向後こうご)” の例文
ただならぬ御苦戦の折、しばしなりと、勤めを欠き、何かと御用も怠っておりましたが、向後こうごはお心安く思し召しくださりますように
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向後こうご、他家へは一切奉公いたすまじきむね、誓を立てて御暇をねがい、つづいて物頭四百五十石、荻田甚五兵衛、寄合五百石、たいら左衛門
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「されば、恵心えしん御房ごぼうも、念仏読経四威儀しいぎを破る事なかれと仰せられた。翁の果報かほうは、やがて御房の堕獄だごくの悪趣と思召され、向後こうごは……」
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
源「ぶち殺してもいゝ奴だが、命だけは助けてくれる、向後こうご左様の事を言うと助けては置かぬぞ、お國どのわたくしはもう御当家へは参りません」
「しかし御亡くなりになる前、島田とは絶交だから、向後こうご一切付合つきあいをしちゃならないっておっしゃったそうじゃありませんか」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
渡ろうとしたればこそ、このような目にも会うたのじゃ。その了見、そちも向後こうご入れ替えたらよかろうぞ。表に駕籠が待っている筈じゃ。早う行けッ
最早有志の士も天下に意なく、山野に隠遁いんとん躬耕きゅうこうし、道を守るより向後こうご致方之無いたしかたこれなしと存候。老兄以て何如いかんと為す。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
向後こうご大きな発展を約束されているだけに、その創始者の岡本綺堂先生の業績は永く記念されていいと思う。
身の程知らぬ『何故』は、向後こうご一切打捨てることじゃ。これをよそにして、爾の救いはないぞ。さて、今年の秋、この流沙河りゅうさがを東から西へと横切る三人の僧があろう。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
手づから弥勒菩薩みろくぼさつの座像をきざみて其の胎内にの絵巻物を納め、吾家の仏壇の本尊に安置し、向後こうごこの仏壇の奉仕と、此の巻物の披見は、此の家の女人のみを以てつかまつる可し。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
改まる年の初めの今日の日に向後こうご百年の将来のため災害防禦に関する一学究の痴人の夢のような無理な望みを腹一杯に述べてみるのも無用ではないであろうと思った次第である。
新春偶語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
万石まんごく以上の面々ならびに交代寄合こうたいよりあい、参覲の年割ねんわり御猶予成し下されそうろうむね、去々戌年いぬどし仰せいだされ候ところ、深きおぼし召しもあらせられ候につき、向後こうご前々まえまえお定めの割合に相心得あいこころえ
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「どうぞまっぴら御免なすって、向後こうごきっと気を着けまする。へいへい」
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「越州殿はお人が悪い。こりゃすこし、向後こうご口を戒めると致そう」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大事の曙光しょこうに一まつの黒き不安をすってしまった! もし向後こうご渭山いやまの城に妖異のある場合はいよいよ家中の者に不吉を予感さするであろう。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからして世界向後こうご趨勢すうせいは自殺者が増加して、その自殺者が皆独創的な方法をもってこの世を去るに違ない
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「参るか。望まぬ殺生なれど向後こうごの見せしめじゃ。ゆるゆるとこの向う傷に物を言わせてつかわそうぞ」
懇願仕候御謙遜の御手紙なりしが決して貴兄ならば成功せざるはずなしと確信仕候殊に御自身教鞭を執らるるのみならずその上向後こうごの発展上一種の Elan を与へ奮心を
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
母が食を止めて餓死するというまでの強意見こわいけん向後こうご喧嘩口論を致し、あるいは抜身の中へ割って這入り、傷を受けることがあらば母の身体へ傷を付けたるも同じである、以後慎め
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ウム。塙代ばんだい与九郎奴は切腹も許さぬぞ。万一切腹しおったらその方の落度ぞ。不埒な奴じゃ。黒田武士の名折れじゃ。屹度きっと申付けて向後こうごの見せしめにせい。心得たか。……立てッ……」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「よろしゅうござりまする、しかと向後こうごは慎むでございましょう。」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
嫁入前の大事な娘だ、そんな狐の憑いた口で、向後こうご妙の名も言うな。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
集まった諸洞の大将連は、その風俗服装、武器馬具、ほとんど区々まちまちで、怪異絢爛かいいけんらんを極めた。孟獲はその中に立って、向後こうごの作戦方針をのべた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向後こうごもし主人が気狂きちがいについて考える事があるとすれば、もう一ぺん出直して頭から考え始めなければならぬ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其の代り事成就なせば向後こうご御出入頭おでいりがしらに取立てお扶持も下さる、ついてはあゝいう処へ置きたくないから、広小路あたりへ五間々口ごけんまぐちぐらいの立派な店を出し、奉公人を多人数たにんず使って
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
門人の浜田寅之助は、ただ今あちらで、破門をいい渡し、向後こうご、心を改めて修行いたすよう、よく訓誡くんかいしておきました。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一枚には百円受取った事と、向後こうご一切の関係を断つという事が古風な文句で書いてあった。手蹟は誰のとも判断が付かなかったが、島田の印は確かにしてあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
斯様なよこしま非道のことに相成りましたが、向後こうごすみやかに善心に立返りますから、幾重にも御憐愍ごれんみんをもちましてお見遁みのがしを願います、いやしくも侍たるものが、何程いかほど零落したとて縄目にかゝりましては
「いのちだけは助けてやる。しかし向後こうごのこともあるから、その縄目は、ひとりでに解ける時までそうしておく」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを許すとつい御迷惑になるような事が出来ますが、これは是非御容赦を願いたいと思います。その代り向後こうごはきっと表門から廻って御断りを致した上で取らせますから
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
斬るのるのッておどしやアがッて畜生ちきしょうめ、此の村には己の親類があるから、向後こうごあらすときかねえぞ、てめえのつらを見覚えのために印を附けて置こう、刺青ほりものをして置いて遣るから然う思え、重さん
善信はまだ年も若く、年来、そちとは有縁うえんの間がら、また、師と頼んでわしにもまさる人物であるゆえ、善信について、向後こうごの導きと教えをうけたがよい
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
是非探究して見なければならん。それにしても昨日きのうあの女のあとを付けなかったのは残念だ。もし向後こうごあの女に逢う事が出来ないとするとこの事件は判然はんぜんと分りそうにもない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一其の方父織江儀御用に付き小梅中屋敷へまかり越し帰宅の途中何者とも不知しれず切害被致候段いたされそろだん不覚悟の至りに被思召おぼしめされ無余儀よぎなくなが御暇おいとま差出候さしだしそうろう上は向後こうご江戸お屋敷は不及申もうすにおよばず御領分迄立廻り申さゞる旨被仰出候事おおせいでられそろこと
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
向後こうご父の怒に触れて、万一金銭上の関係が絶えるとすれば、彼はいやでも金剛石ダイヤモンドを放り出して、馬鈴薯ポテトーかじり付かなければならない。そうしてそのつぐないには自然の愛が残るだけである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
向後こうごあの居候殿の放縦ほうじゅうも少し慎しむような方針をとるべく、かみにも御意見しなければならぬ——と啓之助は、山番たちの前に息まいて、それぞれの指図を与え、納屋蔵の外へ追いやった。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうぞ御遠慮なく何でもみんな云って下さい。私の向後こうごの心得にもなる事ですから」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
加えれば恩寵にれて、身のほどもわきまえずにどこまでもツケ上がりおる! 向後こうごは予の室へ、一歩でもはいると承知せぬぞ。いや、沙汰あるまで自邸で謹慎しておれ。——退がらぬかっ。これ、誰かある、呂布を
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何も書く材料のない彼は仕方なしに筆を執った。そうして今度離縁になったについては、向後こうご御互に不義理不人情な事はしたくないものだという意味をわずか二行あまりつづって先方へ渡した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いや大事なのは向後こうごの約だ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よしこれから三千代の顔を見るにしたところで、——また長い間見ずにいる気はなかったが、——二人の向後こうご取るべき方針に就て云えば、当分は一歩も現在状態より踏み出す了見は持たなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれどももし僕の高木に対する嫉妬しっとがある不可思議の径路を取って、向後こうご今の数十倍にはげしく身を焼くならどうだろうと僕は考えた。しかし僕はその時の自分を自分で想像する事ができなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)