どう)” の例文
「思ふまゝの理を顆々つぶつぶと書きたらんは、後来も文はわろしと思ふとも、理だにも聞えたらば、どうのためには大切なり」(同上第二)。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
杖笠を棄ててたたずんだ順礼、どうしゃの姿に見せる、それとても行くともかえるともなく煢然けいぜんとして独りたたずむばかりで、往来の人はほとんどない。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大隅は手に持っていた洋杖ステッキをとりなおして、そこについていたボタンを押すと、把手ハンドルのところからサッと一どうの光が流れだした。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この回の「大原御幸」は、古典平家物語では、もう一章の「六どう」とあわせ、いわゆる有終の美の、完結編となっている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからどれくらいったときでございましょうか、あるにわかにわたくしまえに、一どう光明こうみょうがさながら洪水こうずいのように、どっとせてまいりました。
糟谷かすやつまもやっと前途ぜんとに一どうの光をみとめて、わずかに胸のおさまりがついた。長らくのくもりもようやくうすらいで、糟谷かすやの家庭にわずかな光とぬくまりとができた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
善定ぜんじょう兼吉、奈良太郎兼常、徳永兼宣、三阿弥あみ兼高、得印兼久、良兼母、室屋兼任——この七人の末葉まつよう、美濃越前をはじめとして、五どうにその数およそ千百相に別れ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仏教を大別して、聖道門しょうどうもん易行門いぎょうもんとに二分します。聖道門は修業的、易行門は信仰的の区別はありますが、兎に角、根本において「どう」の存在を信じない仏教はありません。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あの嗚咽おえつする琵琶の音が巷の軒から軒へと漂うて勇ましげな売り声や、かしましい鉄砧かなしきの音とざって、別に一どうの清泉が濁波だくはの間をくぐって流れるようなのを聞いていると、うれしそうな
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その妙にうそ淋しい、ガランとしたアスファルトどうを、恐らく当日第一の出勤者であろう一人の勤勉らしい事務員がSビルディングを目ざして、コツコツと靴音をこだまさせながら歩いていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
身現は仏性なりとは知らない。だから、竜樹の法嗣はっすと自称するものがいかにあっても、提婆の所伝でなければ竜樹のどうと考えてはいけない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それは蛇形だぎょうじんのごとく、うねうねと、裾野すそののあなたこなたからぬいめぐってくる一どう火影ほかげである。多くの松明たいまつ右往左往うおうざおうするさまにそういない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廊下ろうかのほうからこの部屋へ、ぽっと、一どうの明りがさしてきて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「——どこかには、わが身を見ている宮方がいる。このぶんでは行く行く再起の望みもかたくはあるまい」そう一どうの光明を感受されておられたものか。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汾陽ふんようはわずかに六、七人、薬山やくさん十衆じっしゅたなかった。しかし彼らは皆仏祖のどうを行じたゆえに、叢林盛んであると言った。見よ、竹の声に道を悟り、桃の花に心を明らむるものがある。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
いや射たと思われたのに——一どう黒気こっきが矢をも高廉の影をも、墨のごとく吹きつつんでしまっていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつか四どう糧道りょうどうをふさがれ、洛内の食糧は極度に枯渇こかつしてきたのである。いまにして、後醍醐の帷幕いばくは、さきに正成がすすめた戦略を、実施させていたとみえる。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といって、あれ以来牢城役所では四どうの街道口に関所を結び、ありも通さぬ検問あらためのきびしさとか。しかしまあ私にまかせて、ひとまず山東さんとうのほうへ落ちのびてください。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「義貞もさすがよ。三どうからの、こなたの攻めを予想して、要所には堅く三陣を配しておる」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いよいよ、敵がよせてきました。山手、街道、浜づたいの三どうから——。オオ海上にも」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京都では、暮の二十九日、なんとなく殺伐さつばつな気のせない中にも、一どうの平和らしさが流れていた。尊氏の母堂やら妻子眷属けんぞくが、丹波から迎えとられて、都入りしていたのであった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怪人かいじん呂宋兵衛がこのまくのうらにしのんでいて、石見守いわみのかみはらをあわせ、かれ一りゅう邪法じゃほうをおこなって、試合場しあいじょうに一どう悪気あっきをおくり、衆人しゅうじんの眼をげんわくさせているのではないかしら?
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄のかんぬきをはずす音がして、明暗の境をなすおもいとびらが、ギ、ギ、ギイ……と一、二寸ずつひらいてきたので、暗黒のなかに立っていた才蔵と燕作のすがたへ、一どうの光線が水のごとくそそぎ流れた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千鳥の泳いでゆくように、舟の列は、どうばししたへと漕ぎ上ってゆく。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは一どうはしる炎となって城頭城門へ燃えついたが、また、たちどころに、公孫勝が呼んだ沛然はいぜんたる雨に打ち消され、かえって豪雨は白い電光をはらみ、霹靂へきれきせい、雲のなかで爆雷となって鳴った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八人法師の拍子打ひょうしうちに始まって、簓踊ささらおどりは本座の阿古あこらんどり舞は新座の彦夜叉、かたな玉取りはどう一と、おのおの妙技をつくして、猿楽さるがくの一と幕も佳境に入り、やがて将軍家の桟敷さじきわきの橋がかりから
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)