かざし)” の例文
あながち御仏を頼みまゐらせて浄土に生れんとにはあらねど、如何なる山の奥にもありて草の庵の其内に、荊棘おどろかざしとし粟稗あはひえを炊ぎてなりと
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と、この一廓ひとくるわの、徽章きしょうともいっつべく、峰のかざしにも似て、あたかも紅玉をちりばめて陽炎かげろうはくを置いたさまに真紅に咲静まったのは、一株の桃であった。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今朝けさもずいぶん酔ったふうをお作りになって、ふじの花などをかざしにさして、風流な乱れ姿を見せておいでになるのである。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そしてその年の冬、母の帰京すると共に、わたくしもまた船に乗った。公園に馬車をる支那美人のかざしにも既に菊の花を見なくなった頃であった。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そうです」と、王は得意になって「はんにして二十四班、五千八百人の官吏に洩れなく、天子さまからお祝として、時服じふく一トかさねと、この翠葉金花すいようきんかかざしが一本ずつ下賜されます」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かざしもて深さはかりし少女子おとめごのたもとにつきぬ春のあわ雪
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
夕粧ゆふげはひて暖簾のれんくぐれば大阪の風かざしふく街にも生ひぬ
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
かざしりぬ岩角いはかど
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
命婦みょうぶは贈られた物を御前おまえへ並べた。これがからの幻術師が他界の楊貴妃ようきひって得て来た玉のかざしであったらと、帝はかいないこともお思いになった。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
美女たをやめたもとつて、そでなゝめに、ひとみながせば、こゝろあるごとさくらえだから、花片はなびらがさら/\としろかざしはなかすめるときくれないいろして、そで飜然ひらりまつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
寝られぬ旅の情を遣らんと詩など吟ずる時、いなづま忽として起りて、水天一斉に凄じき色に明るくなり、千畳万畳の濤の頭は白銀のかざししたる如く輝き立つかと見れば
雲のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
張園のに桂花をかざしにした支那美人が幾輛となく馬車を走らせる光景。また、古びた徐園の廻廊に懸けられた聯句れんくの書体。薄暗いその中庭に咲いている秋花のさびしさ。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
白衫はくさん銀紗ぎんさ模様という洒落しゃれた丸襟の上着うわぎに、紅絞べにしぼりの腰当こしあてをあて、うしろ髪には獅子頭ししがしらの金具止め、黄皮きがわの靴。そして香羅こうら手帕ハンケチを襟に巻き帯には伊達なおうぎびんかざしには、季節の花。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くれないなる、いろいろの旗天をおおひて大鳥の群れたる如き、旗の透間すきまの空青き、樹々きぎの葉のみどりなる、路を行く人の髪の黒き、かざしの白き、手絡てがらなる、帯の錦、そであや薔薇しょうび
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やまぶきはからめかぬ花なり。籬にしたるは、卯の花とおもむき異にして、ゆかしさ同じ。八重ざきの黄なる殊に美し。あてなる女の髪黒く面白きが、此の花をかざしにしたる、いと美はし。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
びんかざしを重たげに、婆惜はかしらを下げ、張三もいんぎんに礼をしたが、年ばえから見ても、この二人の対比は、一ついの美男美女であったばかりでなく、婆惜のひとみには、張三を見たとたんに
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と押える手に、かざしを抜いて、わななく医学生のえりはさんで、恍惚うっとりしたが、ひとみが動き
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ですかい、」と言いつつ一目ひとめ見たのは、かしら禿かむろあらわなるものではなく、日の光す紫のかげをめたおもかげは、几帳きちょうに宿る月の影、雲のびんずらかざしの星、丹花たんかの唇、芙蓉ふようまなじり、柳の腰を草にすがって
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襟は藤色で、白地にお納戸で薩摩縞さつまじま単衣ひとえ、目のぱッちりと大きい、色のくッきりした、油気の無い、さらさらした癖の無い髪をせなへ下げて、蝦茶えびちゃのリボンかざりかざしは挿さず、花畠はなばたけ日向ひなたに出ている。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)