夢心地ゆめごこち)” の例文
戸外そとの風雨の声がこの時今さらのように二人の耳に入った。大津は自分の書いた原稿を見つめたままじっと耳を傾けて夢心地ゆめごこちになった。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
夢心地ゆめごこちをドンとひとたれたやうに、そも/\人口じんこう……まん戸數こすう……まんなる、日本につぽん第二だいに大都だいと大木戸おほきどに、色香いろかうめ梅田うめだく。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二条の院へ着いた一行の人々と京にいた人々は夢心地ゆめごこちで逢い、夢心地で話が取りかわされた。喜び泣きの声も騒がしい二条の院であった。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あらん限りの重荷を洗いざらい思いきりよく投げすててしまって、身も心も何か大きな力に任しきるその快さ心安さは葉子をすっかり夢心地ゆめごこちにした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼女はほとんど夢心地ゆめごこちのうちに着物をはぎとられ、その上から温かい熊の毛皮をスッポリとかぶせられてしまった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
起こすのも悪いと思って、そっと部屋を出たが、均平もうつらうつらと夢心地ゆめごこちに女たちの声を耳にしていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのなか夢心地ゆめごこち状態じょうたいにあきてくると、彼はうごきまわっておとをたてたくてたまらなくなった。そういう時には、楽曲がっきょくつくり出して、それをあらんかぎりのこえで歌った。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
……彼はそっと眼だけを毛布のそとに出しながら夢心地ゆめごこちにそれを見入っていたが、やがてそれらの活溌かっぱつに運動している微粒子の群はただ一様に白色のものばかりでなく
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
天龍てんりゅうを乗っきって、しゃ笠井かさいさとへあがったのも夢心地ゆめごこち、ふと気がつくと、その時はもう西遠江にしとおとうみ連峰れんぽうの背に、ゆうよのないがふかくしずんで、こく一刻、一ちょうそくごとに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と正三君はそのまま目をとじている中に夢心地ゆめごこちになった。照彦様も夕方まで眠った。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いつも快活かいかつで、そして、またひとりぼっちに自分じぶんかんじた年子としこは、しばらく、やわらかな腰掛こしかけにからだをげて、うっとりと、波立なみだちかがやきつつある光景こうけいとれて、夢心地ゆめごこちでいました。
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
なに富井さん! 妾はとこりて飛び起きたるなり。階段をはしりるも夢心地ゆめごこちなりしが、庭に立てるはオオその人なり。富井さんかと、われを忘れていだきつき、しばしは無言の涙なりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
無言むごん凝視みつ赫耀かくえう波動はどうけば、夢心地ゆめごこち
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
毛氈もうせん唐草からくさからみてるゝ夢心地ゆめごこち
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
眞紅まつか毛氈もうせんいたかと、戸袋とぶくろに、ひなまぼろしがあるやうに、夢心地ゆめごこちつたのは、ひとはゞ一面いちめんであつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのこころよ羽音はおとが、まだ二人ふたりねむっているうちから、夢心地ゆめごこちみみこえました。
野ばら (新字新仮名) / 小川未明(著)
伊那丸は、ほッとして夢心地ゆめごこちをさましたとき、ふしぎな黒装束の義人ぎじんのすがたを、はじめて落ちついてながめたのであるが、その人は月の光をしょっているので、顔はよくわからなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は稲毛いなげ料亭りょうていにある宴会に呼ばれ、夜がふけてから、朋輩ほうばいと車を連ねて、暗い野道を帰って来たこともあったが、波の音が夢心地ゆめごこちの耳に通ったりして、酒の酔いが少しずつ消えて行く頭脳に
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
みな青年わかものが心を夢心地ゆめごこちに誘いかれが身うちの血わくが常なれど
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
目はまざまざと開いていたけれども葉子はまだ夢心地ゆめごこちだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
は、たましいまで、ぼんやりとして、ただ夢心地ゆめごこちになって、そら見上みあげていました。
山の上の木と雲の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれらは、さけいがさめきらぬうちに、まったく夢心地ゆめごこちでこのまちって、かけましたが、いつしか砂漠さばくなかで、いがさめて、天幕テントのすきまからほしひかりあおぐと、はじめて、なにもたなくては
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)