい加減にあしらって、お滝の死骸を一応調べました。
取直とりなほし我が身ながらも未練みれん繰言くりごとてもかくても助かり難き我が一命此上は又々嚴敷きびしき責苦せめくこらへんよりはいつそのこと平兵衞を殺せしといつはり白状して此世の責苦せめくのがれん者とこゝに心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
斯〻かく/\の次第と涙の繰言くりごとに歯を喰ひしばつて口惜くやしがつたが、これもみな、新八、太七の類が為せしわざ、ようし、斯うなつたら幼しと雖も我も釜貞の倅だ、虹蓋位の手口が判らずにくものかと
名工出世譚 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
朝霞もはじめのうちはなぐさめるくらいにしていたが、いつまでもおなじ繰言くりごとをまきかえすのにうんざりし、ついつい素ッ気ないことをいうと、白女は朝霞の態度から急に曲ったほうへ解釈した。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と、先の真意のあるところは耳うつつで、ただ子煩悩ぼんのう繰言くりごとと、たそがれかかる机に筆をなやめております。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三世十方恒河沙数がうがしやすうの諸仏菩薩に妄執煩悩無きものやある、妄執煩悩無きものやある、何ぞ瞿曇ぐどん舌長したながなる四十余年の託言かごと繰言くりごと、我尊しの冗語じようご漫語まんご、我をばあざむおほすに足らんや、恨みは恨み、あだは讐
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「およそ士たるものが、この天地に生れて、仕える主を過つことは、それ自体すでに自己の不明というほかはない。この期に至って、なんの女々めめしい繰言くりごとを吐かんや」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな愚痴や繰言くりごとは、逃げてゆくきゃつの嘲笑を値打づけるばかりだ。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、微笑ほほえみながら、秀吉の繰言くりごとを、否定しているようであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『……もういい、繰言くりごとは止せ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)