間隙かんげき)” の例文
違背ではない。万一、敵の搦手に接近して、敵に間隙かんげきがあれば、そう致すであろうとぞんじたゆえ、特に、思慮勇気ふたつあるそちを
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず割合近くにいる「右足のない梟」を覘うことにし、射撃の間隙かんげきを数えながら、ここぞと思うところで、真っしぐらに突撃した。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それ故に概念的契機の集合としての「いき」と、意味体験としての「いき」との間には、越えることのできない間隙かんげきがある。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
二つの反対に回る樫材かしざいの円筒の間隙かんげきに棉実を食い込ませると、綿の繊維の部分が食い込まれ食い取られて向こう側へ落ち
糸車 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
つまり、僕には政治がわからないのでしょう。僕には、党員の増減や、幹部の顔ぶれよりも、ひとりの人間の心の間隙かんげきのほうが気になるのです。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
然し私と私の個性との間には寸分の間隙かんげきも上下もあってはならぬ。凡ての対立は私にあって消え去らなければならぬ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
間隙かんげきのない隆起と堆積たいせきとの肉感をのぞかせた姿は、全体としてつるつるあぶらを流したような滑らかさを持っていた。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
つまり、二つの場面の間にはぽかんと大きな間隙かんげきが出来てしまっている。目が覚めてから、夢がどうも辻褄つじつまが合わなく見えるのは、その間隙の所為せいが多い。
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そしてそうした言語と人種の複雑した間隙かんげきに乗じて、英国政府はいかばかり印度人を強圧し虐遇しているか。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかれども、かく平穏なる間隙かんげきは潮の干満の交代時に、しかも天候静穏の日に見るのみにして、十五分間継続するにすぎず、その猛威はふたたびしだいに加わる。
此邊このへん印度洋インドやう眞中たゞなかで、眼界がんかいたつするかぎ島嶼たうしよなどのあらうはづはない、ましてやくぷん間隙かんげきをもつて發射はつしやする火箭くわぜんおよ星火榴彈せいくわりうだん危急存亡きゝふそんぼうぐる難破船なんぱせん夜間信號やかんしんがう
明治三十一、二年の頃隅田堤の桜樹は枕橋より遠く梅若塚のあたりまで間隙かんげきなく列植されていたので、花時の盛観は江戸時代よりも遥に優っていたと言わなければならない。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼はあらゆる場合において、何等かの事物または過程が示すやうに感ぜられる間隙かんげきもしくは飛躍を充たし、それを結び付ける移り行きを探し出さうと努力することを特に喜んだ。
ゲーテに於ける自然と歴史 (新字旧仮名) / 三木清(著)
苦難を積んでまもって来た年月が背景になっている若夫婦の間には水がるほどの間隙かんげきもないのである。内大臣も婿にしていよいよ宰相中将の美点が明瞭めいりょうに見えて非常に大事がった。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一方は、自由と楽しい気ままと翼のついた間隙かんげきとの声であり、他方は、労働の音だった。彼を深く夢想に沈め、ほとんど思索さしたところのものは、それら二つの楽しい響きだった。
学び備えて居る為めにその二者の間隙かんげき撞着矛盾どうちゃくむじゅんが接触する者に誤解を与える。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その喧噪けんそうの花道を走る芸妓げいぎすそに禿頭はでられつつ、その足と足との間隙かんげきから見たる茶屋場などは、また格別の味あるものとなって、深き感銘とよき陶酔を老人に与えたであろうかも知れない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
工事中、いちばん怖ろしいことは、その間隙かんげきの生じることだ。たとえ一間の土塀といえども、その間隙から、一国のついえが来ないとは申されぬ
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の風貌は、馬場の形容を基にして私が描いて置いた好悪ふたつの影像のうち、わるいほうの影像と一分一厘の間隙かんげきもなくぴったり重なり合った。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
博士は、そういう危険をものともせず、土台石の山を登り、わずかの間隙かんげきをすりぬけて、アクチニオ四十五世たちの祈祷場きとうじょうをなおも探しまわった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
割れ目の間隙かんげきが 10-8cm 程度である場合にこの種の皮膜ができればそれによって間隙は充填じゅうてんされ、その皮膜はもはや流体としてではなく固体のごとき作用をして
鐘に釁る (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
主任建造者たるフイイーの考案によって巧みに明けられた数個の間隙かんげきからは、銃身が差し出されるようになっていた。かく窓を固めることは、霰弾さんだんの発射がやんでいたのでことに容易だった。
いかに迅速に、いかに緊密に——しかも敵をして間隙かんげきうかがういとまもなきうちに、これを成就じょうじゅさすかが——眼目であった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その説明が、ぎりぎりに正確を期したものであっても、それでも必ずどこかに嘘の間隙かんげきが匂っているものだ。
なんじの手にれる板硝子と、往来から見える板硝子との間には、五十センチの間隙かんげきがある。その間隙に、わしの発明になる電気廻折鏡かいせつきょうをつかった消身装置が廻っているのだ。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いくら逃げても追い駆けて来る体内の敵をまくつもりで最後の奥の手を出してま近な二つの氷盤の間隙かんげきにもぐり込もうとするが、割れ目は彼女の肥大な体躯たいくれるにはあまりに狭い。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして精神のうちにさわやかな柔らかいうるおいを生じさして、醇乎じゅんこたる思索の、あまりに峻厳しゅんげんな輪郭をなめらかにし、処々の欠陥や間隙かんげきをうずめ、全体をよく結びつけ、観念の角をぼかしてくれる。
進まんか、防柵や鉄砲にはばめられ、退こうとすれば、敵の追撃、また挟撃きょうげきに揉みつつまれ、さしも百錬ひゃくれんを誇る甲州武者も、その勇をほどこす間隙かんげきもなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべてが、どうでもいいのだ。演劇。それは、さぞ、立派なものでございましょう。俳優。ああ、それもいいでしょうね。けれども、僕は、動かない。ハッキリ、間隙かんげきが出来ていた。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
怪人の身体と機関車との間には、三十センチほどの間隙かんげきがあきらかに認められました。前に兄が谷村博士邸で、天井にさかさにぶら下っていたとき、私は下から洋書を投げつけたことがあります。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし三河の徳川家康とは、この年、対甲同盟をむすび、いよいよ信玄に対しては、間隙かんげきをゆるさなかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたの言葉と少しの間隙かんげきも無くぴったりくっついて立っているのを見事に感じ、これは言葉に依る思想訓練の結果であろうか、或いはまた逆に、思想に依る言葉の訓練の成果であろうか
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
要心ぶかいことでは、石橋を叩いて渡る主義の家康も、まさかと気づかずにいる間隙かんげきにはちがいない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嘘の白々しい説明に憂身うきみをやつしているが、俗物どもには、あの間隙かんげきを埋めている悪質の虚偽の説明がまた、こたえられずうれしいらしく、俗物の讃歎と喝采かっさいは、たいていあの辺で起るようだ。
苦悩の年鑑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
故右府様御他界このかた、半年もぬまに、遺臣のやからが、はや相剋内紛そうこくないふんしておると聞えては、世上にみぐるしい。かつは、上杉、北条、毛利などのうかが間隙かんげきともなりはしまいか。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんのきも、間隙かんげきも無いのです。精一ぱいの言葉です。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
いや、秀吉の布陣も、内から見れば、大きな間隙かんげきを持っております。よく御覧ごろうじませ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう二人ずつ三くみにわかれて、甲府こうふ城下じょうかへまぎれこみ、大久保家おおくぼけ内状ないじょうをさぐったうえにて、間隙かんげきをはかってたちのうちにらわれている咲耶子さくやこをすくいだす目的もくてきをしめし合わせた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よもや? ——とは思うものの、そう思われない人間がよく事の間隙かんげき豹変ひょうへんする。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……然るに、これぱしの工事に、二十日はつかもかかって、まだのめのめと、悠長な日を費やしておるとは、もってのほかな怠慢。もしこの間隙かんげきに乗じて、一夜にせて来る敵があったらどうするか
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
目睫もくしょうの大決戦期に、敵前これを実施するのは無謀とも大胆ともいえる。もし間隙かんげきやぶれんか、敗因の罪は一に敵前土木の工などに、かかずらっていた迂愚うぐにありと、世にわらわるるは必定ひつじょうである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城南城西の一塁一塁へ向って、寄手の兵は間隙かんげきを見ては攻めたてた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)