ひら)” の例文
応接室に通されておよそ十五分ばかりも待ってると、やがて軽いくつの音が聞えてスウッとドアひらいて現れたのは白皙はくせき無髯むぜんの美少年であった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
車外しやぐわい猛獸まうじうは、る/\うち氣色けしきかわつてた。すきうかゞつたる水兵すいへいは、サツと出口でぐちとびらひらくと、途端とたん稻妻いなづまは、猛然まうぜんをどらして、彼方かなたきし跳上をどりあがる。
「飯を、飯を!」とをんなしつして、と奥の間の紙門ふすまひらけば、何ぞ図らん燈火ともしびの前に人の影在り。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
流鶯りゅうおう啼破ていは一簾いちれんの春。書斎にこもっていても春は分明ぶんみょうに人の心のとびらひらいて入込はいりこむほどになった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
時鳥ほとゝぎす矢信やぶみ、さゝがに緋縅ひをどしこそ、くれなゐいろにはづれ、たゞ暗夜やみわびしきに、烈日れつじつたちまごとく、まどはなふすまひらけるゆふべ紫陽花あぢさゐはな花片はなびら一枚ひとつづゝ、くもほしうつをりよ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
 一、日ごろは打絶えたる人の花に催されてなど打興じながら柴の戸をひらき入り来りたる。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
東海道のぼり滊車ぎしや、正に大磯駅を発せんとする刹那せつな、プラットホームににはかに足音いそがはしく、駅長自ら戦々兢々せん/\きよう/\として、一等室の扉をひらけば、厚き外套ぐわいたうに身を固めたる一個の老紳士
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
公子 (と押す、ドアひらきて、性急に登場す。おも玉のごとくろうけたり。黒髪を背にさばく。青地錦の直垂ひたたれ黄金こがねづくりのつるぎく。上段、一階高き床の端に、端然として立つ。)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手水場てうづば出来いできし貫一は腫眶はれまぶたの赤きを連𥉌しばたたきつつ、羽織のひもを結びもへず、つと客間の紙門ふすまひらけば、荒尾は居らず、かの荒尾譲介は居らで、うつくしよそほへる婦人のひと羞含はぢがましう控へたる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
傍聴席は人の山を成して、被告および関係者水島友は弁護士、押丁おうていらとともに差し控えて、判官の着席を待てり。ほどなく正面の戸をさっとひらきて、躯高たけたかき裁判長は入り来たりぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と答うれば、戸をひらきて、医師とともに、見も知らぬ男り来れり。この男は、扮装みなり、風俗、田舎漢いなかものと見えたるが、日向ひなたまばゆき眼色めつきにて、上眼づかいにきょろつく様、不良よからやからと思われたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)