輪廻りんね)” の例文
霊魂不滅論と仏教の輪廻りんね説、因果説とは、よほど密接の関係あるように感じたるをもって、仏教の立て方も一とおり申し述べました。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
油蝉の声がつくつく法師の声に変るごとくに、私を取り巻く人の運命が、大きな輪廻りんねのうちに、そろそろ動いているように思われた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一度ありたりとて自らすでに大悟徹底したるが如く思はば、野狐禅やこぜんちて五百生ごひゃくしょうの間輪廻りんねを免れざるべし。こころざしだいにすべき事なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
浮世の輪廻りんねはどこまで変転極まりなく、どこまで霊妙不可思議世界、すべてはこれ、人の世にして人の測り知るところではない。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはすべて輪廻りんね造顕ぞうけんによることでござって、まして、限り知れたわれらの法力ほうりきでは、その呪いからのがれしむることはむずかしゅうござる
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その水莽草を食って死んだ者のゆうれい水莽鬼すいぼうきというのであるが、言い伝えによると、この鬼は輪廻りんねを得て来世に生れてくることができないので
水莽草 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「……お気に入らぬと知りながら、未練な私が輪廻りんねゆえ、そいしはかなわずとも、おそばに居たいと辛抱して、これまで居たのがお身の仇……」
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
しかし釈迦にあっては魂の不死を前提とする輪廻りんねを絶ち切ることが大問題であり、従ってこの問題と全然離れることはできなかったのである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
放射能性物質の熱によって地質学的輪廻りんね変化を説明する仮説のごときも、あながち単なる科学的ロマンスとして捨つべきものでないと思われる。
地震雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
弥勒みろくの出世以後の因縁までも同時に眼の前に結び止めて、輪廻りんね転生のあらたかさをさながらに拝ませているのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すなわちわれらの思索を彼岸に通ずる本道より誘うて、まことしやかにそれを輪廻りんねに「迷行する外道げどうに」導くものがある。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
畢竟ひっきょうするに武州公は、因果のことわり輪廻りんねの姿を一身に具現して衆生の惑いを覚まさんがために、暫く此の世に仮形けぎょうし給うた佛菩薩ぶつぼさつではないであろうか。
識神を使ったというのは阿倍晴明あべせいめいきりの談になっている。口寄せ、梓神子あずさみこは古い我邦の神おろしの術が仏教の輪廻りんね説と混じて変形したものらしい。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
目をれば遣るほど計り知れぬ劫初ごうしょにきざしているといってもなお及ばない。生は限りなく連続する。鶴見は、今そこに輪廻りんねを観じているのである。
この広大無限なるものの片鱗! すべて、まったく四周のすべてが声をひそめて、きわめて静かだ。しかも粛々として、物の進行、輪廻りんねするけはいがある。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
彼は輪廻りんねを学び、ピタゴラス(紀元前のギリシャの哲学者)の説を信ずるもののようである。それらを論じているうちに、われわれは降神術の問題に触れた。
半ば冗談に半ば真面目まじめに彼は、輪廻りんねの話をしたり、あたかも泉の水が池から池へ通ってゆくように魂が流れ通過する、数限りない形体の連続を話したりした。
瑣細ささいな事のようだが、心理論理の学論より政治外交の宣伝をすにこの辺の注意が最も必要で、回教徒に輪廻りんねを説いたり、米人に忠孝を誇ってもちっとも通ぜぬ。
ところが、その人形と糸ですが、事件の劈頭には、それがテレーズの人形にありました。そして、またその悪の源は、永生輪廻りんねの形で繰り返されていったのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
というのは、武士道からきた道徳と、儒教からきた道徳と、東洋の宗教が教えた輪廻りんね説のあきらめとが、一つのまとめられた思想が、その語りもののたての太い線になっている。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
何という、怖ろしい輪廻りんねだろう——彼が自分みずから手を下さぬのに、し闇太郎の言葉が真実とすれば、二人の仇敵かたきは、すでに他人の刃でいのちを落してしまったのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いったい、仏教では、私どもの生活は、この現在の一世だけではなく、過去と、現在と、未来との三世にわたって、持続するというのです。「三輪廻りんね」というのはそれです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
まず第一段に道綽禅師どうしゃくぜんじが聖道浄土の二門を樹てて、聖道門に帰するの文、一切衆生に皆仏性があるというのに今に至る迄生死に輪廻りんねして救われないのは、二種の勝法しょうぼうがあるのに
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
社会を完成することが自己の完成であり、自己の完成がやがて社会の完成となるという如きは、現象の輪廻りんね相を説明したにとどまって、要求そのものをいい現わした言葉ではない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
妾を撲るお前達の鞭こそ、涅槃ねはんに導く他力だとな! 妾はお前達に礼を云う。妾をべた松火たいまつの火こそ、真如へ導く導火だとな! おお人々よ慾を捨てよ! 慾こそは輪廻りんねを産む。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
輪廻りんねを想うて非常な悒鬱、絶望に陥りかけたニイチエか Uacht Zum Nille を高調し、そこに悦ばしい生命の隠遁所を発見したやうに憎悪を通じて自己肯定へ進まう。
愛人と厭人 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
輪廻りんねの渦は果し無く繰返へす。エヴオリユシヨンといふも、輪廻の渦に現はるゝ一小波動に過ぎない。進化は常に退化を伴ふものである。夜無しには昼を迎へ得ない。日の次には夜が廻て来る。
土民生活 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
輪廻りんね転生説がどこの原始民族にも信じられたのは、理由のあることだ。
雑文一束 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
それは、まわりまわってもとへ戻る数奇不可思議すうきふかしぎ輪廻りんねの綾であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いたましきかな、ふたたび三悪道に帰りて四生ししょう輪廻りんねに苦しむとは。この故に釈迦の経文千万巻、巻毎に仏種の因をあかして、縁に随い真を明す教法、一つとして菩提の彼岸に至らずという事なし。
その悪果故に、又新なる悪業を作る。斯の如く展転して、つひにやむときないぢゃ。車輪のめぐれどもめぐれども終らざるが如くぢゃ。これを輪廻りんねといひ、流転るてんといふ。悪より悪へとめぐることぢゃ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
そうした彼は、事実上において熱心な仏教信者でもあった。彼の信仰しんこうの中には、仏教的な輪廻りんね永生思想があり、それがヘルンらしい純情の詩人的想像によって、一種独特の人生観にまで展開していた。
罪もなく輪廻りんねの中につながれ
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
輪廻りんね々々と夜をこめて
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
諳誦す、ごふ輪廻りんねを。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
輪廻りんねはめぐる小車をぐるま
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
る、流転輪廻りんね
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
また、霊魂不滅論に関して、仏教の善悪因果説、生死輪廻りんね説、地獄極楽説をも略弁するの必要を感じ、一言を加うるに至りました。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
この輪廻りんねこそ、人間の、どうしようもない、宇宙原則である。春夏秋冬の正しい約束のように、人間個々にもそれがある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
輪廻りんねとか応報おうほうとかむずかしいことをながながと書いたすえ、つらつら観法かんぽうするところ、お前は何日に西貢サイゴンへ着くが、その翌日こういうことがある。
予言 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かず椽先の飛石に投げうつて昔に返る微塵みじん、宿業全く終りて永く三界さんがい輪廻りんねを免れんには。汝もし霊あらば庭下駄の片足を穿うがちてく西に帰れ。
土達磨を毀つ辞 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それなら人と諸動物と業報次第輪廻りんね転生すと説く仏教を奉じた東洋の学者は諸動物の心性を深く究めたかというと、なるほど仏教の経論に多少そんな論もあるが
こまやかなる味はひには貪慾どんよくの心も深く起り、おろそかなる味はひ落ちぶれたる衣には瞋恚しんいの思ひ浅からず、よしあしは変れども、輪廻りんねの種となることはこれ同じかるべし。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
永遠を刹那に見る輪廻りんねの一心法界を、絶対にして広大なる理智の徳を、真言を、創造を、獅子の活力と精神力とを、自然に周遍する白象の托胎性を、ここにひとしくあがめ奉る。
いわんや生死しょうじ輪廻りんねを切る一大事が、生温い心で獲られるわけはない(同上)。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
が、それゆえこそ、浪路が、大奥まで捨て、父三斎に限りない苦痛をあたえたのだと思うと、今更輪廻りんねの怖ろしさを、たのもしく思って、亡き父母の怨念に、手を合せずにはいられない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そうして世界の可死を論じるために水や空気や火の輪廻りんねを引用して種々の地文学的の問題に触れている。また地質学上の輪廻にも暗示を投げている。その記述の中には当然地震や津波も出て来る。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その悪果故に、又新なる悪業を作る。斯の如く展転して、ついにやむときないじゃ。車輪のめぐれどもめぐれども終らざるが如くじゃ。これを輪廻りんねといい、流転るてんという。悪より悪へとめぐることじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
輪廻りんねという仏説を意味している輪塔が、何とも名をかえようがなくして、風車といい習わされてしまったのなら、右の俗謡は、おおよそ維新の以後に唄われたものと見なければならないのに、事実は
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「フム、最初射損じても、テオドリッヒには二の矢に等しい短剣があったのです。だがしかしだ、わしは、苦行者でも殉教者でもない。むしろそういう浄罪輪廻りんねの思想は、わしにではなくファウスト博士に云ってもらいたいものだ」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)