トップ
>
抹
>
まつ
ふりがな文庫
“
抹
(
まつ
)” の例文
損といえば損な人、不徳といえば不徳な人、いずれにしても入道の心事には、寂しいものが一
抹
(
まつ
)
常に横たわっていた事は争えなかった。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あとには、一
抹
(
まつ
)
の土埃が細く揺れ昇って、左馬之介のおちた崖の端に、名もない雑草の花が一本、とむらい顔に谷をのぞいている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
汽船
(
きせん
)
がいくとみえて
水平線
(
すいへいせん
)
に、一
抹
(
まつ
)
の
煙
(
けむり
)
が
上
(
のぼ
)
り、
沖
(
おき
)
の
小島
(
こじま
)
には、
夜
(
よる
)
になると
煌々
(
こうこう
)
として
光
(
ひかり
)
を
放
(
はな
)
つ
燈台
(
とうだい
)
が、
白
(
しろ
)
い
塔
(
とう
)
のようにかすんでいます。
薬売りの少年
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
この曲には一点一画の無駄もなく、一
抹
(
まつ
)
一
朶
(
だ
)
の不足もない。達人ブラームスが技巧の粋を傾けて書いたと言ってもいい。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
焦慮
瘠身
(
そうしん
)
幾時間ののち、やがて、ミューレの
平場
(
プラトオ
)
へ届こうとするころ『グーテの
円蓋
(
ドオム
)
』の頂きに、ふと一
抹
(
まつ
)
の雪煙りが現われた。驚きあわてたガイヤアルが、その凶徴を指さしながら
ノンシャラン道中記:07 アルプスの潜水夫 ――モンブラン登山の巻
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
▼ もっと見る
恋愛は各人の
胸裡
(
きようり
)
に一墨痕を印して、
外
(
ほか
)
には見ゆ可からざるも、終生
抹
(
まつ
)
する事能はざる者となすの奇跡なり。然れども恋愛は一見して
卑陋
(
ひろう
)
暗黒なるが如くに其実性の卑陋暗黒なる者にあらず。
厭世詩家と女性
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
彼がはいって来る足音を聞いて、ぞっと身を震わした。その白い
頬
(
ほお
)
に一
抹
(
まつ
)
の赤味が上った。本能的な動作で、もってる品物を隠そうとした。そして当惑したような微笑を浮かべてつぶやいた。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
しかし、それとほとんど同じ瞬間に、彼の顔はまじめな、気がかりらしい表情になったばかりでなく、ラスコーリニコフの驚いたことには、なんとなく一
抹
(
まつ
)
の憂愁の陰すら帯びたかに見えた。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
その上かならず一
抹
(
まつ
)
の哀愁を帯びているものだ。
ヴェニスに死す
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
大事の
曙光
(
しょこう
)
に一
抹
(
まつ
)
の黒き不安を
捺
(
な
)
すってしまった! もし
向後
(
こうご
)
渭山
(
いやま
)
の城に妖異のある場合はいよいよ家中の者に不吉を予感さするであろう。
鳴門秘帖:04 船路の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
チョビ安は無言……お藤も、今はもう言葉もなく、うなだれているばかり、はだけた襟の白さが、この場の爆発的な空気に、一
抹
(
まつ
)
の色を添えて。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
平次は經机の上の
香爐
(
かうろ
)
に一
抹
(
まつ
)
の香を
捻
(
ひね
)
つて、暫らく拜んでから、靜かに娘の死骸に近づきました。
銭形平次捕物控:162 娘と二千両
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
正吉
(
しょうきち
)
は、こうして、
人間
(
にんげん
)
がことごとく
平和
(
へいわ
)
を
愛
(
あい
)
するなら、この
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
はどんなに
楽
(
たの
)
しかろうと
思
(
おも
)
いました。しかしこのとき、
彼
(
かれ
)
には一
抹
(
まつ
)
の
不安
(
ふあん
)
が、
心
(
こころ
)
にわき
上
(
あ
)
がったのです。
春はよみがえる
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
この夜の興味は
抹
(
まつ
)
すべからざる我生涯の幻夢なるべし。
三日幻境
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
一
抹
(
まつ
)
の浪しぶきが、横に砕けて舟影をくるんだかと思うと、どうなったか、その最後は分らずに、周馬の舟は
征矢
(
そや
)
のように流されていった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
孤独を訴える坤竜丸の
気魂
(
きこん
)
であろうか。栄三郎のうしろ姿には一
抹
(
まつ
)
のさびしさが蚊ばしらのように立ち迷って見えた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
さり氣ないうちに漂ふ一
抹
(
まつ
)
の怪奇さがあります。
銭形平次捕物控:001 金色の処女
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
宋憲は
欣然
(
きんぜん
)
と、武者ぶるいして、馬を飛ばして行ったが、敵の顔良に近づくと、問答にも及ばずその影は、一
抹
(
まつ
)
の赤い霧となってしまった。
三国志:05 臣道の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
武蔵太郎の
大鍔
(
おおつば
)
南蛮鉄、ガッ! と下から噛み返して、強打した金物のにおいが一
抹
(
まつ
)
の闘気を呼んで鼻をかすめる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
みるみるうちに、一
抹
(
まつ
)
の
水蒸気
(
すいじょうき
)
となって
上昇
(
じょうしょう
)
してゆく……そして
松並木
(
まつなみき
)
の
街道
(
かいどう
)
は、ふたたびもとののどかな朝にかえっていた。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
碧空
(
へきくう
)
をかすめた一
抹
(
まつ
)
の煙を見ると、盤河の畔は、みな袁紹軍の兵旗に満ち、
鼓
(
こ
)
を鳴らし、
鬨
(
とき
)
をあげて、公孫瓚の逃げ路を、八方からふさいだ。
三国志:03 群星の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
だが——しかもなおどこやらに、去りやらぬ一
抹
(
まつ
)
の
愁
(
うれ
)
いがともすれば沈みかけるのは、どうしようもないことだった。
上杉謙信
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
新城陥落の一報は、孔明の心に、一
抹
(
まつ
)
の悲調を投げかけた。彼はその報をうけた時、左右の者へいった。
三国志:11 五丈原の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼の得意な足蹴の
業
(
わざ
)
で、卓上の器や酒や肉片は、まるで一
抹
(
まつ
)
の
飛沫
(
しぶき
)
のように武松の姿をくるんで散った。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
もちろん
扈従
(
こじゅう
)
の臣や公卿などはけっこうはしゃいでひきあげたが、なんといっても尊氏、直義、
義詮
(
よしあきら
)
の心から溶けきれない
容子
(
ようす
)
は、衆目にも映って、その一
抹
(
まつ
)
な危惧は
私本太平記:13 黒白帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
なお、はるかにあなたの
野
(
の
)
のはてには、一
抹
(
まつ
)
、
霞
(
かすみ
)
のように白い
河原
(
かわら
)
がみえる。あとは、西をあおいでも、北を見ても、うっすらした
山脈
(
さんみゃく
)
のうねりが
黙思
(
もくし
)
しているのみだ。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一
抹
(
まつ
)
の
墨気
(
ぼっき
)
を
刷
(
は
)
いたような冷たいきびしさが、古い巨大な建物の全面にただよい、内部の吟味所、書記溜り、与力控え、また奉行の居室を初め、どこを
窺
(
うかが
)
っても、しいんと
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
忠利が、なお一
抹
(
まつ
)
の
諦
(
あきら
)
めかねたものをもって、そういうと、ほとんどが、
異口同音
(
いくどうおん
)
に
宮本武蔵:07 二天の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
短檠
(
たんけい
)
の灯がボッと
燻
(
いぶ
)
って、一
抹
(
まつ
)
の不安が
燭
(
しょく
)
をかすめ、なんとなくいやな空気がみちた。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ただ一
抹
(
まつ
)
のさびしさは、この頃すでに、曹操時代の功臣たる
張遼
(
ちょうりょう
)
、
徐晃
(
じょこう
)
などという旧日の大将たちは、みな列侯に封ぜられて、その領内に老後を養っている者が多かったことである。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかしその青い面色に一
抹
(
まつ
)
の
凄気
(
せいき
)
は見せたものの、依然、言葉はしずかに。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
秀麗
(
しゅうれい
)
な富士の
山肌
(
やまはだ
)
に、一
抹
(
まつ
)
の
墨
(
すみ
)
がなすられてきた、——と見るまに、黒雲の
帯
(
おび
)
はむくむくとはてなくひろがり、やがて風さえ生じて、
澄
(
す
)
みわたっていた空いちめんにさわがしい色を
呈
(
てい
)
してきた。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一
抹
(
まつ
)
の水けむりと共に、女の影も、権叔父のすがたも見えなくなると
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と、一
抹
(
まつ
)
の不満と淋しみを噛む顔でない者はない。
私本太平記:09 建武らくがき帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
たれにも、それは一
抹
(
まつ
)
の疑惑となっているらしい。
私本太平記:04 帝獄帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかし一
抹
(
まつ
)
の淋しさがないでもない。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一
抹
(
まつ
)
のさびしさを覚えたのである。
剣の四君子:02 柳生石舟斎
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
抹
常用漢字
中学
部首:⼿
8画
“抹”を含む語句
塗抹
丁抹
一抹
抹消
抹殺
抹香
抹茶
抹香鯨
早抹
抹香臭
丁抹史
水抹
東塗西抹
抹緑
泡抹
血滴抹殺線
抹香弄
青煙一抹
抹額
抹茶茶碗
...