海風かいふう)” の例文
唱一語しやういちご以てわがこの思ひを言ひあらはさむすべもがな。かくて月あかき一夜、海風かいふうに向ひて長くうそぶかなむ。わが胸のいかばかりかるかるべき。
清見寺の鐘声 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
いまとほからず橄欖島かんらんたうのほとりで櫻木大佐さくらぎたいさ對面たいめんし、それより本艦ほんかん」と櫻木大佐さくらぎたいさ電光艇でんくわうていとが舳艫じくろあひならんで颯々さつ/\たる海風かいふう帝國軍艦旗ていこくぐんかんきひるがへしつゝやが
その男は、盲縞めくらじまのつかれたあわせに、無造作に帯を巻きつけ、よもぎのような頭の海風かいふうに逆立たせて、そのせいか、際立って頬骨ほほぼねの目立つ顔を持った痩身そうしんの男であった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
東岸一帯は小高いおかをなしておのずから海風かいふうをよけ、幾多の人家は水のはたから上段かけて其かげむらがり、幾多の舟船は其蔭に息うて居る。余等は弁天社から燈台の方に上った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たった一人逗子ずし海風かいふうとコルドヴァの杏竹桃きょうちくとうとを夢みている、お君さんの姿を想像——畜生、悪意がない所か、うっかりしているとおれまでも、サンティマンタアルになり兼ねないぞ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人車じんしや徐々じよ/\として小田原をだはらまちはなれた。ぼくまどからくびしてる。たちまちラツパをいさましくてゝくるま傾斜けいしやぶやうにすべる。そら名殘なごりなくれた。海風かいふうよこさまにまどきつける。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そののことであります。このまちから火事かじて、おりしもつのった海風かいふうにあおられて、一軒けんのこらずきはらわれてしまいました。いまでも北海ほっかい地平線ちへいせんにはおりおりくろはたえます。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は甲板の腰掛こしかけに腰をおろして海風かいふう衣袂いべいひるがえすに任している。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かの海風かいふうは 鰯雲は高くきたるかな……
一点鐘 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
今日も海風かいふうは相当に強く、時々言葉が吹きとばされることがあったが、ようやく夕焼もうすれ、すすめられるままに、太郎岬の上にある、という彼の家を訪れることを決心した。それは
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
艇尾ていびにはいろ淺黒あさぐろく、虎髯こぜん海風かいふうかせたる雄風ゆうふう堂々どう/″\たる海軍大尉かいぐんたいゐあり、舵柄だへいにぎれるのばして、『やゝ、貴下等きから日本人につぽんじんではないか。』とばかり、わたくし武村兵曹たけむらへいそうおもて見詰みつめたが
そのかたはらには、日出雄少年ひでをせうねんは、れい水兵すいへい姿すがたで、左手ひだり猛犬まうけん稻妻いなづま」の首輪くびわとらへ、右手ゆんで翩飜へんぽん海風かいふうひるがへる帝國軍艦旗ていこくぐんかんきいだいて、そのあいらしい、いさましいかほは、莞爾につこ此方こなたあほいでつたよ。