屍体したい)” の例文
旧字:屍體
うづ高いほど積まれてゐた屍体したいからいつのまにかみだした血あぶらで、床はいちめん足の踏み場もない有様だつたといふことです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ましてその首や首のない屍体したいを発見した事実になると、さっき君が云った通り、異説も決して少くない。そこも疑えば、疑える筈です。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕は茫然ぼうぜんと女史の、あられもない屍体したいの前に立ちつくした。僕はいまだにその妖艶ようえんとも怪奇とも形容に絶する光景を忘れたことがない。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
見たわけではねえでやすが、……両方とも屍体したいの上がったことも、撃たれて死んでるチュウことも、決して間違いのねえこってやす……
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
二人の被害者の屍体したいも、蒲団に包んだ上から荒菰あらごもで巻いて、町から呼んだ自動車に載せて、解剖のため、大学へ運び去られたアトであった。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし、一九三三年に、ポロニーという学者が、一女性の腎臓を摘出して、新しい屍体したいの腎臓を移植して、毒死の危急を救ったことがある。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
警察医の検診によって、怪青年は心臓を直射されて即死していることが確かめられ、屍体したいは一応邸内の空き部屋に移された。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ユダヤ人の法律では、十字架にかけられた者の屍体したいは、必ずその当日中に埋むべき定めでありました(申命記二一の二三)。
かく扮装ふんそうして市場に立ち現われると、若い女や年取った男どもが、それを非常に喜んだ。屍体したいと後宮の臙脂えんじとの匂いが、そこから発散していた。
少し昔の話でよければ、南米の海岸に、牛くらいの大きさの動物で、脚が六本ある怪物の屍体したいが、漂着したことがある。
屍体したいの肌は、もう葡萄色ぶどういろになっていた。わしは、わしの愛執あいしゅうのために、老母おふくろのそうした醜い顔をいつまでもこの世にさらしておくのを罪深く思った。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにかの屍体したいを発見したのだ。けものか? あるいは仲間割なかまわれした悪漢どものひとりが、殺害さつがいされたのかもしれない」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
埃及エジプトのカタコンブから掘出した死蝋しろうであるのか、西蔵チベット洞窟どうくつから運び出した乾酪かんらく屍体したいであるのか、永くいのちの息吹きを絶った一つの物質である。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
本能的とでもいうべきだろう。風雪ふうせつがおそい来る、外敵がやって来る、傷つくものもたおれるものも出来る。その屍体したいは怪鳥めいた他動物の餌食えじきになる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
あとには、血がにじんだ湖畔の土の上に、頭と右手との無い屍体したいばかりがいくつか残されていた。頭と右手だけは、侵略者が斬取きりとって持って帰ってしまった。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
なぜなら、彼のしめ殺したのはさっきと変らず矢張り女で、同じ女の屍体したいがそこに在るばかりだからでありました。
桜の森の満開の下 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それを聞くと、怒る前に、自分が——屍体したいになった自分の身体が、底の暗いカムサツカの海に、そういうように蹴落けおとされでもしたように、ゾッとした。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
更にその屍体したいを引摺り出して、そうして、程遠からぬ七条油小路の四辻へ引張り出して、大道へ置捨てにしました。
それでもこの頃は屍体したいの解剖などが厳禁せられていたので、かわうそなどを用いてそれをしらべたりしていましたが、これでは人体のことはまだよくわかりません。
杉田玄白 (新字新仮名) / 石原純(著)
見ればすぐそこの川の中には、裸体の少年がすっぽり頭まで水につかって死んでいたが、その屍体したいと半間も隔たらない石段のところに、二人の女が蹲っていた。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
山脈さんみゃくわか白熊しろくま貴族きぞく屍体したいのようにしずかに白くよこたわり、遠くの遠くを、ひるまの風のなごりがヒュウとって通りました。それでもじつにしずかです。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
花蓮港の荒浪に呑まれたが最後、屍体したいが発見されることはまず絶望と思わなければならないのである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
病院で手術した患者の血や、解剖学教室で屍体したい解剖をした学生の手洗水が、下水を通して不忍池しのばずのいけに流れ込み、そこの蓮根れんこんを肥やすのだと云うゴシップは、あれは嘘らしい。
病院風景 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
屍体したいを家にはこんで座敷にねせておく。こうなると私はいつも奇異な気もちに襲われる。この陶物すえものの人形みたいによこたわってるものをみて これはいったいなんだろう と思う。
妹の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
失踪者の一にん、原田喜三郎の惨殺屍体したいが、造船工場からほど遠からぬ海上に浮び上ったと報告しらせを受けて、青山喬介きょうすけと私は、暖い外套を着込むと、大急ぎで工場までやって来た。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
山で大きな女の屍体したいを見たという話は、これもいくつかの類例が保存せられてあるが、なかんずく有名なのははやく橘南谿の『西遊記』に載せられた日向南部における出来事である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
同時に、さっきの弟子がまた飛んで来て、玄関に首のない屍体したいが転がっていると言う。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「絶命しているのかい?」検事が片膝をつくと、法水は屍体したいの左手をトンと落して
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「ぼ、僕は此処ここで待っています。僕には——とて屍体したいを見る勇気はありません」
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さぞむごたらしいであろうその屍体したいが、このぼーっ、ぼーっと照しだされる蛍火の下では、どうしたことか却って、夢に描かれたように、ひどく現実離れのした倒錯した美しさを見せるのであった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
大「いや、仕方がないから、屍体したいのところはすぐに引取ってくれるように」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は夢中でそれを屍体したいから抜き取りました。それから日頃姉上の形見と思って身に着けておいた鏡——亡き姉上のうらみのこもった懐ろ鏡を、敵討ちを果したつもりで、死骸の側に割って置きました。
人夫が、先にかぎの附いた竿さおで、屍体したいの衣類をでも、引掛けたらしい。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
屍体したいが方々に転がっているかも知れない。
上高地風景保護論 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
桜の樹の下には屍体したいが埋まっている!
桜の樹の下には (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
屍体したい頸部には絞縛こうばくしたる褶痕しゅうこん鬱血うっけつ、その他の索溝さっこう相交あいまじって纏繞てんじょうせり、しかれども気管喉頭部、及、頸動脈等も外部より損傷を認むるあたわず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
姉さまはいつの間にかこつそり忍び込んで、残る幾体かの青黒い屍体したいを、身をかがめて一つ一つのぞきこんでゐたさうです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
それと同時に痣蟹の屍体したいが、気球と一緒に墜ちているか、それともその近所に墜ちているかもしれぬから注意すること。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
攻めるたび多くの屍体したいをさらしてひき退るのみであるのに、敵の策に応じて自らの策を立て直すことを知らない。
安吾史譚:01 天草四郎 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
宴が終り、若い叔孫家の後嗣は快く諸賓客を送り出したが、翌朝は既に屍体したいとなって家の裏藪うらやぶに棄てられていた。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
鼈四郎は病友の屍体したい肩尖かたさきに大きく覗いている未完成の顔をつくづく見瞠みいり「よし」と独りいって、屍体を棺に納め、共に焼いてしまったことであった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
屍体したいに手をおいてモコウがいった。あたたかみが残っているとすれば、殺されてまだ時間がたたないのだ。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
人間の屍体したい。それは生存者の足もとにごろごろと現れて来た。それらは僕の足にからみつくようだった。僕は歩くたびに、もはやからみつくものから離れられなかった。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
フイラトフ博士は、新しい屍体したいの眼球を取り出して、十一年間も失明していた女の眼に移し植えて成功した。生きた、おまえの眼球を、わしに移し植えたら、わしは、急に若返るだろう
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
「しかしですね。西郷隆盛の屍体したいは確かにあったのでしょう。そうすると——」
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、その血の池の中に、一人の女性が屍体したいとなって浮き上がっていた。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二つの屍体したいを運び、重い二つの墓石を運んだ馬丁べっとうの福次郎と六蔵との純情にも感ずるが、この二人をして、それほどまでにも追慕させている、亡くなった二人の姉妹きょうだいの心の温かさもしのばれる。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
少年は武蔵の不審に答えて、実は昨夜老父がみまかり、裏山の母の墓に並べてほうむろうと思うが、一人の力では屍体したいの持ち運びがかなわぬゆえ、これをき割らんと思案したのであると答える。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄関のほうからは、首のない妙見の屍体したいを取りかこんで立ち騒ぐ門弟どもの声が手に取るように聞えて来る。障子を掴んでいる造酒の手が怒りと驚きにふるえて、カタカタと障子が音を立てた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
発見された屍体したいは、その建物の前へアンペラを敷いて寝かしてあった。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)