トップ
>
些
>
いささか
ふりがな文庫
“
些
(
いささか
)” の例文
少年の間、彼は全くそういう窒息的な環境に馴らされ、
些
(
いささか
)
の反撥も苦悩もなく過し、十六歳の年まで読書さえ母の監視つきであった。
ジイドとそのソヴェト旅行記
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
元義は終始万葉調を学ばんとしたるがためにその格調の
高古
(
こうこ
)
にして
些
(
いささか
)
の俗気なきと共にその趣向は平淡にして変化に乏しきの感あり。
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
一
間
(
けん
)
の余の空間を辷って巻き附くその全く目にも留らぬ廻転と移動とを以てして、
些
(
いささか
)
の裂けも破けも、傷つきも
飜
(
ひるがえ
)
りもしないことだ。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
雪面は鉋をかけたように滑かで
些
(
いささか
)
の凹凸なく、晴空に悠然と煙を吐いているさまは、全く天外に白磁の大香炉を据えたようである。
山と村
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
一首は、
豊腴
(
ほうゆ
)
にして荘潔、
些
(
いささか
)
の渋滞なくその歌調を
完
(
まっと
)
うして、日本古語の優秀な特色が
隈
(
くま
)
なくこの一首に出ているとおもわれるほどである。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
▼ もっと見る
こは予にして若し彼等に幸福なる夫妻を見出さんか、予の慰安の
益
(
ますます
)
大にして、念頭
些
(
いささか
)
の苦悶なきに至る可しと、早計にも信じたるが故のみ。
開化の殺人
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
醇化を遂げた神の住みかなる天上は、
些
(
いささか
)
の精霊臭をもまじへなかつた。そこには「死の島」の思想は印象を止めなかつた。
「とこよ」と「まれびと」と
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
母は麻酔剤のために
些
(
いささか
)
の苦痛もなく眠りつづけてはいるが、それは母という特殊の意味で親しい肉体を戦場としての生と死との最後の戦いであり
母の死
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
もう
好加減
(
いいかげん
)
に通りそうなもの、何を
愚頭々々
(
ぐずぐず
)
しているのかと、一刻千秋の思い。死骸の臭気は
些
(
いささか
)
も薄らいだではないけれど、それすら忘れていた位。
四日間
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
些
(
いささか
)
も昔の清新さを失わず、再読三読して感歎を新にするに反して、これは誠に皮肉な時の批判と言わざるを得ない。
涙香に還れ
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
われら一個の考えによれば今後はますます万民
鼓腹
(
こふく
)
して
些
(
いささか
)
の不平もない理想的黄金世界からは遠ざかりゆくであろうが、これは別に理由のあることで
戦争と平和
(新字新仮名)
/
丘浅次郎
(著)
日露
干戈
(
かんくわ
)
を交へて
将
(
まさ
)
に三
閲
(
えつ
)
月、世上愛国の呼声は今
殆
(
ほと
)
んど其最高潮に達したるべく見え候。吾人は彼等の赤誠に同ずるに於て
些
(
いささか
)
の考慮をも要せざる可く候。
渋民村より
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
そこに美姫と、美酒と、山海の珍味を並べて、友達を集めて昼夜兼行の豪遊をこころみたために、百万円は瞬く間に無くなって、
些
(
いささか
)
なからぬ借財さえ出来た。
夫人探索
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
見渡せば水勢蕩々、緑樹の間古城の姿、山の形、舷を打つ小波も昔ながらに
些
(
いささか
)
の異変はないがただ船中の様は昔に変る未見の船頭、懐かしい二人の友が見えぬ。
イエスキリストの友誼
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
そこで一時代の文學は多かれ少なかれ支配階級の階級的偏見に感染することは
些
(
いささか
)
の疑いもない。
唯物史観と文学
(旧字旧仮名)
/
平林初之輔
(著)
「うむ、
些
(
いささか
)
、怪しい節がある。築城術の心得があり、しかも火術にも達しているらしい」
天主閣の音
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
常に家にありてわずかに貯えた物を護るに戦々
兢々
(
きょうきょう
)
の
断間
(
たえま
)
なく、
些
(
いささか
)
の影をも怖れ人を見れば泥棒と心得吠え立つるも、もとこの二十年は犬から譲り受けたのだから当然の辛労である。
十二支考:09 犬に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
忠直卿当国
津守
(
つのかみ
)
に移らせ給うて後は、
些
(
いささか
)
の荒々しきお振舞もなく安けく暮され申候。
忠直卿行状記
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
それをそうと信ぜさせられた時、その市井の女はいよいよ
些
(
いささか
)
の
歪曲
(
わいきょく
)
をも
容
(
ゆる
)
さぬ真相を示すのである。世間も、彼の母も、その母の地位も、すべて残る
隈
(
くま
)
なく、彼の心眼に映って来る。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
この文壇の人々と予とは、あるいは全く接触点を
闕
(
か
)
いでいる、あるいは
些
(
いささか
)
の触接点があるとしても、ただ行路の人が彼往き我来る間に、
忽
(
たちま
)
ち相顧みてまた忽ち相忘るるが如きに過ぎない。
鴎外漁史とは誰ぞ
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
近隣の家々は、よどんだ空気の中に
靄
(
もや
)
に包まれてぼやけて居た。二三丁
距
(
へだ
)
てた表の電車通りからも
些
(
いささか
)
の響も聞えて来なかった。ぼやけて底光りのする月光が地上のものを抑え
和
(
なご
)
めていた。
春:――二つの連作――
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
互いに打ち驚き、いかにしてかかる山にはおるかと問えば、女の
曰
(
いわ
)
く、山に入りて恐ろしき人にさらわれ、こんなところに来たるなり。
遁
(
に
)
げて帰らんと思えど
些
(
いささか
)
の
隙
(
すき
)
もなしとのことなり。
遠野物語
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
案の定男は、相手の顔から
些
(
いささか
)
の好色的な影も逃すまじとの鋭い其の癖如才無い眼付きで、先生、十七八の素人は如何です?——と切り出して参りました。矢張り源氏屋だったのであります。
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
潮引き波去るの後に
迨
(
およ
)
んで之を
覧
(
み
)
る
塵埃
(
じんあい
)
瓦礫
(
がれき
)
紛として八方に散乱するのみ。また
些
(
いささか
)
の益する所なきが如しといへどもこれによりてその学が世上の注意を
惹
(
ひ
)
くに至るあるは疑ふべからざるなり。
史論の流行
(新字旧仮名)
/
津田左右吉
(著)
四六時中
(
しろくじちゅう
)
些
(
いささか
)
の油断なく、自己に与えられたる天職を睨みつめ、一心不乱に自己の向上と同時に、同胞の幸福を図り、神を愛し敬い、そして忠実に自己の守護霊達の指示を
儼守
(
げんしゅ
)
することである。
霊訓
(新字新仮名)
/
ウィリアム・ステイントン・モーゼス
(著)
これに
由
(
よ
)
って
人智
(
じんち
)
は、
人間
(
にんげん
)
の
唯一
(
ゆいいつ
)
の
快楽
(
かいらく
)
の
泉
(
いずみ
)
となつている。しかるに
我々
(
われわれ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
周囲
(
まわり
)
に、
些
(
いささか
)
も
知識
(
ちしき
)
を
見
(
み
)
ず、
聞
(
き
)
かずで、
我々
(
われわれ
)
はまるで
快楽
(
かいらく
)
を
奪
(
うば
)
われているようなものです。
勿論
(
もちろん
)
我々
(
われわれ
)
には
書物
(
しょもつ
)
がある。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
勿論
些
(
いささか
)
の油断を許さない、刻一刻と移動して止まない体重の中心を、微妙に調節するあらゆる筋肉の
働
(
はたらき
)
と、集注的な強い意識とを必要とする。
黒部川を遡る
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
序
(
ついで
)
に頭の
機能
(
はたらき
)
も
止
(
と
)
めて欲しいが、こればかりは
如何
(
どう
)
する事も出来ず、
千々
(
ちぢ
)
に思乱れ
種々
(
さまざま
)
に
思佗
(
おもいわび
)
て頭に
些
(
いささか
)
の隙も無いけれど、よしこれとても
些
(
ちッ
)
との
間
(
ま
)
の辛抱。
四日間
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
しかるに彼は特にわれらを召さずしてかへつてわれらの来らざるを怒りわれらは特に伺候せずしてかへつて彼の召を待つ。この間互に
些
(
いささか
)
の悪意あるに非ず。
従軍紀事
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
フロはあるし、こせこせした心配はないし、その上、この土曜日から小学校は正月休みでしずかだし、仕事は面白いし、私もやはり
些
(
いささか
)
の懸念もない有様です。
獄中への手紙:01 一九三四年(昭和九年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
陰口
(
かげぐち
)
をいう者の人格の
下劣
(
げれつ
)
にして、
些
(
いささか
)
の
俸禄
(
ほうろく
)
のために心の独立を失い、口に言わんと欲することを
得
(
え
)
言わず、はなはだしきは心に思わんと欲することさえも、まったく思わず
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
岡本綺堂氏の「半七捕物帳」その主人公の半七に
就
(
つ
)
いて
些
(
いささか
)
私見を述べることにする。
半七雑感
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
鶴見はこのたまたまの会見にも、
些
(
いささか
)
の感情をも動かさずに、それきりに別れてきた。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
著者の
所謂
(
いわゆる
)
……屍体飜弄……が当夜の呉一郎に依って演ぜられたるものと認めて
些
(
いささか
)
の不自然を感ぜざるのみならず、
却
(
かえ
)
って右の事象に対する説明の簡単適切、疑うべからざるものあるを以てなり。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
そしてメーコン河の両岸に於ける大森林地帯に住んでいる土人は、今も太古の生活を続け、太古時代と殆ど
些
(
いささか
)
も変らぬ土俗や信仰や言語を存している。
二、三の山名について
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
いよいよそうときまった。眼は静かに塞いで居る。顔は何となく沈んで居て
些
(
いささか
)
の活気もない。たしかにこれは死人の顔であろう。見せ物はこれでおやめにした。
ランプの影
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
かくの如く何もかも主人まかせで少しの意志
些
(
いささか
)
の自由をも有せないものが
僕
(
しもべ
)
である。無論今日ではこの種の奴隷はいない。がしかし少しはいる。
睡
(
ねむ
)
くても主人が手を
拍
(
う
)
てば
諾
(
はい
)
といって立たねばならぬ。
イエスキリストの友誼
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
人は魚の如く其水の中を登って行くのであるが、清冷な水は岩面に
些
(
いささか
)
の汚泥をも
留
(
とど
)
めていないので、何処を蹈んでも更に滑る憂がない。約一時間半も登ると右から一つの沢が来る。
笛吹川の上流(東沢と西沢)
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
力なくさりながら
些
(
いささか
)
の不平もなく、不思議に慰安と満足とを得るのである。
釜沢行
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
些
漢検準1級
部首:⼆
7画
“些”を含む語句
些少
些々
些事
些細
些末
些子
些程
些中
些細事
露些
一些事
今些
些額
些許
些計
些箇
些末事
些末主義
些技
些小
...