銭形平次捕物控:055 路地の小判 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
すこしも早く本望を遂げた上は、兵馬に然るべき主取りをさせて、自分もその落着きを楽しみたい心が歴々と見えることもある。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その座敷は庭に面していたので、夕闇の中に広い裏庭と、例の土蔵のはげ落ちた白壁の一部がぼんやり見えたが、庭にはやっぱり、無残に掘返したあとが歴々と残っていた。
その「わたし宮ですよ。」という、何とも言うに言えない句調が、私の心を溶かして了うようで、それを聞いていると、少し細長い笑窪の出来た、物を言う口元が歴々と眼に見える。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉―― (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私は今も歴々と覚えてゐる。私は十二月六日まで水風呂へはいつた。もう東京の街にはサイパンからのB29が爆弾を落しはじめてゐたのである。寒い朝だつた。
わが戦争に対処せる工夫の数々 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
銭形平次捕物控:001 金色の処女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
よってこのたびの流鏑馬の催しに、功名をわが手に納めんとの下心より、一層、当家に対して、腹黒き計略が歴々と見え透くようでござりまする。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
炭の赤々と燃えてゐる大きな支那火鉢の模様も、飾り棚の花瓶の模様も、本箱の本の名も歴々と頭に沁みて、恋の告白をするやうなとりのぼせた思ひがまつたくなかつた。
恋をしに行く(「女体」につゞく) (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「その内是非一つ行って見てやろう。」という心が歴々と見える。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
遠く離れていても歴々と読み取り得られるほどに鮮かに記されてあることです。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ちやうど中村地平と真杉静枝が遊びにきて、そのとき真杉静枝が、蜘蛛が巣をかけたんぢやないかしら、と言つたので、私は歴々と思ひだした。まさしく蜘蛛が巣をかけたのである。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)