少許すこし)” の例文
旦那様は少許すこし震えて、穴の開く程奥様の御顔を熟視みつめますと、奥様は口唇くちびるかすか嘲笑さげすみわらいみせて、他の事を考えておいでなさるようでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それからお吉はまた、二人が余りおとなしくして許りゐるので、店に行つて見るなり、少許すこし街上おもてを歩いてみるなりしたら怎だと言つて
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
げにその中には害を恐れ牧者に近く身を置くものあり、されど少許すこしの布にてかれらの僧衣ころもを造るに足るほどその數少し 一三〇—一三二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二十八日、少許すこしの金と福島までの馬車券とを得ければ、因循いんじゅん日を費さんよりは苦しくとも出発せんと馬車にて仙台を立ち、日なお暮れざるに福島に着きぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「然うさ、五十百歩ひやくぽさ」と、友は感慨かんがいへないといふふうで、「少許すこしめて、少許知識ちしきおほいといふばかり、大躰だいたいおいて餘りたいした變りはありやしない。 ...
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
私は個人的に少許すこしの出金を気まぐれに続けたばかりで、会堂には一切手も足も出しませんでした。下曾根さんは貧しい羊の群を忠実に牧して、よく職務を尽しました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
所々に少許すこし磧礫さいれきを存するを以て、るべく磧上をすすむの方針をる、忽ちにして水中忽ちにして磧上、其変化へんくわ幾回なるをらず、足水に入るごとに冷気はだついて悚然たり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
最後さいごに、偶然ぐうぜんにも、それは鶴見驛つるみえきから線路せんろして、少許すこしつた畑中はたなかの、紺屋こうや横手よこて畑中はたなかから掘出ほりだしつゝあるのを見出みいだした。普通ふつう貝塚かひづかなどのるべき個所かしよではない、きはめて低地ていちだ。
今日我が国の軍隊等で、少許すこしのことを「じゃっかん」と言い、物乾場のことを「ぶっかんじょう」と言い、滑稽こっけいにまで無理に漢語を使用するのは、発音に於けるエピックな響をよろこぶのである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
成程左様さう言はれて見ると、少許すこしも人をおそれない。白昼ひるまですら出てあすんで居る。はゝゝゝゝ、寺のなか光景けしきは違つたものだと思つたよ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『僕こそ。』と言ひながら、男は少許すこし離れて鋼線はりがねの欄干にもたれた。『意外な所でまたお目にかかりましたね。貴女あなたお一人ですか?』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そとはたゞ少しく見ゆるのみなりしかど、我はこの少許すこしの處に、常よりもあざやかにしてかつ大なる星を見き 八八—九〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
筆をなげうつて、嘆息して、た冷い寝床に潜り込んだが、少許すこしとろ/\としたかと思ふと、直に恐しい夢ばかり見つゞけたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
少許すこし調査物しらべものがあるからと云つて話好の伯母さんを避け、此十疊の奧座敷に立籠つて、餘りあかからぬ五分心の洋燈ランプの前に此筆を取上げたのは、實は
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
母と彼男あのをとことの間に、を高く頭の上に載せ、少許すこしづつ籾を振ひ落して居る女、あれは音作の『おかた』(女房)であると話した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ヂリ/\と少許すこしづつ少許づつ退歩あとしざりをする。——此名状し難き道化た擧動は、自分の危く失笑せむとするところであつた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
八時を打っても、未だ奥様は御寐おやすみです。旦那様は炉辺で汁の香を嗅いで、憶出おもいだしたように少許すこし萎れておいでなさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ヂリ/\と少許すこしづつ少許づつ退歩あとしざりをする。——此名状し難き道化た挙動は、自分の危く失笑せむとするところであつた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
人なき裏路を自棄やけに急ぎながら、信吾は浅猿あさましき自嘲の念を制することが出来なかつた。少許すこし下向いた其顔は不愉快に堪へぬと言つた様に曇つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
源はしんが疲れていながら、それで目は物を見つめているという風で、とても眠が眠じゃない——少許すこしとろとろしたかと思うと、復た恐しい夢が掴みかかる。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『此頃は少許すこし生えかかつて來たやうだ。』と、二三日前に祖父さんが言つたに不拘かゝわらずまだ些とも生えてゐない。……
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
この雪ですから、歯医者の外套は少許すこし払った位で落ちません。それを脱げば着物の裾はれておりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お定が十五(?)の年、も少許すこしで盆が来るといふ暑気あつさ盛りの、踊に着る浴衣やら何やらの心構へで、娘共にとつては一時も気の落着く暇がない頃であつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「そうですナア、一年ばかりも居たら帰るかも知れません……是方こっちに居ても話相手は無し、ツマリませんからね……私は信濃しなのという国には少許すこしも興味が有りません」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
樺火は少許すこしすたれた。踊がモウ始まつたのであらう、太鼓の音は急に高くなつて、調子に合つてゐる。唄の声も聞える。人影は次第々々にその方へながれて行く。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
主人の家というのは少許すこし引込んだ処に在って、鉄道の踏切を通らねば、町へ買物に出ることが出来ないのでした。お隅はよく主人の子供をおぶって、その踏切を往たり来たりした。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あへ富有かねもちといふではないが、少許すこしは貸付もあつた様だし、田地と信用とは、増すとも減る事がない。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
身體さへ少許すこし捩向ねぢむけて、そして、そして、繁を仰ぎ乍らニタ/\と笑つた。紅をつけ過した爲に、日に燃ゆる牡丹の樣な口が、顏一杯に擴がるかと許り大きく見える。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
身体さへ少許すこし捩向けて、そして、そして、繁を仰ぎ乍らニタ/\と笑つた。紅をつけ過した為に、日に燃ゆる牡丹の様な口が、顔一杯に拡がるかと許り大きく見える。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
怎しようと相談した結果、兎も角も少許すこし待つてみる事にして、へや中央まんなかに立つた儘周囲あたりを見廻した。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その祠の階段だんに腰を掛けると、此処よりは少許すこし低目の、同じ形の西山に真面まとも対合むかひあつた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分が先刻せんこく晩餐を済ましてから、少許すこし調査物しらべものがあるからと云つて話好の伯母さんを避け、此十畳の奥座敷に立籠つて、余りあかからぬ五分心ごぶじんの洋燈の前に此筆を取上げたのは、実は
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『左様さ。わしはな……』と、松太郎は少許すこし狼狽うろたへて、諄々くどくど初対面の挨拶をすると
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
日比谷公園を出て少許すこし來ると、十間許り前を暢然ゆつたりとした歩調あしどりで二人連の男女が歩いてゐる。餘り若い人達ではないらしいが何方も立派な洋裝で、肩と肩を擦合して行くではないか、畜生奴!
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其店そこの大きい姿見が、村中の子供等の好奇心を刺戟したもので、お定もよく同年輩の遊び仲間と一緒に行つて、見た事もない白い瀬戸の把手ハンドルを上にひねり下に捻り、やつ少許すこし入口の扉を開けては
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、渠は少許すこし気味の悪い様に呼んで見た。カサとの音もせぬ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『だら、少許すこし持つてつて貰ひてえ物が有るがな。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
少許すこしだばあるども、えらばえで御座え。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)