内証ないしょ)” の例文
旧字:内證
いずれ両親には内証ないしょなんだから、と(おいしかってよ。)を見得もなく門口でまで云って、遅くならない内、お妙は八ツ下りに帰った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お由良は内証ないしょにしておいてくれと、堅く口止めしましたが、実は明日にもお由良を引取って、内祝言するはずでございました。
『実は私一人の胸に納めかねますんで——。是非先生に内証ないしょで聞いて頂きたいと存じまして上りました。文夫様の事なんでございますが——』
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
お祖父さんに然う云ってはいけないよ、お父さんの来た事が知れると、あの通りやかましいから、お祖父さんに内証ないしょでお母を
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そうお。じゃあこれはごく内証ないしょよ。お書きになったり何かしちゃ駄目よ。あの人たちの名誉にかかることですから。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これは電信といってむろん先生には内証ないしょだ。そっと背中をつねるのをあいずに、机の下から紙きれをわたす。取らないとつねってばかりいるから仕方がない。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そんな邪慳じゃけんな事をおっしゃると、つたから電話がかかって来ても、内証ないしょで旦那様へ取次ぎますよ。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「私と主人との間には、今までは何の秘密もなかったんですのに、私に全然内証ないしょで、主人が貴女の世話をしているなんて……。一体、貴女は主人の何なんですの!」
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「ゆうべお母さまの夢を見ましたよ」そんなことをいかにも内証ないしょらしく耳のそばへ来てささやく時など、何ともいえないじかな愛情のつながりが生れているのに感づかされた。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これは、頭取と幕内と大和屋の三人だけの内証ないしょになっているンですが、どこからもれたのかこちらよりさきに菊人形にされてしまい、中村座では大きに迷惑をしているンで……
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
内証ないしょで教えることも聞くことも書生間の恥辱ちじょくとして、万々一もこれを犯す者はない。ただ自分一人ひとりもってそれを読砕よみくだかなければならぬ。読砕くには文典を土台にして辞書に便たよほかに道はない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「なに、ちょっと内証ないしょで、わたしに会いたい人が中庭に来ていますって……」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それからこれは内証ないしょですけれど百合さんはお父様のお手紙を読みながら泣いてゐたやうです。私は百合さんの眼へ眸をやることはできませんでしたけれど、声が顫へてるのがよく分りました。
恢復期 (新字旧仮名) / 神西清(著)
内証ないしょの笹屋喜右衛門は、商売とはいえ、さすがに少しあきれ顔だった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お母さんはそっとしてある内証ないしょごとをあばきたてられるような気がしてつらかった。めくらではないといい聞かせ、そう考えさせようとしているのは、自分だけのはかないなぐさめなのであろうか。
赤いステッキ (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そして、手あたり次第に衣服きものや道具を持ち出したのですぐ内証ないしょが困って来た。お岩がしかたなしに一人置いてあったげじょを出したので、伊右衛門の帰らない晩は一人で夜を明さなければならなかった。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
切支丹どころか真宗しんしゅうのこちこちなんだのに、只あの変な観音様を内証ないしょに所持しているというだけで、やみくも因縁つけようというんだから、今となっちゃあっしまでも野郎達四人が憎くなるんです。
「あれは内証ないしょにしておきましょうよ。お味方同志でございますから」
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そこまでは判っているんだが、それから先きがまだどうも判らねえ。お近には内証ないしょの男がある。それが音羽の御賄屋敷の黒沼という家へ、このごろ婿に来た幸之助という若い奴らしいんですがね」
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
己はほんの内証ないしょでお前に言うのだがな
「ああ、今日はちっとの、内証ないしょに芝居者のお客があっての、実は寮の方で一杯と思って、下拵したごしらえに来てみると、困るじゃあねえか、おめえ。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
でも若旦那は町風呂の広々としたのが好きなんだそうで、——それに、こいつは内証ないしょですがね、箔屋はくや町の桜湯にはおなみという凄いのがいますよ。
ぐさま検視もり、遂に屍骸しがいを引取って野辺の送りも内証ないしょにて済ませ、是から悪人穿鑿せんさくになり、渡邊織江の長男渡邊祖五郎そごろうが伝記に移ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いつもそのつもりでおりますが、照正様も照常様も内証ないしょでチョクチョクおでかけになるようです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
内証ないしょの奥で、嬰児あかごが泣く。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と耳のとこへ口をつける……頬辺ほっぺたひやりとするわね、びんの毛で。それだけ内証ないしょのつもりだろうが、あのだもの、みんな、聞えるよ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三河島の母親がツイそこまで来て内証ないしょでちょっと逢いたいと言っているからとおびき出し、弓町から湯島までつれて来て、この家へ押込んでしまった。
まとまったお金を幾らか私が貰って上げるから、それで内証ないしょの借金を払い、二百両か三百両の金を友さんにも遣り、借金のかたを附け、可なり身形みなりこしら
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「けれどもこれは内証ないしょだよ。柳田だってわきへしゃべられないようにいいつけられている」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……気を附けないと……何でも髪結さんが、得意先の女の髪を一条ひとすじずつ取って来て、内証ないしょで人のと人のと結び合わせてしまっておいて御覧なさい。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
南蛮なんばん物にはよく効く吐剤がある。南の方の国で取れる吐根とこんなどはその一つだが、なかなか手には入るまいよ、——だが、こいつは内証ないしょにして貰いたい。
森「少し待っていねえ、お母様ふくろさんに喧嘩の事なんぞを云うとくねえから、旦那に内証ないしょで話して来るから」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ツイ父親に内証ないしょで五百両という大金を染五郎の一存で融通ゆうずうしたことなどが知れたためだと言われております。
そりゃ見せたいような容色きりょうだぜ、寮は近頃出来たんで、やっぱり女郎屋の内証ないしょで育ったもんだが、人は氏よりというけれど、作平さん、そうばかりじゃあねえね。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
九「お前さんは湯屋ゆうやの番頭さんなら内証ないしょで手拭を持って来ておくんなさい、お願いです」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その後は三輪の万七にも内証ないしょで、子分の八五郎に、そっと見張らせて、情勢の変化を眺めていたのでした。
女房おかみさんに、悟られると、……だと悟られると、これから逢うのに、一々、勘定が要るじゃありませんか。おまいりだわ、お稽古だわッて内証ないしょで逢うのに出憎いわ。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鬼の女房にょうぼ鬼神きじんたとえ、似たもの夫婦でございまして、仙太郎の女房にょうぼうお梶は誠に親切者でございまするから、可愛相な者があれば仙太に内証ないしょで助けて遣りました者も多くあります。
内証ないしょに大一座の客があって、雪はふる、部屋々々でも寐込ねこんだのをしおにぬけて出て、ここまでは来ましたが、土を踏むのにさえ遠退とおのいた、足がすくんで震える上に
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
呼んでくれ、わしに逢ったと云うではないよ、あのざまの処から、内証ないしょで呼んでくれ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
父さん、みんな申上げた方がいいでしょう、——染吉さんは久し振りで逢って話したいことがあるから、父さんには内証ないしょで、私に酉刻むつ半(七時)頃お稲荷様まで来るようにと、酒屋の小僧さんに頼んで伝言ことづて
「それに、あの、お出先へお迎いにくのなら、御朋輩ごほうばいの方に、御自分の事をお知らせ申さないように、内証ないしょでと、くれぐれも、おことづけでございましたものですから。」
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仲木場の寺町辺の坊さんが内証ないしょうかれに来た者ので、長合羽に頭巾がありましたから、音羽はくしこうがいを取り、島田髷を揉み崩して山岡頭巾を冠って両褄りょうづまを高く取り、長合羽を部屋着の上に着て
「つい女気で、あかい切を上へ積んだものですから、真上のを、内証ないしょで、そっと、頂いたんです。」
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人「エー、徹夜をした、ウヽム、わしも老眼ゆえ見損いと云うこともあり、又世間にはた者もないと限らねえ、見違いかも知れぬから、今夜貴様私のとこへ泊って、若に内証ないしょで、様子を見て呉れぬか」
此奴こいつふんどしにするため、野良猫の三毛を退治たいじて、二月越ふたつきごし内証ないしょで、ものおきで皮をしたそうである。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半五「こりゃア飛んだことが出来た、何うも弱ったな、何うしよう、縁切と云うと屹度縁切だからなア、子分に内証ないしょこうか知らん、何うしよう、困った事だな、口外するなと云うから此んな事とは知らねえから」
「何、串戯なものか真剣だ、ずっと寄んねえ、内証ないしょ話は近い方がい、」と、ぐいと引くと、身体からだななめなびく処を、足を挙げて小間使の膝の上に乗せた、傍若無人の振舞。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょいと内証ないしょでお母を呼び出してくんな
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
巣を見るばかりで、そのたたりは、と内証ないしょで声をひそめて、老巫女おいみこうかがいを立てた。されば、明神様の思召おぼしめしは、鉄砲はけもされる。また眷属けんぞく怪我けがに打たれまいものではない。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)