人力車くるま)” の例文
白い髮の祖母さんから、子供まで、皆な國まで買切の人力車くるまに乘つて出掛けました。姉の居た家には鷲津さんが入ることに成りました。
やがて町はずれの狭く急なる曲がりかどを争うと見えたりしが、人力車くるまは無二無三に突進して、ついに一歩をきけり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいにくなことには、その辺に人力車くるまも見当らぬ。わしは、今にもぶっ倒れ相な身体を、妻見たさの気ばかりで、ひきずる様にして歩いて行った。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と其の頃の事で人力車くるまはなし、また駕籠かごに乗るような身の上でもないから、丹治が負ってせっせと参りました。此方こちらは最前から待ちに待って居ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
路地はどうかすると横町同様人力車くるまの通れるほど広いものもあれば、土蔵または人家の狭間ひあはひになつてひと一人ひとりやつと通れるかどうかと危まれるものもある。
路地 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
馬車の通っているところは馬車に乗り、人力車くるまのあるところは人力車に乗ったが、子供をおぶったり、手を引っ張ったりして上るようなけわしい峠もあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
我々われ/\門川もんかはりて、さら人力車くるまりかへ、はら溪谷けいこくむかつたときは、さながらくもふかおもひがあつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それよりも激しいのは人力車くるまながえにつかまったり後押しをしたり、前へ立って駈出していったりする。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
鴻巣こうのすにいたりて汽車を棄て、人力車くるまを走らせて西吉見の百穴あなに人間のむかしをしのび、また引返して汽車に乗り、日なお高きに東京へ着き、我家のほとりに帰りつけば
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
降りても人力車くるま一台も無いようなところもある。停車場の建物も勿論小さい。しかもそこには案外に大きい桜や桃の木などがあって、春は一面に咲きみだれている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちょっと人力車くるまに乗っても、三銭とか五銭とかいう位で、十銭というのはよほど遠道であった。
午前ひるまえ市街まちは騒々しい電車や忙がしそうな人力車くるまや大勢の人間や、眼の廻るように動いていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
机と書笈ほんばこ夜具やぐ人力車くるませて笠のこわれた洋灯らんぷを君が手に持って書生の引越のように車の後からいて来ればそれで済むだろう。マアともかくも一遍ってその家を見て来給え。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
北野からまた合乘りの人力車くるまに乘つて歸つたが、丁ど半分道ほど來た時、向うから若い男と女とを乘せた車夫くるまやが「賣るか」と聲をかけて、車夫同士で客の取り替へツこの相談を始めた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
がらがらがらと挽き込だる、人力車くるまは旦那か、南無三と、恠我の振りしてかしこまる。吉蔵よりもお園が当惑。ちやうどよいとこ、悪いとこ、奥様ならば、よいものを、旦那様とは、情けなや。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
私は坂の上の人力車くるまの帳場まで提灯ちやうちんをつけて送つて行つた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
はしけより人力車くるまにうつり
帰省 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
丁度そこへ二台の人力車くるまが停つた。矢張やはり斯のみぞれいて、便船におくれまいと急いで来た客らしい。人々の視線は皆な其方に集つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
路地はどうかすると横町同様人力車くるまの通れるほど広いものもあれば、土蔵どぞうまたは人家の狭間ひあわいになって人一人やっと通れるかどうかとあやぶまれるものもある。
己も仕様がないから賭博をめ、今じゃア人力車くるまを引いてるが、旦那貴方あんた何処どこのもんだか知んねえが、人を打殺ぶっころして金をり、其の死人しびとを持って来たなア
門構えや板塀囲いたべいがこいの家の多い町へ来たとき、がた人力車くるまの音が耳につくくらいそこらが暗くシンとしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかるに八時は先刻さっき打っても人々は未だなかなか散じそうな様子も見えない。人力車くるまが六台玄関の横に並んでいたが、車夫どもは皆な勝手の方で例の一六勝負最中らしい。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おやすさんというひとを、私が十一、二になってから見覚えている印象は、とても大柄なすらりとした——まだコートはない時分だったから、吉原から人力車くるまでくるのに
茶屋が床几に腰掛くれば、女主の案内、特別に、奥座敷へと待遇すも煩はしく。なに急ぐんだから、ここで好いのよ、それよりか、これで手荷物を受取つて、人力車くるまを直ぐにといつて下さい。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「なに、人力車くるまを迎ひにやつたから可い。」
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
十二月の十日のこと、珍しい御客様を乗せた一だい人力車くるまが門の前で停りました。それは奥様の父親おとう様が東京から尋ねていらしったのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
電車もなくなって仕舞ったので、慶三は人力車くるまの上から夜更よふけの風に吹かれながら、更に再びお千代と怪しい男との間に潜んだ情交の真相を知らんと苦しんだ。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
丁度ちやうど御当日ごたうじつ往来止わうらいどめになるだらうと聞きましたから、昼飯ひるめしを食べて支度したくをいたし、午後二時ごろから宿やどを出ましたが、其処そこまでは人力車くるまかれるところ
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこで一休みしてから、「わしはまア後で行くで、お前たちは人力車くるま一足先ひとあしさきへ行っとれ。」と言って、よく東京を知っている父親は物馴ものなれたような調子で、構外へ出て人力車くるまを三台あつらえた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「なに、人力車くるまを迎いにやったからいい」
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蟹沢かにざはの出はづれで、当世風の紳士を乗せた一台の人力車くるまが丑松に追付いた。見れば天長節の朝、式場で演説した高柳利三郎。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と云いながら人力車くるまの梶棒を持って真黒になった死骸を沼の中へ突き込んでいます。
罪ではあるがすきうかゞい、沼の中へ突きおとし、あがろうとする所を人力車くるま簀葢すぶたを取って額を打据うちすえ、殺して置いて、其のまゝにドロンと其処そこ立退たちのき、長野県へ往ってほとぼりのさめるのを待ち
十四の時からきゅううらないの道楽を覚え、三十時代には十年も人力車くるまを引いて、自分が小諸の車夫の初だということ、それから同居する夫婦のうわさなぞもして、鉄道に親を引つぶされてからその男も次第に
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
りょうばかりの人力車くるまが静粛な群集の中を通って、御仮屋の前まで進みました。真先には年若な武官、次に御附の人々、大佐、知事、馬博士、殿下は騎兵大佐の礼服で、御迎の御車に召させられました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)