気質きだて)” の例文
旧字:氣質
あねは、気質きだてのきわめてやさしい人柄ひとがらでありまして、すぐになみだぐむというほうでありましたけれど、あまりかおうつくしくありませんでした。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その男は少し馬鹿のようではあったが、正直で優しい気質きだてを有っていた。池田が頂きの三角点の石に腰を下している傍に立って
恨なき殺人 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
しかし、この執着は、お蔦の美や気質きだてにあるのではなく、お蔦の持つ肌と唇にあるのだと気づくと、彼は、人知れず、焦々いらいらして
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに気質きだてがまことに柔和すなおで、「綺倆きりょう千両、気質が千両、あとの千両は婿次第」と子守女が唄うている位で御座いました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
青戸の在の左官の妹でありながらおすみは、圓太郎とは比べものにも何にもならないほど凜とした気質きだてのおんなだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
彼女はほんとうに真菰まこもの中に咲く菖蒲あやめだった。その顔があどけなく愛くるしいように、気質きだても優しくて、貞淑だった。
愛の為めに (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
気質きだてのやさしい香織かおりたいへんその子供達こどもたち可愛かわいがって、三浦みうらへまいるときは、一しょつれたことも幾度いくたびかありました。
きさまの母親はな。顔も気質きだてきさまて、やっぱりおれの言うことを聞かなかったから、毒を飲まして得三が殺したのだ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気質きだてのよいラインハルト夫妻は、自分らの積極的な友情を示すために、もっと微妙な方法を見出すことができた。
成績もクラス一だし、気質きだても良く、級友たちから敬愛の的にされていた。それだけにまた一方の友達からは
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
肥った、唇のつき出たその子は、あまり怜悧りこうそうではありませんでしたが、気質きだては大変よさそうに見えました。亜麻色の髪をかたく結び、リボンをつけていました。
お光さんは器量もよし気質きだても優しいし、家に田地でんちもだいぶあるし、その上家と家との今までの関係もあることだから、そうしたら双方ともつごうがよいだろうと書いて
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
随分前からのお馴染で、気質きだてもよく分ってるつもりでしたのに……。少し変だと思ったのは、つい近頃のことで、それも、実は、あたしの方が変だったのかも知れません。
千代次の驚き (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
けれども、の奥様は大層お優しい方で、わがうみの児よりも継子ままこの御総領の方を大層可愛がって、にいう継母ままはは根性などと云う事は少しもない、誠に気質きだての美しい方でした。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三河屋の仕事をして多少生計くらしが楽になった時でありましたから、大変家の貧乏だった煎餅屋の悴を弟子に取るだけのことも出来ました訳……長次郎は至って気質きだておとなしい男で
呂昇が堀川のお俊や、酒屋のお園や、壺坂つぼさかのお里を語るは、自己を其人にたくするのだ。同じ様な上方女かみがたおんな、同じ様な気質きだての女、芸と人とがピッタリ合うて居るのだ。悪かろう筈がない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お母さんは永年お民さんをかわいがって御いでですから、お民さんの気質きだては解って居りましょう。私もこうして一年御厄介になって居てみれば、お民さんはほんと優しい温和おとなしい人です。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
取り分け職人仲間の中でも世才に疎く心好き吾夫うちのひと、腕は源太親方さへ去年いろ/\世話して下されしをりに、立派なものぢやと賞められし程確実たしかなれど、寛濶おうやう気質きだて故に仕事も取りはぐり勝で
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
亜麻色の髪をしてひとみの澄んだそして非常に学課のよくできる、優しい気質きだての子であったが、この女の子が女生徒側の首席であり、私が男生徒側の一番であったせいか、学校でも家へ帰ってからも
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
チャラピタは正直で、優しい気質きだての人でした。小さいときから、親しい友達のキクッタが余りずるいので、一時は怒つたのでしたが、今からびをいはれると、すつかり心がとけてしまひました。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
人間というものは、顔によって、こんなに気質きだてが変るものであろうか。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「危険な人ね、あなたは。殿様よりすぐれた風采ふうさいの方がどこにあるものですか。お顔はまあともかくも、お気質きだてなり、御様子なりすばらしいのは殿様ですよ。何にしてもお姫様はどうおなりあそばすかしら」
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
然し気質きだては優しい方だし
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
だから、ここではいいあきないも出来たが、来始めの二、三年は、この土地の人間の気質きだてというものが分らなくて、清吉はに取られてばかりいた。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第一そんな安店に、容色きりょうと云い気質きだてと云い、名も白露で果敢はかないが、色の白い、美しいおんなが居ると云っては、それからが嘘らしく聞えるでございましょう。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子供に向ってもがみがみ叱る性質たちで、一人の清吉という息子があったが、母親の気質きだてに似ないで、父親のように黙言だんまりな、少しぼんやりとした大柄な子供であった。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こまやかな顔色のあざやかさと気質きだてのよさそうな様子とのために、かわいらしく見えるはずだったが、ただ、鼻が少しいかつくてすわりぐあいが悪く、顔つきに重苦しい感じを与え
直記と誠之進とは外貌がいぼうのよく似ていた如く、気質きだても本当の兄弟であった。両方に差支さしつかえのあるときは特別、都合さえ付けば、同じ所に食っ付き合って、同じ事をして暮していた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほんとうは私、ちっともいい気質きだてじゃアないのでしょうけど、お父様は何でも下さるし、皆さんは親切にして下さるんですもの、気質がよくなるより他ないじゃアありませんか。
「……気質きだても素直だし、顔もよい方だし、肌も綺麗だし、旦那の一人や二人、出来ない筈はないんだが……。まったく、看板みたいなだ、どこか、足りないんじゃないかしら……。」
操守 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
取り分け職人仲間の中でも世才にうとく心好き吾夫うちのひと、腕は源太親方さえ去年いろいろ世話して下されしおりに、立派なものじゃとめられしほど確実たしかなれど、寛濶おうよう気質きだてゆえに仕事も取りはぐりがちで
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夏が来れば店先へ椽台えんだいなどを出し、涼みがてらにのんきな浮世話しなどしたもの……師匠は仕事の方はなかなかやかましかったが、気質きだては至って楽天的で、物に拘泥こうでいしない人であり、正直、素樸そぼく
……けれどもモヨ子は気質きだて温柔おとなしいままに結局、唯々いいとして新郎の命令に従う事になった。そいつを呉一郎の呉青秀は蝋燭の光りを便たよりにして土蔵の二階に誘い上げた……という順序になるんだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お粂よりは、二つも年上であるが、気質きだてもずっと明るく、世馴よなれてもいた。すらりと細腰の美人で
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
直記なほきと誠之進とは外貌のよく似てゐた如く、気質きだても本当の兄弟であつた。両方に差支のあるときは特別、都合さへ付けば、同じ所につ付き合つて、同じ事をして暮してゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いつかアメリア嬢が、ラヴィニアに、あまり育ち方が早いので、気質きだてまで変り出しているのだろう、といっていたことがありました。セエラはそれを思い出して、こう云ったのでした。
「へえ、あんなきゃん気質きだてのおかみさんでも、うらないなどを観てもらいに行きますかね」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御光さんは器量もよし気質きだても優しいし、うちに田地も大分あるし、其うへうちうちとの今迄の関係もある事だから、さうしたら双方共都合がいだらうと書いて、そのあとへ但しがきが付けてある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「近頃はまた、めッきりあでやかになって、水がしたたるようになった。みなが言うよ、花世どのは美しい、富武氏の娘御は気質きだてがよいとな。……む! そこで、前の話に戻って、名案という一件だが」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)