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爛熟
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らんじゅく
ふりがな文庫
“
爛熟
(
らんじゅく
)” の例文
常子がけげんな顔で聞耳をたてているうちに、ドタバタ騒ぎはいよいよ
爛熟
(
らんじゅく
)
して、駆けまわる足音に猿の叫び声までまじっている。
蝶の絵
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
都心の下層部もまたそうだが、もう都会中心の
爛熟
(
らんじゅく
)
は、このへんでたくさんだとさえ思いたくなる。これ以上はまあ道路でもよくすればだ。
文化の日
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
健三はちょっと振り返って細君の
余所行姿
(
よそゆきすがた
)
を見た。その
刹那
(
せつな
)
に
爛熟
(
らんじゅく
)
した彼の眼はふとした新らし味を自分の妻の上に見出した。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
御二方が
統
(
す
)
べ給うておられた天平のみ代は、云うまでもなく我が民族の生命力が思いきって開花
爛熟
(
らんじゅく
)
したような時代であった。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
このデカダン興味は江戸の文化の
爛熟
(
らんじゅく
)
が産んだので、江戸時代の
買妓
(
ばいぎ
)
や蓄妾は必ずしも
淫蕩
(
いんとう
)
でなくて、その中に極めて詩趣を
掬
(
きく
)
すべき情味があった。
淡島椿岳:――過渡期の文化が産出した画界のハイブリッド――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
▼ もっと見る
しかし、徳川文明の
爛熟
(
らんじゅく
)
の結果、でかたんになった文化の昔、伊勢のお百姓の娘にそれをのぞむのは無理であろう。
旧聞日本橋:20 西川小りん
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
朝から、姫の白い額の、故もなくひよめいた長い日の、
後
(
のち
)
である。二上山の峰を包む雲の上に、中秋の日の
爛熟
(
らんじゅく
)
した光りが、くるめき出したのである。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
梅八は江戸文化の
爛熟
(
らんじゅく
)
末期から衰退期にかけて、その文化がもっとも端的に集約される世界で生きてきた。
新潮記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
野も、畑も、緑の色が、うれきったバナナのような酸い匂いさえ感ぜられ、いちめんに春が
爛熟
(
らんじゅく
)
していて、きたならしく、青みどろ、どろどろ溶けて
氾濫
(
はんらん
)
していた。
八十八夜
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
文化の
爛熟
(
らんじゅく
)
による人間の官能と情感がいやが上にも発達し、現実的には高度の美意識による肉的なものを追ひ求める一方、歓楽極まつて哀愁生ずる
譬
(
たと
)
へ通り、人々
老主の一時期
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
つまり美のあらゆる範疇を日本美の健康性と清浄性とによって起死回生せしめねばならないのである。当今世界の近代美は
爛熟
(
らんじゅく
)
と
廃頽
(
はいたい
)
と自暴自棄とに落ち込んでいる。
美の日本的源泉
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
王子のお滝という、名題の女
巾着切
(
きんちゃくきり
)
、二十四五の豊満な肉体と、
爛熟
(
らんじゅく
)
し切った
媚態
(
びたい
)
とで、重なる悪事をカムフラージュして行く、その道では知らぬ者のない
大姐御
(
おおあねご
)
です。
銭形平次捕物控:063 花見の仇討
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
これは形が
爛熟
(
らんじゅく
)
して、精神が消えてしまったのだ。舞踊の起った最初の歓喜の心を忘れて、末の形に走るようになったから、今、都の踊りに、見られた踊りは一つもない。
大菩薩峠:25 みちりやの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
黒繻子
(
くろじゅす
)
の
襟
(
えり
)
のかかった着物を着て水茶屋の
暖簾
(
のれん
)
のかげに物思わしげな女のなまめかしさ。極度に
爛熟
(
らんじゅく
)
した江戸趣味は、もはや行くところまで行き尽くしたかとも思わせる。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
まだ
鬚
(
ひげ
)
の生えない高等学校の生徒を
相
(
そう
)
して、「あなたはきっと晩年のギョオテのような
爛熟
(
らんじゅく
)
した作をお出しになる」なんぞと云うのだが、この給仕頭の
炬
(
きょ
)
の
如
(
ごと
)
き眼光を
以
(
もっ
)
て見ても
世界漫遊
(新字新仮名)
/
ヤーコプ・ユリウス・ダビット
(著)
けれども異国語の難関をのり越え、
爛熟
(
らんじゅく
)
した生活感情を
咀嚼
(
そしゃく
)
してまで、老大国の文学を机辺の風雅とすることは、あまりに稚い民族には、いまだ興り得ない、精神の
放蕩
(
ほうとう
)
であった。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
白ギスに使うイトメの
爛熟
(
らんじゅく
)
してウミのようなドロドロしたのをバチが抜けるという。
江戸前の釣り
(新字新仮名)
/
三遊亭金馬
(著)
あのときの若さと堅さとにくらべて、
妖
(
あや
)
しいばかり、
爛熟
(
らんじゅく
)
したものを感じさせる。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
そこは、
年増
(
としま
)
だ、
爛熟
(
らんじゅく
)
のお初だ——じりじりと、妄念という妄念を、胸の奥で、沸き立てて見たあとは、そのほとばしりで、相手のからだをも、焼き焦がして見ずにはいられなくなる。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
その
裡
(
うち
)
に、花が咲いたと云う消息が、都の人々の心を騒がし始めた。
祇園
(
ぎおん
)
清水
(
きよみず
)
東山
(
ひがしやま
)
一帯の花が
先
(
ま
)
ず開く、
嵯峨
(
さが
)
や
北山
(
きたやま
)
の花がこれに続く。こうして都の春は、
愈々
(
いよいよ
)
爛熟
(
らんじゅく
)
の色を
為
(
な
)
すのであった。
藤十郎の恋
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
絵画陳列室の金色の
埃
(
ほこり
)
、
燦然
(
さんぜん
)
たる
爛熟
(
らんじゅく
)
せる色彩の庭、画面の立ち並んだ牧場、しかも空気の不足してるそれらの中にあって、クリストフは熱に浮かされ、半ば病気の心地だったが、はっと心打たれた。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
そこの都市文化はあまりに早、
爛熟
(
らんじゅく
)
を呈し、人は
驕
(
おご
)
り、役人は
賄賂
(
わいろ
)
を好み、総じて唯物的風潮がみなぎっている。果たせる
哉
(
かな
)
。
三国志:08 望蜀の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
余は
病
(
やまい
)
に
因
(
よ
)
ってこの
陳腐
(
ちんぷ
)
な幸福と
爛熟
(
らんじゅく
)
な
寛裕
(
くつろぎ
)
を得て、初めて洋行から帰って平凡な米の飯に向った時のような心持がした。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
頭上
(
ずじょう
)
の騒動はいよいよ
爛熟
(
らんじゅく
)
し、ポルトガル人の
叱咜
(
しった
)
する声にまじって、帆柱の倒れる音や重いものを曳きまわす音、
大鋸
(
おおが
)
で木を挽く音、手斧で打ち割る音
呂宋の壺
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
飛鳥
(
あすか
)
白鳳
(
はくほう
)
を通して次第に
爛熟
(
らんじゅく
)
し
来
(
きた
)
った民族の生命力が、聖武天皇において満ちあふれ、結晶し、思いきって咲き乱れたということ、この生命力を自らのいのちとし
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
果報者の本多忠刻を、三十一歳で
夭死
(
わかじに
)
をさせた後の
爛熟
(
らんじゅく
)
しきった若い未亡人の乱行。
大菩薩峠:22 白骨の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
顔全体には、
爛熟
(
らんじゅく
)
した文明の婦人に特有な、
智
(
ち
)
的な輝きがあった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
上層の驚かないのと、彼等の驚かないのとは、質はちがうが、いずれにしても、京都のもっている
爛熟
(
らんじゅく
)
、
懶惰
(
らんだ
)
、
軽佻
(
けいちょう
)
の空気はすこしも
革
(
あらた
)
まらない。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
宴はいよいよ
爛熟
(
らんじゅく
)
し、主従同列に盃を舞わして、歓をつくしているうちに、首席国家老の川合
蔵人
(
くらんど
)
だけは、盃もとらず、苦虫を噛んだような渋っ面で腕あぐらをかいて、むっつりと控えている。
無惨やな
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
けれど、過度な文化の
爛熟
(
らんじゅく
)
と一部の繁栄には、必ずその下層に、それだけの奴隷力が、
喘
(
あえ
)
いでいるにきまっています。
随筆 新平家
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
淀君の生活は、彼女とは反対に、それから
遽
(
にわか
)
な
爛熟
(
らんじゅく
)
を迎えた花のように咲けるだけ狂い咲きに咲いて、そして、
元和
(
げんな
)
元年の夏の陣に、大坂落城の
炎
(
ほのお
)
に散った。
日本名婦伝:太閤夫人
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
脆弱
(
ぜいじゃく
)
な文化や、
爛熟
(
らんじゅく
)
しすぎた知性には、
逞
(
たくま
)
しい野性を配することが、本来の生命力を復活するひとつの方法だし、また、余りに粗野で豪放にすぎる野性にたいしては
新書太閤記:05 第五分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
近頃のように
爛熟
(
らんじゅく
)
した中央の文化と小役人までが皆、平家の係累をひく者に満たされて、華美に過ぎてむしろ
繊細
(
せんさい
)
なもののみを病的に愛する官能には、北条家のむすめ達など
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そんな
爛熟
(
らんじゅく
)
末期の相は、
汴梁
(
べんりょう
)
東京
(
とうけい
)
の満都の子女の風俗にさえ目にあまっていた。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
蝦夷
(
えぞ
)
ノ乱、地頭のわがまま、百姓の不平、府内の過度な
爛熟
(
らんじゅく
)
と士風の
廃
(
すた
)
れ、それにまた、高時の遊楽
三昧
(
ざんまい
)
やら、権力の座をめぐる暗闘やら、山ほどな理由もかぞえられるが、それはみな
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
何もかも放漫にまかせていた斎藤家時代の
爛熟
(
らんじゅく
)
だけを
称
(
たた
)
えて——それがゆえに、その斎藤家は三族までも滅び、城下の民も共に、外敵の侵攻と兵火のくるしみをあの如くうけて、今もなお
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一つの世界では、
爛熟
(
らんじゅく
)
が早い、腐敗に陥りやすい、人間の闘争本能の吐け口が
内訌
(
ないこう
)
する、予測せぬ不満がまた起るでしょう。そしてついに再び
自潰
(
じかい
)
を起し、また再分裂の作用をかもし出す。
新書太閤記:11 第十一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかしその統一本能が実現されても、ひとつなるものは極めて文化の
爛熟
(
らんじゅく
)
から
廃頽
(
はいたい
)
への過程が早く、また忽ち、分裂を起しにかかる。しかも、その再分裂作用もまた本能的に不可避なのである。
新書太閤記:10 第十分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
藤原氏が
政
(
まつり
)
の権を執っていたが、文化的には功績を残しても、その文化はやがて
頽廃的
(
たいはいてき
)
な
懶惰
(
らんだ
)
と
爛熟
(
らんじゅく
)
の
末期
(
まつご
)
を生んできたばかりか、藤原一門自体が、ただ自己を栄華し、私腹をこやし、この世は
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
夏めく南風にも
欠伸
(
あくび
)
が出、
爛熟
(
らんじゅく
)
した花鳥もいたずらに
倦怠
(
けんたい
)
です。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“爛熟”の意味
《名詞》
爛熟(らんじゅく)
果実が熟れすぎること。
社会や文化などが極限まで発達し、腐敗や衰退のきざしすら感じさせること。
(出典:Wiktionary)
爛
漢検1級
部首:⽕
21画
熟
常用漢字
小6
部首:⽕
15画
“爛熟”で始まる語句
爛熟期
爛熟頽廃