沈澱ちんでん)” の例文
これは温泉から沈澱ちんでんしたのです。石英です。岩のさけ目を白いものが埋めてゐるでせう。いゝ標本です。〕みんなが囲む。水の中だ。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
小麦粉をよく水で練りあげ、袋に入れ揉むと白い水が出る、それを沈澱ちんでんさせたうえ、壺に入れて日蔭の土に壺の半分を埋めて貯える。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼らしい新味ある施政と威令とは、沈澱ちんでん久しかった旧態を一掃して、文化産業の社会面まで、その相貌そうぼうはまったくあらたまってきた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太平洋の深海は、六千メートル以上の深さで、陸地から来る泥土は、大陸棚とその周辺に沈澱ちんでんしてしまうので、こういう深いところまでは届かない。
比較科学論 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
呼吸をするたびに、その胸の線がまるで白鳥の胸のやうに豊かにふくらんだ。膏脂こうしが体内に沈澱ちんでんして何か不思議な重さで彼女自身をものうくした。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
あたかもある化学的反応体が混沌たる混和物の上に働いて、一の原素を沈澱ちんでんさせ他の原素を清澄ならしむるがような作用を及ぼしたのである。
その濁りと云うもののうちには、種々のみ入った、分析し難い物があるのを、かれこれの別なく、引きくるめて沈澱ちんでんさせてしまったのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
年久しい言い伝えの沈澱ちんでんしたものがあったために、とくに一般の印象を強め、記憶を容易にしたものかとも推測せられる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
枠の中の白い水が、蒸籠せいろうのように作ってあるすだれの底へ紙の形に沈澱ちんでんすると、娘はそれを順繰りに板敷に並べては、やがてまた枠を水の中へ漬ける。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いやおよそ、あの部屋にいた連中は皆、闇黒あんこくの中に沈澱ちんでんしていたのだ。誰も視力を奪われていた。暗闇で延髄えんずいを刺すということは、誰にも出来ない筈だ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仲々恋とか愛とかいう、感情に引掛る程度の美しさでは無い。むしろそういう感情を沈澱ちんでんさせてその上に澄む生命の上水を汲まして頂ける美しさなのだ。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
苦痛を苦痛でまぎらすように私はお前にすがるのだが、それも結局、お前と私の造り出す地獄の騒音によって、古沼のような沈澱ちんでんの底を探りたい念願に他ならぬ
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
この色彩は画面を洗ひし水桶みずおけの底に沈澱ちんでんしたる絵具を以て塗りたる色の如くむしろ色と呼ばんよりは色なる感念かんねんを誘起せしむる色づきし雲の影とやいはん。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
世代の荒浪と擾乱じょうらん馳駆ちくに揉まれて、十世のあいだ安泰につづいていたこの目立たない小藩主の血には、無視されたと知るたびに重く沈澱ちんでんする意志があった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そして疲れた頭が沈澱ちんでんして来ると、そこにいろいろ始末をしなければならぬ退院後の仕事が思い浮んで来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大根だいこんは、一たん地上ちじやうみどりうばうて透徹とうてつしたそら濃厚のうこうみどり沈澱ちんでんさせて地上ちじやういた結晶體けつしやうたいでなければならぬ。晩秋ばんしう只管ひたすらしづまうとのみしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかれども彼が沈澱ちんでん腐敗せる連歌を蕩揺とうようして他日一新の機を与へたる功は、俳諧史上特に書すべき価値あり、随つて彼らの俚野りやなる句もまた一読せざるべからず。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
人間を見損みそくなったのは、自分でなくて、かえってお延なのだという断定が、時機を待って外部に揺曳ようえいするために、彼の心に下層にいつも沈澱ちんでんしているらしかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いかにかれは零落するとも、都の巷に白馬どぶろくを命として埃芥あくたのように沈澱ちんでんしてしまう人ではなかった。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ひどくれて水れになる由(壺井さんのマアちゃんが、何かの試験で腕が膨れて痛くて動かせないと云っていたのは、このことでした。)赤沈(赤血球の沈澱ちんでんによって見る)は三〇。
(11)鉱物を溶解するときに炉床または坩堝るつぼの底に沈澱ちんでんするもの。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
... 施しましょう。オヤオヤ今の蛋白質が段々底の方へ沈澱ちんでんしますね、こうした醤油は食べるのに差支さしつかえありませんか」お登和「別に差支ありません。一度湯煎ゆせんにしたのは長く置いてもカビが生えません」大原「そうですか。こう手軽に検査が出来れば狡猾こうかつな商人に偽物にせものを ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
これは温泉から沈澱ちんでんしたのです。石英せきえいです。岩のさけ目を白いものがめているでしょう。いい標本ひょうほんです。〕みんながかこむ。水の中だ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いいかね、その試験管の底に沈澱ちんでんしている胎児は、その男と、あの可憐かれんなる少女とが、おのれの血と肉とを共に別けあって生長させた彼等の真実の子供なのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何にも停滞ていたいしておらん。随処ずいしょに動き去り、任意にんいし去って、塵滓じんしの腹部に沈澱ちんでんする景色けしきがない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
各〻めいめいが各〻の臆測おくそくやら前後の対策に、大なり小なり必死に考えこんで、沼のようにす黒く沈澱ちんでんしているここの空気とひきかえて、御用部屋の方では、内蔵助を中心に、算盤そろばんの音だの
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのかげりが現れている期間は、お白粉しろいを濃くすると、斜めに光線を透かした時に、かえって真っ白な地肌じはだの下に鉛色の部分がくっきり沈澱ちんでんして見えるので、むしろその期間はお白粉を薄くして
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして今行こうとしている町の静けさと自由さが、沈澱ちんでんしたような頭に少しずつはっきりして来た。どこへ旅しても、目は始終人や女の影を追うていた七、八年前の心持が、今と比べて考えられた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ひとりでに沈澱ちんでんするようにここに棲みついた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
その中には薄く酸化鉄が沈澱ちんでんしてあたりの岩から実にはっきりしてゐました。たしかに足痕が泥につくや否や、火山灰がやって来てそれをそのまゝ保存したのです。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その早暁そうぎょう、まだ明けやらぬ上海シャンハイの市街は、豆スープのように黄色く濁った濃霧の中に沈澱ちんでんしていた。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふしぎにも、この妻女山の兵には、そんな沈澱ちんでんは見えなかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中にはうす酸化鉄さんかてつ沈澱ちんでんしてあたりの岩から実にはっきりしていました。たしかに足痕がどろにつくやいなや、火山灰がやって来てそれをそのまま保存ほぞんしたのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
事件の底になお消化しきれない或るものが沈澱ちんでんしているような気がしてならなかった。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは一種かんばしいような、そして官能的なところもある悪臭だった。彼は歩いているうちに、臭気がたいへん濃く沈澱ちんでんしている地区と、そうでなく臭気の淡い地区とがあるのを発見した。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
火山れきよる沈澱ちんでん
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)