上手うわて)” の例文
代助は独りで考えるたびに、自分は特殊人オリジナルだと思う。けれども要吉の特殊人オリジナルたるに至っては、自分よりはるかに上手うわてであると承認した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうなりますと、絶体絶命、こうに受けるより手がなくなりました。上手うわてに向っての劫は大損でございますが、仕方がありません」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三点いえば直ぐに「種」の方がずっと上手うわてなのだといいもしますし、見れば一見して「種」の方を好いというのでも証拠立てられました。
俺にはこういう場合、上手うわてに出て物をいう事が出来ないので、ただ答に窮して居ると、彼女は媚を含んだ眼を以てこうつづけた。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
お千代は平生へいぜい妹ながら何事も自分より上手うわてと敬しておったおとよに対し、今日ばかりは真の姉らしくあったのが、無上むしょううれしい。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
余程彼よりは上手うわてだ。吾儕われわれの親類の中で、彼の細君が一番エライと俺は思ってる。細君に心配されるような人間は高が知れてるサ
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
但しこれは相手が人間であって、しかも自分よりも上手うわてに対して「鼻息を殺した」場合の形容詞と認めて差し支えありません。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『今の腕じゃ、四郎次には、一年かかったって、あの杖は盗れッこはねえ。どうして、婆あさんの方が遙かに役者が上手うわてだ』
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうとは知らぬ私は若い記者君あてに果物をもらった礼を書き送った次第だが、やはり向うの方が役者が一枚上手うわてである。
「見ろよ。あすこへ行く連中は、ラザルスにお眼を止められたくらいだから、おれ達よりも上手うわての馬鹿者に違いないぜ。」
「拙者になると少し上手うわてだ。愛欲を利用して金儲けをします。だが」というと城之介、相談でもするような調子になった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
察するところ、男のほうが上手うわてで、女のほうから機嫌をとっているらしい。『男のほうはどうもスメルジャコフらしい』とアリョーシャは考えた。
まほうはかせは、もっと上手うわてなんだぜ。おれは、はかせのでしで、きみを、ほうぼうひっぱりまわすやくだったのさ。
赤いカブトムシ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
〽では、手前は一枚上手うわてをいって、「地獄の番卒」とでもいたしましょうかネ。——喧々囂々がやがやもうもう、耳をろうするばかり。
上手うわてがどうしたの下手したてがどうしたの足癖がどうしたのと、何の事やらこの世の大事のごとく騒いで汗もかず矢鱈やたらにもみ合って、稼業かぎょうも忘れ、家へ帰ると
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは、いつかお市が、このお針部屋にひとりでいるとき、磯五が意地のきたないことをしようとして、上手うわてたれてしまったからばかりではなかった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
始終一歩ずつ上手うわてを行くような事務長が一種の憎しみをもってながめやられた。かつて味わった事のないこの憎しみの心を葉子はどうする事もできなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
また、彼が私にたやすく対等に振舞っているのは、彼のほうがほんとうは上手うわてである証拠だと思わずにはいられなかっただけ、ますます当惑の種であったのだ。
姉か何かのような上手うわての位置から、青年が顔を染めるのを、楽しい観物みものででもあるかのように、見おろしながら、しかも同時に媚を呈しながら、夫人が云った。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と是から船に乗ると、百姓が繋縄もやいほどいてさおを揚げて、上手うわての方へ押出し、艪杭ろぐいしめしてだん/\と漕ぎ初めたが、田舎の渡船ぐらい気の永いものは有りません。
女にかけては、世間では私などを道楽者のようにいっているが、よっぽど柳沢の方が自分より上手うわてだ。と思うと、私はなおのことお宮のことが心もとなくなって来た。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
〽しばしたたず上手うわてより梅見返うめみがえりの舟の唄。〽忍ぶなら忍ぶならやみの夜は置かしやんせ、月に雲のさはりなく、辛気しんき待つ宵、十六夜いざよいの、うち首尾しゅびはエーよいとのよいとの。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女はただに女房たちの間の大姐御おおあねごであるのみならず、斉信のごとき公卿くげたちに対してもはるかに上手うわてである。あたかも男と女が所を異にしているようにさえも見える。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
一九一四年に亡くなっているが、この人はジュールネなどよりも一まわり上手うわてであったらしい。
相手が上手うわてだったからかなわない、一応は降参して、向後きょうこう然様さようなところへはまいりませぬと謝罪して済んだが、そこには又あやしきは男女の縁で、焼木杭やけぼっくいは火の着くことはや
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
虹の如き鮮明な視覚写象と、男女相寝るということとの融合は、単に常識的合理な聯想に依らぬ場合があり、こういう点になると古代人の方が我々よりも上手うわてのようである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その法林道場のずっと上手うわてを見ますと巌山がんざん突兀とっこつそびえて居て、その岩の間に流水が日光に映じた景色けしきは実に美しく、そういう天然の景色に人為的雅味がみを付け加えたのですから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その場合、作家が上手うわてのようであるが、実際は作家というものは雑誌記者が怖い者の一人であり、一等先きに原稿をよんで原稿がよく書かれているかどうかを、決める人なのである。
芥川の原稿 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一方従兄いとこのユースタスは子供達の思い思いのはしゃぎ方のまだ上手うわてを行って、いろいろ変ったふざけ方をして見せたので、子供達も、とてもその真似は出来ないと諦めてしまった位で
母上おっかさん、それはあんまりで御座います」とようように一言、母は何所どこまでも上手うわて
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
勝って笑えるのは僕の方なんだ。僕はこの事件では初手しょてから上手うわてに出ているんだ。僕はもう君たちが蝿ほどもこわかあない。さあ、僕を殺すとも生かすとも、好きなようにしてくれ給え。
万吉郎の頭脳はヒルミ夫人のそれに比して、すこし上手うわてであったかもしれない。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
上手うわてをいってこれを積極的に働かすことを案じ出し、分相応の付け届けを神妙に守る大名にはかどを閉めてやって通行勝手たること、少し足りないと思う者には、半分位門をあけておいて
お俊さんと時々に見えます。このあいだも、枯野見かれのみだと云って上手うわてまでお供を
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は絞首台の前に立った窖番あなぐらばんのヷンカ(国民伝説、主人の妻と通じて刑罰を受けた下男)みたいに、砂糖のような甘い口に接吻した云々と歌うのだろう。いや、それよりもっと上手うわてを行くだろう。
彼女は上手うわてに出るのをやめて、こんどはいろいろ尋ねるようになった。
してみると、彼女の姉が、更に一枚、上手うわての役者であつたのだらう。
古都 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
自分が上手うわてとみて、彼は、二人の不器用さを鼻でわらう。多分もう、甘い言葉ぐらい口にしたことがあるのだろう。彼はそこでお手本を示す。まっ先にマチルドにキスをする。骨折り賃というところだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
結果からみれば博士が少し上手うわてだということになりそうだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ぐさま一郎の上手うわてを行く、勝ほこった声が聞えた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「おれよりも、倅の奴の方が上手うわてだ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
合田氏は、私の今使っているモデルの狆を口ではそれと悪くはいわないが、この狆よりも数等上手うわての狆がいることを話された。
取ることにかけては新撰組の近藤勇よりも、おれの方がズット上手うわてだ、今まで、おれの手にかけて殺した人間が二千人からある
買いかぶらせることには、役者衆の上手うわてだから、もう、二本差した男には、金輪際こんりんざい、惚れないことにきめたんですとさ
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いったいそんなにまでひどいことになっているのかい? いや、君、それは我々仲間の上手うわてをいってるぜ」
気がとがめるとは、その上にこちらから済まぬ事をした場合に用いる。困るとなると、もう一層上手うわてに出て、利害が直接に吾身わがみの上にね返って来る時に使う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悪魔式鼻の表現の苦手は、いつでもおとなしい正直な人間か又は数等上手うわてを行く明眼達識の士かであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何事にも高飛車に、上手うわてから出ようという態度が、二、三分間の電話の中でも、新子を不快にした。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と森松はれこんでいくらいっても動きません。其の筈で森松などから見ると三十段も上手うわての悪党でござりますから、長手の火鉢ひばちすみの所へ坐ったらてこでも動きません。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何しろ俺は、学問にいてはお前に及ばないかも知れないが、しかし人間として見たらお前なぞよりもはるかに高いところにあるつもりだ。そりゃ俺の方がずっと上手うわてだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)