身支度みじたく)” の例文
「……備前びぜん岡山、備後灘びんごなだ、松山上空」とラジオは艦載機来襲を刻々と告げている。正三の身支度みじたくが出来た頃、高射砲がうなりだした。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
さて、すっかり身支度みじたくがおわると、バタバタ窓をしめて、かれもこの家を立ちかけたが、門口かどぐちでフイと一つの忘れ物を思いだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夢なら醒めないうちにと手早く身支度みじたくをし終って表へ出た。寒風の中を一散に堤防目がけて走った。——今夜は二日分、往復四回駆けてやる——
快走 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もとよりこばむべき筋合すじあいのものでございませぬから、わたくし早速さっそく身支度みじたくしてこの親切しんせつな、いたる竜神りゅうじんさんのあとについて出掛でかけることになりました。
さりながら先祖せんぞたいいへたいするかう二人ふたりいのちなりてゝはえあるぞとおもへば何處いづくのこ未練みれんもなしいざ身支度みじたく
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一同はかれらをおどろかさぬように、木陰にかくれて昼飯をすまし、それから思い思いの身支度みじたくにとりかかった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
亭主に催促されるまま、朝飯もそこそこに私も身支度みじたくを整えましたが、今考えてみてもその時の自分の気持だけは、私にも、どうしてもわからないのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
見ると、その人はもう退院の身支度みじたくをすました様子で寝台に腰をかけていた。若い元気そうな人である。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
にも拘らず彼はのそのそ身支度みじたくをした。くそ落ちつきに落ちついて、ばか丁寧に荷ごしらえをしていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
今は本家の手前争う事もならず、まして自分は養子の身の上家付いえつきの娘にさからう事もかなわねば言わるるままに身支度みじたくして明日はいよいよ東京へ出発する事となれり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
長良川ながらがわ木曽川いつの間にか越えて清洲と云うに、この次は名古屋よと身支度みじたくする間に電燈の蒼白き光曇れる空に映じ、はやさらばと一行に別れてプラットフォームに下り立つ。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
身支度みじたくをして、うちにある現金と、銀行の通帳かよいちょうを持って、裏口からソッと脱け出してここへ来たの……あなたと一緒に預金を引き出して逃げようか、どうしようかと思って……
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さてその翌朝あけのあさ、聴水は身支度みじたくなし、里のかたへ出で来つ。此処ここの畠彼処かしこくりやと、日暮るるまで求食あさりしかど、はかばかしき獲物もなければ、尋ねあぐみてある藪陰やぶかげいこひけるに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
代助は奥へ這入はいつた。ばあさんを呼んで着物きものを出させやうと思つたが、腹の痛むものを使つかふのがいやなので、自分で簟笥の抽出ひきだしまはして、急いで身支度みじたくをして、かつくるまに乗つてた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
(リュックサックを背負いて身支度みじたくする。)いや、どうもお邪魔をしました。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ともつべき與曾平よそべいといふ親仁おやぢ身支度みじたくをするといふ始末しまつ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ロレ さゝ、嫁御寮よめごれう教會行けうくわいゆき身支度みじたくとゝのひましたかの?
照彦てるひこ様は身支度みじたくをしながらきいた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
龍太郎りゅうたろうはあんがいおちついて、なにか伊那丸の耳にささやいた。そして、夜のふけるのを待って、足帯あしおび脇差わきざしなど、しっかりと身支度みじたくしはじめた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身支度みじたくをととのえることは、心の配備を点検することであった。荷の一つから取り出した羽織を、ぱたっとしわをたたいてひっかけた。流し目をくれながらそのひもを結んだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
正三もまたあの七月三日の晩から八月五日の晩——それが最終の逃亡だった——まで、夜間形勢が怪しげになるとたちまち逃げ出すのであった。……土佐沖海面警戒警報が出るともう身支度みじたくに取掛る。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
松野まつのこたへぬ、秋雨あきさめはれてのち一日今日けふはとにはかおもたちて、糸子いとこれいかざりなきよそほひに身支度みじたくはやくをはりて、松野まつのまちどほしく雪三せつざうがもとれよりさそいぬ、とれば玄關げんくわん見馴みなれぬくつそくあり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「途中ですらあな。……何も大した身支度みじたくりゃあしない。それより、おめえはもうそれでいいのか」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は机を離れて身支度みじたくにとりかかった。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)