御法度ごはっと)” の例文
「いや、二階の灯は御法度ごはっとだ、——それはいいが、お清さん、こんな事は訊きにくいが、勘次郎さんに近頃親しい女はなかったのかね」
渡場わたしをかち渡りするは御法度ごはっとなんでア、何たるワザワグこったべえ、只じゃ済まねえべ、お関所破りと同罪なんでア、早うでんぐりけえりな
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが人間万事塞翁さいおうの馬、七転ななころ八起やおき、弱り目にたたり目で、ついこの秘密が露見に及んでついに御上おかみ御法度ごはっとを破ったと云うところで
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
切支丹ならば御法度ごはっとも御法度の上に、その身ははりつけ家蔵身代いえくらしんだい闕所けっしょ丸取られと相場が決まっているんだから、——おお、苦しい! 太夫水を
おめえは芸人、相手は町人、なにも御家の御法度ごはっとを破ったという訳でもねえから、そんなに怖がって隠すこともあるめえ。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一方、彼の前の机の上にはさまざまな禁制品や御法度ごはっとの武器が、なまけものの腕白小僧からとりあげられて置いてあった。
藥種屋 されば、其樣そのやう大毒藥だいどくやくをばたくはへてはをりまするが、マンチュアの御法度ごはっとでは、ったりゃ、いのちがござりませぬ。
第一、そんな御法度ごはっと破りを出せば親方も同罪だ、わっしや久米一のためにも、ウントここではだを脱がなきゃなりません
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楊弓場ようきゅうばの軒先に御神燈出すこといまだ御法度ごはっとならざりし頃には家名いえな小さく書きたる店口の障子しょうじ時雨しぐれゆうべなぞえのき落葉おちばする風情ふぜい捨てがたきものにてそうらひき。
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
不義は御法度ごはっとだの、義理人情というニセの着物をぬぎさり、赤裸々せきららな心になろう、この赤裸々な姿を突きとめ見つめることが先ず人間の復活の第一条件だ。
堕落論〔続堕落論〕 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
……版木はんぎだけは本でかくしても、膝の木くずはごまかせない。あなたが御法度ごはっと大黒尊像だいこくそんぞうを版木で起していたことは、さっきからちゃんと見ぬいているんです。
香坂 僕達の家庭ではカフェーが御法度ごはっとです。しかし交際上よんどころない場合があります。その折、女房の目をかすめて、男子の体面を保つ法如何いかん? という問題です。
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「不義は御家の御法度ごはっと」で、危いと首にかかわるし、第一若い男と奥女中との間、余程取締りの厳重であるべき筈だのに、出来たのだから通仙もいい男にちがいない。
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
振袖を肩のところへかけるを合図に、下郎は飛びのき不義はお家の御法度ごはっと、とシラ/″\しく言えば、女の身で恥かしいこと言い出して殿御に嫌われては最うこれまで
初めの内こそ御法度ごはっと真向まっこうに、横に首を振り続けている清二郎も、古傷まで知らせた上は返答によって生命をもらうという仙太郎の脅しと、なによりもたんまり謝礼の約束に眼がくらんで
ちっとも遠慮することはありゃあしねえよ——どうせ天下のお式目しきもく御法度ごはっとばかり破って、今日きょうびをくらしている渡世じゃあないか——おめえは知らず、このおれと来ては、どうせ首が
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
このたびのお仕置きは、諸見物の立寄る事かたく御法度ごはっと、ときびしく申しわたされ、のこり惜しそうに、あとを振り返り振り返り退散して、夫婦はそれどころで無く大不平、なんの因果で
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
某の男おのが主人の娘または腰元などにれ染めしが、いつしかその事主人の耳に入り不義は御家おいえ御法度ごはっとなりとて御手討になるべき処を、側の者が申しなだめて二人の命をひたるならん。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「仕方が無い。これァ薬屋仲間で、御法度ごはっとの薬品なんだ」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うそはお釈迦しゃか御法度ごはっとだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
御法度ごはっとだ。)
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「フーム、菱屋は御法度ごはっとの抜け荷(密輸入)をさばいて、主人の市兵衛は一番番頭と一緒に三宅島へ遠島になったはずだな」
なにしろ御法度ごはっと破りの仕事だから、今までのように一ぴき二分では売られない、これからは一尾一両ずつに買ってくれと云い出したが、宇三郎は承知しない。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
不義は御法度ごはっとだの、義理人情というニセの着物をぬぎさり、赤裸々な心になろう、この赤裸々な姿を突きとめ見つめることが先ず人間の復活の第一の条件だ。
続堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
秘密も秘密、公儀御法度ごはっと兵糧倉ひょうろうぐらと武器倉を二カ所にこしらえ、巧みな砦塞とりですらも築造中なのでござります。
種員は草双紙くさぞうし御法度ごはっとのこの頃いよいよ小遣銭にも窮してしまったため国貞門下のある絵師と相談して
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
水車御法度ごはっとというお触れが出たんでござんしてね、それで、利用のできる器械をすたらせたままで、わざわざこうして足搗あしづきをやらなきぁならねえ世界になったんでございます
御法度ごはっとをもかえりみず、蟠龍軒の屋敷へ踏込ふんごみ、数人の者を殺害せつがいいたし候段重々恐入り奉ります
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
じゃ、そのところを、チョッピリ耳こすり致しますが、蜂須賀様じゃ、また近頃、だいぶ精を出して、火薬を買い込むって話じゃございませんか——あの天下御法度ごはっと戦薬いくさぐすりをね。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ以来あの通り金網を張って警戒し、半紙百枚以上の凧は御法度ごはっとになりました。金助のはがしたのは右の雌鯱めじゃちで、その遠眼鏡で御覧になると一枚足らなくなっているところがよく分ります
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御法度ごはっと敵討かたきうちさえ、筋が立てば、大ビラにやらせる世の中じゃないか。姉妹二人十何年も死の苦しみをめさせられて、その上姉が首をったんだ。
「へえ、どうもあの楽屋は風儀が悪うござんして、御法度ごはっとの慰み事が流行はやるもんですから……」
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「しかし百助、それだけの理由では、兆二郎を御法度ごはっと破りと見なすわけに参らんぞ」
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔は不義はお家の御法度ごはっとなどと云ってお手打になるような事がございました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
家ごとに盂蘭盆うらぼん送火おくりび物淋ものさびしい風の立初たちそめてより、道行く人の下駄げたの音夜廻りの拍子木犬の遠吠とおぼえまた夜蕎麦売よそばうりの呼声にもにわかに物の哀れの誘われる折から、わけても今年は御法度ごはっと厳しき浮世の秋
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「もう飛乗りや飛下りは御法度ごはっとでございますよ」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「俺の見当では、たぶん抜荷ぬけにを扱っていたのだと思う、——抜荷というと何でもないようだが、こいつは大変な御法度ごはっとで、露顕すると獄門にも磔刑はりつけにもなる」
宮地の芝居だから、大目に見ているのかも知れねえが、男と女と入りまじりの芝居は御法度ごはっとだ。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御法度ごはっとの明るい旦那のこと。そんな必要はありませんや。さあお通ンなすって」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さア其処そこです、文治殿こそは日本にっぽんに二三とあるまじき天晴あっぱれ名士と心得ますが、うでござるな、その日本名士が上州あたりの長脇差や泥坊が、御法度ごはっとを犯して隠れているよごれた国へまいりますか
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御法度ごはっとの悪いことをしていたにしても、主人を訴人して菱屋を取潰した金蔵が、主人の娘のお茂さんと祝言するというのは見ちゃいられません。それでは人間の道が違います。
御法度ごはっとの賽ころを掴んで二十人あまりの若い者をあごで追い廻していた男であるが、取る年と共にすっかりと堅気かたぎになって、女房の名前で営んでいた緑屋という小料理屋を本業に
それが今では、みんな御法度ごはっとあきないまで宵かぎりでぴたりと木戸を閉めてしまう
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奉「黙れ……其の方天下の御法度ごはっとを心得ぬか」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「今年は火の用心の御布令おふれがあって、江戸の町ではどんど焼きが御法度ごはっとだそうですよ」
御法度ごはっとを破って、秘法を盗みに、他国から住み込んでいる廻し者を、俺が見破ってやるのは、取りも直さずうぬ落度おちどを防いでやることになるんだ。恩とは思わねえで、人を蹴飛ばす法があるかッ
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あ! ここは荷抜屋ぬきやの巣だな」と万吉は眼をみはった。荷抜屋というのは、御禁制の密貿易をやるやからのことで、年に一度か二年目ごとに、仲間で集めた御法度ごはっとの品を異国船いこくせんに売り込むのが商売。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
錦絵は御法度ごはっと、彫職の俺などは上ったりだ、元の植木屋に返ったところで、ろくな仕事があるわけは無し、明日から何をして行けばいか、見当も付かない始末よ、親の代からの借金は山程あるし
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「なるほど少し変だが、——御法度ごはっととは言っても、親の敵討はお上でもお目こぼしだ。次第によっては御褒美が出るくらいのもの、町方の岡っ引が飛出したところで、物笑いになるばかりじゃないかな」
「それだからいけないよ。飲むさ。頃合に飲んでごらん。迎え酒というやつだ。だが、自棄やけはいけない、江戸へ行って、浜町の別宅に納まってもらっても、自棄酒やけざけ御法度ごはっとということにしてもらいたいね」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)