乳母ばあや)” の例文
実を言うと、僕が最初にして最後の恋をしたのは、六つの頃で、相手は自分の乳母ばあやでしたが、——なにぶんこれは大昔おおむかしのことです。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そんなに気がむかないのなら、また、そのうちに行きたくなるまで休ませようと、乳母ばあやを師匠のところへ断わりにやろうとすると
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
乳母ばあやは今日の夕刊を見たろう? 事件ことがどうも面白くないんだ。ボーシュレーは書記を殺した下手人げしゅにんがジルベールだと云い張っている。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
大抵たいていな人は財布さいふの底をはたいて、それを爺さんの手にのせてりました。私の乳母ばあや巾着きんちゃくにあるだけのお金をみんな遣ってしまいました。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
登を抱いていた乳母ばあやがかけつけました。それを振りもぎって走る郁太郎。馬上にいたお松も、馬から下りないわけにはゆきませんでした。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
主税が、小児こども衆は、と尋ねると、二人とも乳母ばあやが連れて、土産ものなんぞ持って、東京から帰った報知しらせ旁々かたがた、朝早くから出向いたとある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜ乳母ばあやが一緒に来てくれなかったんだろう。乳母はあんまり私がいじめるので、怒ってうちを出てしまったのじゃないか知ら。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
入って来たのは乳母ばあやのお霜でした。平次の顔を見ると、いきなり畳へ崩折くずおれて、赤ん坊のようにシクシク泣き始めたのです。
あの乳母ばあやが私をつかまえて、放すものかというようにもしてこぼしていた話にも、そこまでも行った御冗談じょうだんだったとは言ってませんでしたよ。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
乳母ばあやが雇って来た駕籠に乗り、頼母が、娘の家へ行ったのは、それから間もなくのことで、娘の家は、府中から一里ほど離れたところにあった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ですから妾は、その頃まで独身者で、お金を貸していた叔父おじさんの手に引き取られて、その乳母ばあやのお乳で育ったのよ。それあいい乳母ばあやだったの……。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
バリモントはそれ以上の早熟ませた子供で、その頃から乳母ばあやにお尻を叩かれては、くす/\喜んでゐたに相違ない。
老女おばさん、そんなこと——此の教会で亡母はゝのこと知つてて下ださるのは、今は最早もう老女さん御一人でせう、うちでもネ、乳母ばあやが亡母のこと言ひ出しては泣きます時にネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
乳母ばあやのゐる方へいらつしやい。お母さんは澤山ご用があるから。さ、さ、いらつしやい。
人形の家 (旧字旧仮名) / ヘンリック・イプセン(著)
「もう二度と町っ子なんかとお遊びになるんじゃありません乳母ばあやがお母様に叱られます」
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
音「乳母ばあやア乳母ア、ちょいと明けてくんなまし、乳母ア山口屋の音羽ざますよ」
父樣とつさまにも勘藏かんざうにも乳母ばあやにはべつしてのこといろ/\と苦勞くらうをかけまして今更いまさらおもへばはづかしいやらおどくやら幼心をさなごゝろのあとさきずにほどのない無分別むふんべつさりながらきぬいのちかやことたすかりしを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ガーエフ お前の留守のまに、乳母ばあやが死んだよ。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ちがうよ。乳母ばあやが見えなくなっちゃったよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやね、乳母ばあやに任せとくのは。」
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
乳母ばあやはきいて大笑ひ
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
その後病気で亡くなりましたが、あの診察所に附いていた年増ね、乳母ばあやというんじゃあなかったんですが、お夏さんのお気にいりわきの処へ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
入つて來たのは乳母ばあやのお霜でした。平次の顏を見ると、いきなり疊へ崩折くづをれて、赤ん坊のやうにシクシク泣き始めたのです。
その乳母ばあやが、妾が小さい時に持っていた、可愛らしい裸体はだかのお人形さんを持って来てくれた時のうれしかったこと……。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
乳母ばあやは子供たちを寝かしつけているところですから、お松は松茸を料理して、与八と二人だけで夕飯を食べました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日本橋にいた時分、乳母ばあやふところに抱かれて布団ふとんの中にねむりかけていると、私はよくあの三味線の音を聞いた。———
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いや、ルイ十六世さ、アッハハ……だが乳母ばあやは俺が奴と面会している間に、大急ぎで荷物を纒めて、この邸を
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
ある日、近所の天神てんじんさまにお祭があるので、私は乳母ばあやをせびって、一緒にそこへ連れて行ってもらいました。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
それにしてもどうすればいいことでしょう。あの乳母ばあやが気のききませんことね。私はじっとおそばに見ていて、宮様をお引っ張りして来たいようにも思いましたよ
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
乳母ばあやがおりますゆえ、町へやり、駕籠をひろわせて参りましょう。……乳母!
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
音「乳母ばあやア始めの内は私はしがみ附きたいほどにくらしく思ったが、またお前の心根を考えて気を取直し、今まで此のへやに這入ってしみ/″\泣いて居たんざますが、お前はさぞつらい事だろうね」
いたしませぬ勘藏かんざう乳母ばあやながあひだこゝろづかひさぞかしとどくわたしこゝろいまもいふとほはれてみればまよひは雲霧くもきりこれまでのすこしもなしかならかなら心配しんぱいしてくださるなよと流石さすがこゝろよわればにや後悔こうくわいなみだ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
乳母ばあやだけがお供をしていって、帰ってくると浜子は
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
乳母ばあやには秘密ないしょですぜ」
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
母様かあさんが出掛けるんで、跡を追うですから、乳母ばあやが連れて、日曜だから山田(玄関の書生の名)もついて遊びです。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乳母ばあやさんが死んだばかりだから、多分お化けだろうって言いますが、誰も姿を見たわけじゃありません」
それから乳母ばあや、七兵衛入道が押しつけられて来た南部の生娘きむすめのお喜代——番外としては、ほとんど監禁同様に船室に留められている兵部の娘、それだけのもので
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ますます不利になってしまうと、こう云う訳なんだから、乳母ばあやも一ツ大いに力になってくれ
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
御飯を持って来てくれるのは乳母ばあやだけなの。お父さんは妾が生れない前にお亡くなりになるし、お母さんも妾をお生みになると直ぐに、どこかへ行っておしまいになったんですって……。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ねえ乳母ばあや、献金しておくれよ。……お久美様へねえ。どっさりお金を」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
くれた乳母ばあやると聞きまして、態々わざ/\お前を尋ねて来ました
とまれ、この一行、お松は香と花を携えて先に立ち、乳母ばあやは登を抱き、与八は郁太郎を背負せおい、ムク犬はその間を縫うて、例の回向院の墓地の中に進んで行きました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小児こども達も、乳母ばあやも書生も居ないで、長火鉢の前に主人あるじの理学士がただ一人、下宿屋に居て寝坊をした時のように詰らなそうな顔をして、膳に向って新聞を読んでいた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乳母ばあやのお霜も、母の君も、生きている心持もしない〉と手紙を添えました、悪かったでしょうか
私と、アヤ子の二人が、あのボートの上で、附添いの乳母ばあや夫妻や、センチョーサンや、ウンテンシュさん達を、波にさらわれたまま、この小さな離れ島にながれついてから、もう何年になりましょうか。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
乳母ばあや!」と呼んだが縋り付いた。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「貴女はその時、お隣家となりか、その先か、門に梅の樹の有るやかたの前に、彼家あすこ乳母ばあやと見えました、円髷まるまげに結うたおんなの、嬰坊あかんぼを抱いたと一所に、垣根に立ってござって……」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その他、乳母ばあや、船頭さん、金椎キンツイさんまでが、どんな隠し芸を持っていようともはかられぬ。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ところで乳母ばあやさん、何だってあんな罪の深いことをしたんだ。石井の旦那、御新造の歎きも容易じゃないが、そのためにお上にまで手数をかけ、可哀想にお春は死んでしまったじゃないか」
乳母ばあや々々、ちょっとおいで」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)