こう)” の例文
旧字:
わざ理合りあいとは、車の両輪、鳥の両翼。その一方を欠けば、そのこうは断絶される。わざおもてに表れるぎょうであり、理合りあいは内に存する心である。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「入湯のこうで、定めし、見違えるほど御壮健になったことと存じます。何と申しても人間は健康第一、これでなくてはいけません」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曰く、「矢筈草俗に現の証拠といふこの草をとりみそ汁にて食する時は痢病りびょうはなはだ妙なり又瘧病おこり及び疫病等えきびょうなどにも甚こうあり云々うんぬん」。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その手篤てあつい看護がこうそうしたのか、それとも竹見の友情が天に通じたのか、ハルクはすこし元気を取り戻したようであった。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「わしの符籙かじふだは、事が起らんさきならこうがあるが、こうなってはなんにもならん、四明山しめいざん鉄冠道人てっかんどうじんと云う偉い方がおられるから、その方に頼むがいい」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
医師いしゃはやっぱり胃腸だと言った。けれど薬はねっからこうがなかった。せきがたえず出た。体がだるくってしかたがなかった。ことに、熱が時々出るのにいちばん困った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
こしをだにくる所もなく、唯両脚を以てたいささへて蹲踞そんきよするのみ、躰上に毛氈もうせんと油紙とをかふれども何等なんらこうもなし、人夫にいたりては饅頭笠まんじうがさすでに初日の温泉塲をんせんばに於てやぶ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ある時菓樹かじゅは幹に疵つけ徒長を防ぐと結果にこうがあると云う事を何かの雑誌で読んで、屋敷中の梨の若木わかきの膚を一本残らず小刀でメチャ/\に縦疵たてきずをつけて歩いたこともあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
瘠我慢やせがまん一篇の精神せいしんもっぱらここにうたがいを存しあえてこれを後世の輿論よろんたださんとしたるものにして、この一点については論者輩ろんしゃはいがいかに千言万語せんげんばんごかさぬるも到底とうてい弁護べんごこうはなかるべし。
島根県の西部海上、石見いわみ高島の鼠の話が、本居もとおり先生の『玉勝間たまかつま』巻七に出ている。この島鼠多く、人をも害することあり、或年あるとし浜田より人をつかわし駆除せしめらるるもこうしとある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
〔譯〕臨時りんじしんは、こうを平日にかさぬればなり。平日の信は、こうを臨時にをさむべし。
そのきょに乗じた諸戸の思い切ったやり口が、見事にこうそうした訳である。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
地下茎ちかけい塊根かいこんのできる何首烏かしゅうすなわちツルドクダミも、一時はそれが性欲にくとて、やはり中国の説がもとで大騒ぎをしてみたが、結局はなんのこうも見つからず、阿呆あほらしいですんでしまった。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
と訊いたのは僕の嘘がお父さんのと諸共もろともこうを奏した証拠だった。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
目安箱の上書がこうそうして、かえでの密議となり、元京都所司代であった松平輝高てるたかは、召されて将軍家から内々に秘命をうけた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわば月並つきなみの衣類なり所持品です。それがうまくこうを奏して隅田すみだ氏の妹と間違えられたのです。顔面のもろくだけたのは、神も夫人の心根こころねあわれみ給いてのことでしょう。僕は復讐を誓いました。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丁度その時は、通り過ぎるから自動車もなかったので、彼女は当然柾木の車に走り寄った。いうまでもなく、柾木の偽瞞ぎまんこうそうして、彼女はその車を、辻待ちタクシーと思い込んでいたのである。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
前の二事は草木における肥料に等しく後の一事は五風十雨ごふうじゅううこうあるもの。肥料多きに過ぎて風に当らざれば植木は虫がつきて腐つてしまふべし。さればこの三つ兼合かねあひの使ひ分けむづかしむづかし。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
だが、その勝家も、やがてまた、美濃の奇襲と、雨さえ降れば出る水に苦しめられて、何のこうも挙げずに帰って来た。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手ばやい変装が、みごとにこうをそうしたのです。
塔上の奇術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それらの諸隊が、地方宣撫のこうをあげている間に、孔明は、降参の一将を招いて、成都への攻進を工夫していた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そいつを呼んで来て、破邪はじゃの術を行わせているんですから、さしもわがお奉行の方術も、いちいち這奴しゃつ秘封ひふうで、そのこうを現わさなくなったものと思われまする
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先帝、臣が謹慎きんしんなるを知る、故に崩ずるにのぞみて、臣によするに大事を以てしたまいぬ。命をうけて以来、夙夜しゅくや憂歎し、付託のこうあらずして、以て先帝の明を傷つけんことを恐る。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
献策を用いて、約半日、数千の人夫を森林に入れ、おびただしい材木を葉付のまま川へ投じてみたが、その枝と枝と交錯して、水のよどむに役立つかと見えるのも一瞬で、何のこうもないことがわかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)