左様そう)” の例文
旧字:左樣
左様そうですね……あれは、放火事件があってから三月みつきほどしてからのことでしたかね……もうそろそろ夏がやって来ようって頃でした。
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
外したのは確に失敗でございますね……だって左様そうじゃありませんか、恋仇同士をたった二人、室に残してお置きになったら、議論を
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
幸「はい、左様そうでございますか……只今種々いろ/\取込が有りまして、是から少々山の派出所まで参らんければならんでげすが何御用でげす」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それならば大友はお正さんに恋い焦がれていたかというと、全然まったく左様そうでない。ただ大友がその時、一寸左様そう思っただけである。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
こちとらは帳面なンかつけやしねえ、年の暮になりゃ足りた時は足りた、あまらねえ時は剰らねえンだ、って左様そう云ってやりましたよ、と。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「なぜ兄さんは左様そうなんだろう。僕だったらとっくに離縁にしてるんだがな。あんな人にあわれみをかける所があるんだろうか」
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただ、何の事は無い、「素人で左様そう釣っては、商売人の顔を踏み付けた仕打ちだ、大抵好い加減に釣ってれば好いに」という、強談ごうだんなのです。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
「その不幸なひとが兇行に遭っている最中に、誰か戸口へおとなっただろうという説もありますが、どうも左様そうらしいですわね」
先刻までの俺だったら、一緒にまた高飛びの、股旅またたびかけた草鞋わらじ穿けと、いうところだが左様そうはいわねえ、お袋さん、何とか法がござんすか。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
まあ、君、左様そうじゃないか。もし君が壮大おおき邸宅やしきでも構えるという時代に、僕が困って行くようなことがあったら、其時は君、宜敷頼みますぜ。
朝飯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また全く左様そうでしやう、そでに赤十字の着いたものを、戦闘員と同一おんなじ取扱をしやうとは、自分はじめ、恐らく貴下方あなたがたにしても思懸おもいがけはしないでせう。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
牧師さんの説教でも聞いたら音なしいい子になれるだろうと思って、お母さんに左様そう話したら、お母さんは大層喜んだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
左様そうなれば交際はめなければならぬ。交際を罷めても此方こっちの身に害を加えぬ限りは相手の人を憎むには及ばぬ、ただ近づかぬようにするばかりだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「どうぞ左様そうして下さい。小父さんならっと何とかして下さると思います。母さんは本統にお可哀そうなのです」
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「エー左様そう、そのつもりでしたのヨ。仏ヶ崎の方まで行きたいんですけど、とてもあそこまで漕げませんもの」
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
左様そうさね、お説の通り、三喜は寛正の六年の四月八日に生れたんだ、お釈迦様しゃかさまの日だからよく覚えていますよ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どなたも左様そうおっしゃいます。——やはりこの世では縁がないのでございましょう。——そう思ってあきらめようとは思いますが、浅ましいことには諦めきれません」
御夫婦とも左様そう申しちゃ何ですけれど一寸変って被居いらっしゃいますから無理もありませんでしょうが。
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
左様そうです。父はたしかに生命をおびやかされております。名誉や財産ではございません。はい、それはたしかでございます。そう考える理由が充分でございますの」
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
小生の左様そう考える訳は、屍体は煤や灰で、ひどく汚れて居るが、之を綺麗に払拭はらって視ると、肌の色が、屍体と思われないほど、鮮紅色あかみがかって紅光灼々つやつやとして居ることだ。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
どうも左様そうではなくむしろインチキにかかった其の友人の間抜けさ加減かげんわらいたくなり、インチキを用いた悪人に、一寸ちょっとした尊敬にも似た感情を生ずるのである、そりゃ無論
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
持っていらっしゃる方があるでしょう、左様そういう方に進上あげたらいいでしょう——なにも……
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
浅薄な、手妻師てづましのやうな男が其処等中に転がつてゐますが、左様そう云ふ男が女に対する場合、能きるけの猫をかぶつてゐます。けれども其の猫の皮は何んでも無く観破れるのです。
新らしき婦人の男性観 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
左様そういうことを世人の誤ら無いように為るには、実際に必要だと思って居りました。
探偵物語の処女作 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
吾事わがことではあるまいかと耳を傾けて見ると、なに左様そうでもないが、何か胸騒ぎがして人に聞えはしまいかと思うように動悸がうつ。兎角とかくして牛堀について、一行はどやどや上って行った。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「ああ左様そうですか。ではその前、つまり御主人がそのようになられる前に、御主人と話をされたような御来客はなかったですな?」
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「ほんに左様そうですよ、人様のお話の取次をして何番々々と言って居るうちに日が立ちますからねエ」と言って「おほほほほ」と軽く笑う。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
若い職人風の美男子いゝおとこも、花里の全盛なのは聞きつたえておりまするし、殊に初会のことでげすから、左様そう打ちとけて話をすることもない。
季参の持って来た紅茶の中に毒でも這入っていたと見えてそれを飲んだ晩に吐瀉したなどと左様そう云ったような話であった。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おい、母ちゃんの方へ行って、吃驚びっくりしないように左様そういっておやり。今パパがウールトオの狂犬きちがいいぬ射止しとめるからな」
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
世間には大酒をしても必ずしも酒が旨いとは思わず、飲んでも飲まなくてもいとう人があるが、私は左様そうでない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それも左様そうだと思った。本箱なんか大きくて郵便箱に入りっこないから安心だ。けれどもお父さんが帰って怒りはしまいかと思ったら心配になって来た。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おとら それも左様そうだ。あたしも倅が恋しくなった。久しい間無沙汰をしてる、今から行って参ってこよう。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
其奴そいつア判ら無えがナ、今度ア今迄来た様な道庁の役人たア違うから、何とか目鼻はつけて呉れるだろう、何時も何時も胡麻化されちゃアけえるんだが、今度ア左様そうくめエ
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
「エ、アア左様そうだ。絶好の小説家だ。むしろ小説以上の興味を創作したといってもいい」
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
尾頭おかしらのあるものの死骸しがいだと思うと、気味が悪くッて食べられねえッて、左様そういうんだ。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細『左様そうじやございませんよ。昨日、千住の爺やが持ツて参ツたのでございます。』
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
先づ、何よりも先きにあなたに申あげなければならない事は、私が公娼廃止に反対だと云ふ風にあなたが誤解してお出になるらしい事に就いて、私は左様そうではありませんと云ふ事です。
青山菊栄様へ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
「ウム左様そうだ、旧弊な大名の伜ヨ、それを誰から聞いた」
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
左様そうです。そこへ連れて行って下さい」
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
兼「左様そうです、なんか深いわけがあるんです、心当りがあるんなら何も年寄の親方が行くにゃア及びません、わっちが尋ねましょう」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こうした愛憐の情は真に骨肉を分けた子供に対してのみ起るもので、赤の他人だったらとても左様そうは行かぬものだ。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
はげしい飢餓うえは往々にして酒に酔ったような状態を其人に起こさせるものであるが、すくなくも彼には左様そうであった。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
左様そうサ、お正さんが二十位の時だろう、四年前の事だ、だからおしょうさんは二十四の春かたずいたというものだ。」
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
頭だけじゃ救われない、浸礼しんれい教会なんかじゃ水の中へ潜らせると言い出した。それ左様そうだと思う。折角洗礼を授けてやっても救われなくちゃ何にもならない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
水戸の御隠居様、水戸の老公と尊称して、天下一の人物のように話して居たから、私も左様そうおもって居ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
行って左様そうおいい、いい加減にしろッて。喧嘩をしてる奴はみんなここへ雁首がんくびを揃えて来いって。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
左様そうです。つな、るな、貴下あなたひどいことをするぢやあありませんか。三日もめしを喰はさないで眼もくらむでゐるものを、赤條々はだかにして木の枝へつるし上げてな、銃の台尻だいじりで以てなぐるです。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それは千人が万人のうちには左様さような例がないとも限らないが併しその僅かな例を持つて直ぐにそれが動かすことの出来ない真理だとは考へられないとその人は云ふ。それも左様そうらしく思はれる。
貞操に就いての雑感 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
駕「左様そうでげすか、オヤ/\/\成程居ない、気のせえおもてえと思ったと見える、成程何方どなたも入らっしゃいません、左様さようなら」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)