喧嘩けんか)” の例文
私は筋も結末も分らず、喧嘩けんかするのだが、いつまでも仲がいいのか、浮気をするのか、恋をするのか、全然先のことは考えていない。
佐吉さんは、そんなに見掛けは頑丈でありませんが、それでも喧嘩けんかが強いのでしょうか、みんな佐吉さんに心服しているようでした。
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼らも喧嘩けんかをするだろう。煩悶はんもんするだろう。泣くだろう。その平生を見ればごうも凡衆と異なるところなくふるまっているかも知れぬ。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あなたはどこへ行くんです。」カムパネルラが、いきなり、喧嘩けんかのようにたずねましたので、ジョバンニは、思わずわらいました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あとでわかったのだが、ちょうどそのとき、ドアのそとには酔いどれの喧嘩けんかがあって、その一人が血を流して倒れていたのであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いつかの喧嘩けんかはきみの方が勝っている。それから僕が押したら尻餅しりもちをついたろう? 起きてかかってきた時、僕はやる決心だった」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
つけて喧嘩けんかになったことがあったろう、うん、姿が変ったからわからないかもしれない、それ、よく見ろ、おれはあのときの拾い屋だ
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その代り相手から小言を言われても上機嫌じょうきげんで我慢をし、攻撃されても決して自分を弁解したり喧嘩けんかしたりするようなことはなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
その中には、故人と一面識もない人まではいっていて、カチェリーナと喧嘩けんかしたことのあるレベジャートニコフさえ招待されている。
人々は、なんとかして、ボートの中に、いた場所をみつけて、一命を助かりたいものだと、まるで喧嘩けんかのようなさわぎであった。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こういう考えは毎日のようにおこった、かれは実際喧嘩けんかに強いところをもって見ると、クライブになりうる資格があると自信している。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
馬関ばかんに来り虎病患者死せし頃は船中の狼狽ろうばいたとへんにものなく乗組将校もわれらも船長事務長と言ひ争そひて果ては喧嘩けんかの如くなりぬ。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
喧嘩けんかはしないことにしよう、と考えて居ると、また潜戸が開いて、やあ、と真裸になった友田喜造が手拭をぶら下げて入って来た。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
舞台でも何をえくさるんじゃい。かッと喧嘩けんかを遣れ、面白うないぞ! 打殺たたきころして見せてくれ。やい、はらわた掴出つかみだせ、へん、馬鹿な
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
国芳も国貞もともに故人豊国翁の高弟だが、二人はまるで気性がちがい国芳は喧嘩けんかの好きな勇みな男いかさまその位の事はしかねまいて。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なおのこと会いとう思うにつけても昨夜の喧嘩けんかのこと胸一杯に込み上げて来て、夢中で手紙書いてしもたんですが、出してしもてから
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一度二度喧嘩けんかしてい出したこともあるが、初めの時はこっちがなだめて連れて帰り、二度目の時は、女の方から黙って帰って来た。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この二つの組が落合うと無論喧嘩けんかになる。多分は雄かと思うきつい雀があって、そればかりが出て闘うのだから数の問題ではない。
米国においてもせめて、拳骨げんこつぐらいの喧嘩けんかがあるであろうと、大会の閉会になるまで、好奇心をもって種々の新聞に眼をくばっておった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
私との商取引ができた後、私は四、五人のたくましい、異国人たちに取囲まれ、喧嘩けんかになった時、彼女は最後まで私の味方だった。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
朝夕に適度な運動をさせてやるほかは、なるべくつないでおくこと。よその犬と喧嘩けんかをさせないようにすること。流産をする心配があるから。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
クリストフは、パリーでもドイツと同じ喧嘩けんかを見出すのならば、何もわざわざドイツからやって来るには及ばなかったと、みずから言った。
飼糧かいば、手入れの注意など与え、やがて奥の——いまは喧嘩けんかを売ってくる妻もないひとり居のの下へ——幼い子らをよび寄せて、戯れていた。
それで、あの二人の酔漢もとうとう喧嘩けんかを中止して自分たちが災難に遭っていることに気がついたのだということがわかった。
武者修行の武士は振り返り、仕掛けられた喧嘩けんかをわざと避け、編笠に手を掛けて詫びるのであった。すると浪人はつけあがり
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
時にはこの三つの団体がかち合って喧嘩けんかしたり、後から後からと先の団体の言ったことを打ちこわすようなことを論じていた。
何かその時分に喧嘩けんかでも起るとそれこそ非常な罰金を命じます。ただ罰金を命ずるだけではない。やはりぶんぐられるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
何しろ喧嘩けんかずくでは狼にかなわないから一層いっその事、狼に喰い殺されないうちにここを逃げ出して、他の所にいい住居すまいを探そうという事に決めた。
猿小僧 (新字新仮名) / 夢野久作萠円山人(著)
師と子規と親密になったのは知り合ってから四年もたって後であったが懇意になるとずいぶん子供らしく議論なんかして時々喧嘩けんかなどもする。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「一体、今のあれは何の騒動なんだろう。喧嘩けんかにしてはどうもおかしいが……」と私は首をかしげた。すると誰やらが小声で
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
相手に喧嘩けんかしてばかりさ。ちょっと冗談を言っただけでがすよ。わっしがあの虫を怖がるって! あんな虫ぐれえ、なんとも思うもんかねえ?
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
喧嘩けんかごしで、毬の上に乗ろうとしました。群衆の方もおこりました。どなりつけ、おどかし、石を投げる者までありました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
彼女は、喧嘩けんかにはきこまれず、両方の言い分をきいて、両方の譜を、その争いのなかからうつしとって、合うように接合してしまっていた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いつぞやの凌雲院りょううんいんの仕事の時も鉄やけいむこうにしてつまらぬことから喧嘩けんかを初め、鉄が肩先へ大怪我をさしたその後で鉄が親から泣き込まれ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
喧嘩けんかを売る気。うるさい奴につかまったな、と守人は眉をひそめた。黒い影が三々五々、すこし遅れて左右からつけて行く。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
喧嘩けんかでもしたか、不埓ふらちな奴だ、出世前の大事の身体、殊に面体めんていに疵を受けているではないか、わたくし遺恨いこんで身体に疵を付けるなどとは不忠者め
枳園とこの人とがかくまで激烈に衝突しようとは、たれも思いけぬので、優善、徳安の二人は永くこの喧嘩けんかを忘れずにいた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
十分ばかり逡巡しゅんじゅんした後、彼は時計をポケットへ収め、ほとんど喧嘩けんかを吹っかけるように昂然こうぜんと粟野さんの机の側へ行った。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
食事のときに、一杯ずつ与える葡萄酒ぶどうしゅを、父はもう一杯とせがむのを、母は毒だと断るのにいつも喧嘩けんかのような騒ぎでした
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのため、敵に乗ぜられ、喧嘩けんかを売付けられ、叛逆者の名を宣せられたのである。最後迄忠実にアピア政府に税金を納めていたのは彼であった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「今日まで一度も俺は田辺と喧嘩けんかしたことが無い。その時ばかりは、俺も争った。大勝の養子にお前を世話するという説には、絶対に反対した」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
役者は役者で、やりにくいとか何とかいいますし、よほど親切な我慢強い人でないと、喧嘩けんかになってしまうおそれがある。
久保田米斎君の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大分、もう売って行ってほとんど出盛りのテッペンと思う頃、仕事をしに入り込んでいた攫徒すりの連中が、ちょうど私たちの店の前で喧嘩けんかを始めた。
そうしては理由もなく喧嘩けんかを吹きかけるのだが、多分、しょっちゅうみんなが自分のからだつきや、禿げ上がった頭や
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
不潔で不備で喧嘩けんか早くて、田舎者がみんなわいわい言うばかりちっともわけの判らない、要するにおそろしく滅茶苦茶な時代だったにきまってる。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「実はね、今朝二匹のすずめ喧嘩けんかするのに出会ったし、今晩はまた、女の反対にぶっつかった。どうも辻占つじうらないがいけねえ。こりゃやめにしようや。」
いくつも高張提灯たかはりぢょうちんをかかげて、花嫁の一行が神田から霊岸島をさして練ってゆくと、丁度途中にめ組の喧嘩けんかがあった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いやいや今ここでお宮を怒らして喧嘩けんか別れにしてしまうとこれまでお宮にやっている手紙を取り戻すことが出来ない。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「私、一人きりでいたかったの。私、このごろあなたと喧嘩けんかすると、いつも一人っきりになりに行くの。……そうしてると、また元気が出てくるのよ」
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
個人でも国民でも斯様な所から「隔て」と云うものが出来、進んでは喧嘩けんか、訴訟、戦争なぞが生れるのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)