百足むかで)” の例文
畠へ出れば出るで、どこの藪蔭にも石の下にも百足むかでだのさそりだの蛇だのがうじゃうじゃしている。さて畠の向うはといえば山と荒野だ。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ほほ、ごめんあそあせ、貴方には百足むかでちがいという綽名あだながあるそうですけれど、それはどういう故事から出たのでございますか」
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「松明仕掛けの睡り薬で参らすんだ。その作り方は、土龍もぐら井守いもり蝮蛇まむしの血に、天鼠、百足むかで、白檀、丁香、水銀郎の細末をまぜて……」
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
いま十郎兵衛が、この疵を見ていると、だんだんそれが、切込みではなくて、刃切れも刃切れ、百足むかでしなんのように思えてきた。
寛永相合傘 (新字新仮名) / 林不忘(著)
紙鳶のある物は、長い袖を風にハタハタさせる子供の形、ある物は両翼を張った烏、また百足むかで、扇その他の面白い形をしている。
その時、すでにうしろのほうからは、百足むかでのようにつらなった松明たいまつが、山峡やまあいやみから月をいぶして、こなたにむかってくるのが見えだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さながら百足むかでの這うかのように蜒々えんえんたる一条の火の帯が南に向かって拡がり群がり、打ち鳴らす太鼓、吹き立てる貝、堂々として押して行く。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、足先からかう百足むかでにでも這はれてゐるやうな戰慄が總身に傳はつて來て、頭の中がぐらぐらしてくるやうな、厭な氣持に襲はれたのだつた。
疑惑 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「蝶々や蜻蛉とんぼならよござんすけれど、蛇だの百足むかでだの金ぶんぶんまでお友達かなんかのように思っているんですもの。」
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
紫の大納言は、二寸の百足むかでに飛び退いたが、見たこともない幽霊はとんと怖れぬ人だったから、まだ出会わない盗賊には、おびえる心がすくなかった。
紫大納言 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
じゅうのなかは肴であるそうである。やがて、博士は重箱の蓋をとった。みると、先だっての話の、ザザ虫の佃煮だ。ザザ虫ばかりではない、川百足むかでもいる。
ザザ虫の佃煮 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
新らしい陶器やきものを買っても、それをこわして継目つぎめを合せて、そこに金のとめかすがい百足むかでの足のように並んで光らねば
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
使者つかひしめ百足むかでだとふから百足むかで幾千疋いくせんびきるか知れねえから、きんの足がくらゐあがるかしれねえとおもふのさ。
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
おれはある時、百足むかでにかまれて二週間ほど熱を出して寝こんだことがあった。ところが、その百足が、意地の悪い毒虫め、ちくりとおれの心臓を刺したんだよ。
蟷螂かまきりや、けら、百足むかで、蜂、蜘蛛等がおびたゞしく居りました。土蜘蛛と申しまして木の根や垣根などに巣の袋をかけて置きましたが、鉱毒地には、只今一切居りませぬ。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
信玄は陣形を十二段に構え、迂廻軍の到着迄持ちこたえる策をとり、百足むかでの指物差した使番衆を諸隊に走らせて、諸隊その位置をなるべく保つようにと、厳命した。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
三上みかみ山の百足むかでを退治した時代には、近江に近い山城の田原に住んでいて、藤原家であるところから田原たわら藤太とうだ秀郷と称していたが、その生国は下野しもつけであったために
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
が、髪の根にうごめいてゐるのは、小さな虱と思ひの外、毒々しい、銅色あかがねいろの、大きな百足むかでばかりであつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その他肥えたるいのこあり、喪家そうかの犬のせたるあり。毛虫、芋虫、うじ百足むかで、続々として長蛇のごとし。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
絛虫さなだむしは何れ位長いものかと思って、瓶の中から出して見た。三上山みかみやま百足むかでじゃないが、全く長いものだ。室を一周回ひとまわり取巻いても未だ余ってる。絨毯が台なしになった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
人気の少い御殿では時々大きい百足むかでが廊下を這っていることがある。女中達は驚いて声を立てながら、手燭を持ってきてその百足を火箸で押えて、油の罎へ入れては殺した。
御殿の生活 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
汽車が百足むかでの樣に隧道を這ひ出して來て、此停車場に一息つくかと思ふと、またぞろぞろ這ひ出して、今度は反對の方に黒く見えて居る隧道の孔に吸はるる樣に入つて行く。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
汽車が百足むかでの様に隧道をい出して来て、此停車場に一息ひといきつくかと思うと、またぞろぞろ這い出して、今度は反対の方に黒く見えて居る隧道のあなわるゝ様に入って行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この辺は大きい百足むかでの多いところで、時々それに刺されて大騒動することがあったのです。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ドス黒い血の色に染まったあまのりのくさむら、赤毛の女が髪をふり乱した姿の牛毛海苔、にわとりの足の形のとりのあし、巨大な赤百足むかでかと見ゆるむかでのり、中にも一際ひときわ無気味なのは
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やがて、百足むかでを追い毒蛇を避けながら、“Niningoニニンゴオ”の大湿地へ出たのだった。
「太平洋漏水孔」漂流記 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私は百足むかでが厭だとか蛇が大嫌いとか、なめくじが嫌だとか毛むしあるいはいもむし、といろいろある、これも、よく考えて見ると何も毛虫やいも虫が、人間を食い殺すものでもなし
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
脚の代りに思想をもった、一種の知的百足むかでで見ているとむずがゆくなるような人々。
彼の家の庭に這入はいつた時には、あの松と桜とにああまで執念しふねん深く絡みついて居た藤蔓は、あの百足むかでの足のやうな葉がしをれ返つて、或る部分はもうすつかり青さを失うて居るのであつた。
大きな百足むかでが畳の上をさらさらと音を立てて横ぎり、縁側の方へ逃げました。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
百足むかで凧と称する奇怪なかたちの凧は、殆ど人に知られてゐないらしい。
山峡の凧 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
斯う考えた時、藤次郎は百足むかででもふみつけたような気持に襲われた。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
それから三上山みかみやま、近江富士ともいう、田原藤太が百足むかでを退治したところ——浅井長政の小谷おだにの城、七本槍で有名なしずたけ。うしろへ廻って見給え、これが胆吹の大岳であることは申すまでもあるまい。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どうしたんだい。百足むかででも刺したんか」
月涼し百足むかでの落る枕もと 之道
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
百足むかでちぎれば
聖三稜玻璃:02 聖三稜玻璃 (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
穴の口から大きな有毒の百足むかでがはい出して来たというではないか! 私はつばの広い帽子をかぶり、すべすべした護謨外套ゴムマントを着ていたが
百足むかでの旗さし物を背にさした騎馬武者が幾人も、味方の諸部隊へ馳けわかれて、その陣地陣地へ、火のつくように告げていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、はやだらしなく涎を垂れたのを見て、佐助は、この醜怪なる老人が蛇の頭を噛る光景は、冬の宿の轆轤ろくろ首が油づけの百足むかでをくらうくらいの趣きがあろうと
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
十二月極寒の西伯里シベリアを、巨大なインターナショナル・ツレーンは、吹きつける吹雪を突き破り百足むかでのような姿をしてオムスク指してはしっている。しかし室内は暖かい。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
川虫には、ひらたい草鞋わらじのような形をしたのもあれば、百足むかでのような姿をしたのもある。また挟み虫のようで、黄色いのもある。これは、いずれもかげろうの幼虫であろう。
ザザ虫の佃煮 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
ある晩寝ています時、吉ちゃんが、百足むかでが半分にちぎられた時の様に、本当に、無茶苦茶にはね廻りました。あんまりひどくあばれるので、病気になったのかと思った位です。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
百足むかでであるとか、猿であるとか、鷲であるとか、気の利いた山の神ではなかった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
が、実は蛇ばかりか、蜥蜴とかげでも百足むかででも、おびえそうな、すわらない腰つきで
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その円の周囲には、短い線条が百足むかでの足のような形で群生している。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これはすべて横にある焼疵で、一つでも結構ありがたくないが、こいつがいっしょに幾つもあると、それを百足むかでしなんと呼んで、ことある際に折れるかもしれぬとあってもっとも忌みきらったものだ。
寛永相合傘 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「実に吃驚しました。火と分っていれば然うでもありませんが、最初は王侯貴人の中に百足むかでが紛れ込んでいたと思ったんです。百足には子供の時食いつかれた覚えがありますが、全くその通りでした」
社長秘書 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「あれだあれだ、あれだよ、百足むかでちがい」
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
百足むかで ちつとは足でも歩いて見ろ。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
よが蚊に負けな、へび百足むかでにまけな
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)