おさま)” の例文
人形の手足をいでおいたのにきわまって、蝶吉の血相の容易でなく、尋常ただではおさまりそうもない光景を見て、居合すはおそれと、立際たちぎわ悪体口にくていぐち
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その圭さんは、この幕切れにはおさまりかねるものと見え、それから舞台裏のコック部屋へ入りこんで、コックの吉公きちこうと無駄口を叩きはじめる。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と云いながら、ぐるりっと胡坐あぐらを掻きましたが、此のおさまりはう相成りましょうか、次回までお預かりにいたしましょう。
この議論は、結局顔が似るということの形態学まで行かなければ話がおさまらない。しかしそういう千古のなぞにかかわっていることはめて、先へ急ぐことにする。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
抱主の持物になって姉さん気取りでおさまろうとしたのが、無念で我慢がしきれなかったと云うのです。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
高級浪人として(生活に困まらず、立派な家など建てておさまっている)森下雨村君を奮起せしめよ。
わかりきった話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分が母の愛というものを意識してから今日にいたるまで、殆ど四十余年、いまだに広島の屋敷では、孫の余一の嫁がおさまらなかったり、家事に苦労がたえないでいるらしい。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
疑問は叔父の一句でたちまちおさまりがついたが、暑さの方はなかなか去らないので誰もすぐは寝つかれなかった。吾一は若いだけに、明日あした魚捕さかなとりの事を叔父に向ってしきりに質問した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何事なにごとおさまりのつき、今日けふ一人ひとりでおちようずにもかれるやうになりました、みぎ譯故わけゆゑ手間てまどり、昨日きのふうちまするときも、がわく/\して何事なにごとおもはれず、あとにておもへばしまりもけず
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むせぶのをこらえ、涙を飲み落す秀江のけはい——案外、早くそれがおさまって、船端で水をすくう音がした。復一はわざと瞳の焦点を外しながらちょっと女の様子を覗きすぐにまた眼を閉じた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おいらをやっといて、おめえは、新井宿あらいじゅくの奴の家で、おさまろうと云うのかい」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
が日本という国は山・谷・川・平野・湖沼・港湾・長い海岸線等が、狭い日本国というところにおさまっておって、しかも暑からず寒からず、つまり酷暑酷寒というような自然の虐待を受けることなく
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
なんのッて、ひらひらと来る紅色べにいろの葉から、すぐに吸いつけるように煙草たばこを吹かした。が、何分にも鋳掛屋じゃあおさまりませんな。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゼルコフ「なんだって。そんなぼんくらな考えで大統領でございとおさまっていられてたまるものか。おれはこれを委員会へ警告しておくからな」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ねえパパ、のO家の為めに我々は新鮮な空気が吸える、と思えば気もおさまるね。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うでれは此樣このやう活地いくぢなし、馬車ばしやおもひもらぬこと此後このご辻車つぢぐるまひくやられたものければ、いまのうちおさまりをかんがへて、利口りこうもの出來できる、學者がくしや好男子いろをとこで、としわかいにのりかへるがずゐ一であらう
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が——東儀のこじれた気もちはまだおさまらない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何でも怨む者さえ無ければ物ごとは円くおさまる。検屍けんしにはあのナンノをな、それから、ナニはナニして、ナンノを、ナンノを。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ビールを詰め込むべきは詰めこんで、一番出口に近いところにすっかりおさまったビールの大箱が現われるのだった。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
秋成は、尽きぬ思ひ出にすつかり焦立いらだたさせられ、おさまりかねる気持に引かへ、夜半過ぎて長閑のどかよどみさへ示して来たあたりの闇の静けさに、舌打ちした。==なにが、この俺がこどもに帰つたおきなか。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そちこちひるすぎだ、帰れば都合でぜんも出そうし、かたがた面倒だ。一曲か二曲か、太神楽のおさまるまで、とまた寺の方へ。——
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
指環ゆびわかんざしこしらえるのじゃ。)と親仁様が言ったから錺職かざりやさんですわね。その方のお骨がおさまっているんですってね。
れると、まだ天狗てんぐのいきの、ほとぼりが消えなかつたと見えて、鉄砲笊てっぽうざるへ、腰からすつぽりとおさまつたのである。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)