逆鱗げきりん)” の例文
「おう。捜していた、道誉どの、ちょっと代ってくれまいか。どうにも、ご逆鱗げきりんがはじまると、先帝のおなだめ役は、ご辺にかぎる」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後鳥羽院遷幸の後、そのことを聴かれて、大に逆鱗げきりんあり、翌年二月九日住蓮、安楽を庭上に召されて罪を定むる時、安楽房が
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
愛寵あいちょう比なき夫人の兄たる弐師じし将軍にしてからが兵力不足のためいったん、大宛だいえんから引揚げようとして帝の逆鱗げきりんにふれ、玉門関ぎょくもんかんをとじられてしまった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
自分の少年時を追懐しては、そうひどくしかれなかったりして、父のあまさが時々妻の逆鱗げきりんに触れたのであった。
かき・みかん・かに (新字新仮名) / 中島哀浪(著)
直言讜議ちょくげんとうぎまずはばからず、時には国王の逆鱗げきりんに触れるほどの危きをも冒し、ますます筆鋒を鋭くして、死に至るまで実利主義のために進路の荊棘けいきょくはらった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「江戸育ちでわがままときているからかないません、あとで自慢の舞をまうそうですが、これは褒めないと逆鱗げきりんに触れますから、どうぞ皆さんで御喝采ごかっさいを願います」
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すべて人は何様いうきついことを言われても、急所に触れないのは捨てても置けるものであるが、たまたま逆鱗げきりん即ち急所に触れることを言われると腹を立てるものである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「恩をあだで返すにつくいやつめ。匇々そうそう土の牢へ投げ入れい。」と、大いに逆鱗げきりんあつたによつて、あはれや「れぷろぼす」はその夜の内に、見るもいぶせい地の底の牢舎へ
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
醉ふたらば介抱して下されといふに、君が醉つたを未だに見た事がない、氣が晴れるほど呑むは宜いが、又頭痛がはじまりはせぬか、何が其樣なに逆鱗げきりんにふれた事がある
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
りようの・むしたる、(一一二)擾狎ぜうかふしてし。しかれどもその喉下こうか(一一三)逆鱗げきりん(一一四)徑尺けいしやくなるあり。ひとこれるるあればすなはかならひところす。人主じんしゆにもまた逆鱗げきりんり。
双方共無理のないところであるから不思議はない、当然の事であるが、西洋人の論理はこれほどまで発達しておらんと見えて、彼の落ち人おおい逆鱗げきりんの体で、チンチンチャイナマンと余をののしった
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある時御前にて行成卿の冠を打ち落しゝより逆鱗げきりんにふれ、それとなく奥羽の歌枕見て来よと勅をこうむり、処々の名所を探りて此処にかゝり給ひし時、社頭なれば下馬あるべきよし土人の申しゝに
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
孝明天皇は、その非礼に、いたく逆鱗げきりんあらせられ給うたのであつた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
逆鱗げきりんは申すまでもない。お留守をあずかっていた公卿輩くげばらはもちろんのこと、行幸みゆきいてもどった人々も、その御気色みけしき慴伏しょうふくして
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酔ふたらば介抱して下されといふに、君が酔つたをいまだに見た事がない、気が晴れるほど呑むはいが、又頭痛がはじまりはせぬか、何がそんなに逆鱗げきりんにふれた事がある
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御機嫌にさからった時は、必ず人をもってわびを入れるのが世間である。女王の逆鱗げきりんなべかま味噌漉みそこし御供物おくもつでは直せない。役にも立たぬ五重の塔をかすみのうちに腫物はれもののように安置しなければならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これもの人主じんしゆ逆鱗げきりんるるければすなは(一一五)ちか
「このあいだはたいそう逆鱗げきりんだったな」
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、それは用いられず、堂上の笑いぐさとなり、みかどのご逆鱗げきりんにふれたらしくもある。……いらい、怏々おうおうとして、浮かぬお顔。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたらば介抱かいはうしてくだされといふに、きみつたをいまだにことがない、れるほどむはいが、また頭痛づゝうがはじまりはせぬか、なに其樣そんなに逆鱗げきりんにふれたことがある
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ワハハハハハサヴェジ・チーだ、サヴェジ・チーだ」と口々にののしる。主人はおおい逆鱗げきりんていで突然ってステッキを持って、往来へ飛び出す。迷亭は手をって「面白い、やれやれ」と云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それどころでない。逆鱗げきりんあらせられた御気色みけしきですらある。——きっと、今日のことは、やがて重いおとがめでもあろうぞ」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それらはまあいい。当然な軍務だからな。やりきれんのは、朝に晩にのおむずかりだ、ご逆鱗げきりんだ。そのいちいちに仲時参れと、呼びつけられる」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とのみで、莞爾かんじともなされなかったが、なんら逆鱗げきりんともみえなかった。幕府側は、くうを打った思いをして
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後醍醐もこれのみは、よもやとしておられただけに、南ノ方からつぶさな当夜の惨状をおききとりあるや、さすが御父子である。逆鱗げきりんすさまじいけしきだた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、ちまたの沙汰にも聞いております。せっかくな楠木どのの御苦諫ごくかんも、みかどの容れ給うところとならず、逆鱗げきりんさえこうむって、むなしく故山こざん御帰臥ごきがとやらを……。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでさえ、天皇の逆鱗げきりんにふれたので、為世は出家して、高野の蓮華谷に身を隠してしまったほどである。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公卿たちの見るところ、ゆゆしいひが事であり、かならずや上皇の逆鱗げきりんにふれ——ひいては忠盛の死命をやくすであろうとして——俄然がぜん、院中にうわさを立てた。
そのとき陛下が逆鱗げきりんあそばして討伐の軍を発せられましょうとも、世人はそれを見て、魏は江南の富や美女をかすめんとするものであると口を揃えて非を鳴らすでしょう
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いまいましさよ」との逆鱗げきりんもさることだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆鱗げきりんすさまじいものがある。ときに司馬仲達は
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ついに、逆鱗げきりんのみけしきが、御簾ぎょれんをゆすった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆鱗げきりんはたしかであった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長は、逆鱗げきりんして
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事を逆鱗げきりんに寄せて
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仙洞御所の逆鱗げきりん
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)