遣切やりき)” の例文
「原稿料じゃ当分のうち間に合いません。稿料不如しかず傘二本か。一本だと寺を退く坊主になるし、三本目には下り松か、遣切やりきれない。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『ハア、今日はお義理でね。眞實ほんとうに方々引張られるんで、遣切やりきれやしない。今日あたりうち寐轉ねころんでる方が、いくらいか知れやしない。』
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
獲物えもの無しサ。』と敬之進は舌を出して見せて、『朝から寒い思をして、一匹も釣れないでは君、遣切やりきれないぢやないか。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
これではとても遣切やりきれないといふので資本もとでの手薄な書肆ほんやはつい出版を絶念あきらめて了ふ。お蔭で下らない書物ほんが影を隠して世の中が至極暢気のんきになつた。
「ま、耐らない、のむべゑが兩人ふたりになられたんじや、私が遣切やりきれないよ。」とお房は無遠慮ぶえんりよにかツけなす。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
『とても遣切やりきれない。茶でもまう。』
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
呼吸いきを詰めて、うむとこらえて凍着こごえつくが、古家ふるいえすすにむせると、時々遣切やりきれなくなって、ひそめたくしゃめ、ハッと噴出ふきだしそうで不気味な真夜中。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その夏と、その前の年の夏と。もうどうにもこうにも遣切やりきれなくなって、そんなことを思いついた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「でもお前、幾ら着物を作えたツて、苦勞は忘れられないよ。阿母さんのやうになツちや、是れツてえ樂しみがあるんじやなし、お酒でも飮まなけア遣切やりきれないやね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「ああでも言って逐攘おっぱらわなくちゃ、遣切やりきれやしないじゃないか」お島はふるえるような声で言った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
呼吸いきめて、うむとこらへて凍着こゞえつくが、古家ふるいへすゝにむせると、時々とき/″\遣切やりきれなくつて、ひそめたくしやめ、ハツと噴出ふきだしさうで不氣味ぶきみ眞夜中まよなか
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うかね。しかし然う一々天氣にかこつけられちや、天氣もつらの皮といふもんさ。」と苦笑にがわらひして、「だが幾ら梅雨つゆだからツて、う毎日々々降られたんぢや遣切やりきれんね。 ...
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
吾家うちでは子供もふえる、小商売こあきないには手を焼く、父親おやじ遊蕩のらくらあてにもなりませんし、何程なんぼまさりでも母親の腕一つでは遣切やりきれませんから、いやでも応でも私は口を預けることになりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お三輪も、こわいには二階が恐い、が、そのまま耳のうといのと差対さしむかいじゃなお遣切やりきれなかったか、またたもとが重くなって、附着くッついてあがります。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ですから、お供を願いたいんで、へい、きそこだって旦那、御冥加ごみようがだ。御祝儀と思召して一つ暖まらしておくんなさいまし、寒くって遣切やりきれませんや。」
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女房にようばうでは、まるでとしちがふ。むすめか、それとも因果いんぐわなにとかめかけであらうか——なににしろ、わたしは、みゝかくしであつたのを感謝かんしやする。……島田髷しまだでは遣切やりきれない。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「むむ、それもそうさの。わっしも信心をすみが、おめえもよく拝んで御免こうむって来ねえ。廓どころか、浄閑寺の方も一はしりいぜ。とてもひとりじゃ遣切やりきれねえ、荷物はたしかに預ったい。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その掛稲は、一杯の陽の光と、あふれるばかり雀を吸って、むくむくとして、音のするほど膨れ上って、なおこらえず、おほほほほ、笑声を吸込んで、遣切やりきれなくなって、はち切れた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それだと結構けつこうです……でないと遣切やりきれません。うかねがひたいもんでございます。」
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
生命いのちの親とも思う恩人です。その大恩のある鷭の一類が、夫も妻も娘もせがれも、貸座敷の亭主と幇間の鉄砲をくらって、一時いっときに、一百いっそく二三十ずつ、袋へ七つも詰込まれるんでは遣切やりきれない。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ううむ、ほんとうだ、が、こんな上段のでは遣切やりきれねえだ。——裏座敷の四畳半か六畳で、ふしょうして下さんせ、お膳の御馳走も、こんなにはつかねえが、私が内証ないしょでどうともするだよ。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「同じ事を、可哀想かわいそうだ、と言ってくんねえ。……そうかと言って、こう張っちゃ、身も皮も石になってかたまりそうな、せなかつまって胸は裂ける……揉んでもらわなくては遣切やりきれない。遣れ、構わない。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真昼間まっぴるまでしょう、遣切やりきれたもんじゃありゃしない。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よわつた……遣切やりきれない。」
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)