引掛ひつか)” の例文
暖い日で額が汗ばむ程なので、基督は外套を脱いで、そこらの楊の木に引掛ひつかけたまゝ、岡をのぼつて多くの群衆にお説教をしに出掛けた。
肉付のいゝ若い女が幾人いくたりも、赤い潰髷つぶし結綿ゆひわたにもう華美はで中形ちゆうがた浴衣ゆかたを着て引掛ひつかけ帶もだらしなく、歩む度に白い足の裏を見せながら行く。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
就中なかんづく意氣いきむき湯上ゆあがりのあしを、しなに、もう一度いちどあつひたしてぐいとげて、ゆきにうつすりと桃色もゝいろしたつまさきに下駄げた引掛ひつかけたとふ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほそあしのおかげではしるわ、はしるわ、よつぽどとほくまでげのびたが、やぶのかげでそのうつくしいつのめがさヽ引掛ひつかかつてとう/\猟人かりうどにつかまつたとさ。
すこぎ、ミハイル、アウエリヤヌヰチはかへらんとて立上たちあがり、玄關げんくわん毛皮けがは外套ぐわいたう引掛ひつかけながら溜息ためいきしてふた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
卯平うへいは五六にちあひだ毎日まいにちたゞぶら/\とては黄昏近たそがれちかくかそれでなければよるつてかへつた。勘次かんじ毎日まいにち唐鍬たうぐはつてはやした。おつぎは半纏はんてん引掛ひつかけてはり師匠しゝやうかよつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
濁醪どぶろく引掛ひつかける者が大福だいふく頬張ほゝばる者をわら売色ばいしよくうつゝかす者が女房にようばうにデレる鼻垂はなたらしあざける、之れ皆ひとはなあなひろきをしつしりあなせまきをさとらざる烏滸をこ白者しれものといふべし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
ある時、須磨子が湯上りの身体からだに派手な沿衣ゆかた引掛ひつかけてとんとんと階段はしごだんあがつて自分の居間に入ると、ふと承塵なげしに懸つた額が目についた。
それから、「お獅子ししは? みいちやん。」とくと、引掛ひつかけて半纏はんてん兩袖りやうそで引張ひつぱつて、つてはかぶり、つてはかぶりしたさうである。いや、おまつりうれしいものだ。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれ勘次かんじにはつた。かれ荒繩あらなはつたことをこゝろづいたときかきひくえだにそれを引掛ひつかけようとしてげた。かれ不自由ふじいう暗夜あんや目的もくてきげさせなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何處どこかへいと引掛ひつかけた。」
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)