貴嬢あなた)” の例文
旧字:貴孃
虚偽うそツ、し其れならば、姉さん、貴嬢あなたの苦悶を私に打ち明けて下すつてもいぢやありませんか、秘密は即ち不信用の証拠です」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ナゼそんな処にたっているのです、ズット奥へお通りなさい。今も婆やを貴嬢あなたの処へ上げてお昼の副食物おかずを伺おうと思っていた処です。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「いいえ、そんなじゃありません。切なければきに寝ますよ。お嬢さん、難有ありがとう存じます。貴嬢あなた、よくおいで下さいましたのね。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
國「感心なお心掛けでございます、旦那も未だ御新造ごしんぞがないから貴嬢あなたが往って下されば私も安心だ、何しろ森松をよんで話して見ましょう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「みよーさん、(娘の名)貴嬢あなたは、まあ如何どうして、こんな所へ来なすっただ」とたずぬると、娘はその蒼白あおじろい顔をもたげて、苦しそうな息の下から
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
「イイエ決して気には留めません、何卒どうか先生を御大切ごたいせつに、貴嬢あなた御大事ごだいじ……」みなまで言うあたわず、急いで門を出て了った。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
アアそれ程までにわたくしを……思ッて下さるとは知らずして、貴嬢あなたに向ッて匿立かくしだてをしたのが今更はずかしい、アア耻かしい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
貴嬢あなたなにをおつしやいますいままでほど待遊まちあそばしたのにまたそんなことをヱお心持こゝろもちがおわるひのならおくすりをめしあがれ阿母おつかさまですか阿母おつかさまはうしろに。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それまでは決して貴嬢あなたの手を離さず、大事に保存しておいて下さいと。頼みましたもんですから
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「今度は貴嬢あなたも浦和にいらっしゃるんでしょう?」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
『エ、貴嬢あなた百姓嫌ひ、フム、あなた百姓嫌ひ? あなたは普通の女学生と違つた処があると思つて居たら、あなたも矢張り普通の女学生と同じね……百姓程神聖な者がありますものか? トルストイのシンプル・ライフ主義には真理が多いのですよ』
「まア、貴嬢あなた、飛んでも無いことおつしやいます、此上貴嬢が退会でもなさろものなら、教会はまるやみですよ、篠田さんの御退会で——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「あいにく出掛けてりませんが、貴嬢あなた、どちら様でいらっしゃいますか。帰りましたら、直ぐ上りますように申しましょう。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きっと貴嬢あなたの事を申してりましたから大悦おおよろこびでどんな人だか早く顔が見たいと老人の気忙しく、取るものも取りあえず向うを出たのでしょう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
こう言出したと云ッて、何にも貴嬢あなたに義理を欠かしてわたくしのぞみを遂げようと云うのじゃア無いが、唯貴嬢の口からたッた一言、『断念あきらめろ』と云ッていただきたい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お可愛想なことをと少し涙ぐんでお作をかばふに、それは貴嬢あなたが当人を見ぬゆゑ可愛想とも思ふか知らねど、お作よりは我れの方をあはれんでくれてい筈
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おほきにねえさんから小言こごと頂戴ちやうだいしたりなんかしました、へいぢやうさんらつしやいまし、うも先達せんだつての二番目狂言ばんめきやうげん貴嬢あなたがチヨイと批評くぎをおさしになつた事を親方おやかたに話しましたら
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
貴嬢あなたはそんなことを勧めたんじゃないか」
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
云ふ顔、剛一は打ちまもりつ「其れ御覧なさい、其の通り姉さんは僕を信用なさらぬぢやありませんか、僕は貴嬢あなたの胸中を知つてます」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
なるほど貴嬢あなたのおっしゃる通り家庭料理の本意は原料のやすい品物を美味おいしくこしらえて食べるのと、棄てるような者を利用してお料理に使うのですね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ああいう者と交際をなさるというと、先ず貴嬢あなたの名誉、続いてはこの学校の名誉に係りますから、以来、口なんぞ利いてはなりません。宜しいかね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ナニネ、先刻さっき我輩が明治年代の丹治と云ッたのが御気色みけしきに障ッたと云ッて、この通り顔色まで変えて御立腹だ。貴嬢あなた情夫いろにしちゃアと野暮天すぎるネ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
見たい土地はふみ難く、兀々こつこつとして月日を送らねばならぬかとおもふに、気のふさぐも道理とせめては貴嬢あなたでもあはれんでくれ給へ、可愛さうなものでは無きかと言ふに
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
浪「あゝ貴嬢あなたそんな卑下したことを云わないで、嫁にすると云ったら嫁におなんなさいよ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は貴嬢あなたに色々の事を伺うので近頃にわかに生活上の智識を増したような気がしますがナゼ昔の娘時代に活きた学問をしなかったろうと悔しく思います。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
得三さん、あんまりでございます。「下枝さん貴嬢あなたも余り強情でございます。それが嫌否いやなら悉皆しっかい財産をおれに渡して、そうして⦅得三さん貴下あなたは可愛いねえ。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
厭やと思へば日がな一日ごろごろとしてけぶりのやうに暮してゐまする、貴嬢あなたは相変らずの美くしさ、奥様にお成りなされたと聞いた時からそれでも一度は拝む事が出来るか
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何でも貴嬢あなた浦山敷うらやましく思わないかとか、何とか、ヒョイと軽く戯談じょうだんを言って水を向けるのだ。思切って私も一つ言って見ようか知ら……と思ったが、何だか、どうも……ソノきまりが悪い。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
今から彼方あっちへお出でになりますと十二時過でげすよ、そんな夜更に若い貴嬢あなたさまお一人で、え、お嬢さん、決して悪いことは申しません、仮令たとえ改めてお出懸なさるまでもねえ、一旦はお帰りなせえ
胡麻ごまとか胡桃くるみとか南京豆とか大豆とかいうものは沢山の脂肪分を持っています。貴嬢あなたに先日書いてげた日用食品の分析表〔春の巻の付録〕を御覧なさい。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「駿河台の御隠居様が、今朝急病で御逝去おなくなりなすったって。」「ええ。」「訃音しらせがありましたよ。あら、貴嬢あなたは御存じではなかったの、まあ御坐り遊ばせ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴嬢あなたは斎藤の阿関さん、面目も無いこんな姿なりで、背後うしろに目が無ければ何の気もつかずにいました、それでも音声ものごゑにも心づくべきはづなるに、私は余程よつぽどの鈍に成りましたと下を向いて身を恥れば
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「今日貴嬢あなたの琴のお師匠さんの前を通りました。一寸ちょっとうちですね。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
大原君はたといお代さんと婚礼するにしても形だけの婚礼で心は独身をもるつもりだといっています。大原君の心は何事があっても貴嬢あなたを離れる事がありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私共が願ってあすこへ行っておもらい申した、それから事が起ったそうで、申訳もありません、今の貴嬢あなた御談話おはなしといいどうも私の考えでは、鮫ヶ橋は容易ならぬ処です。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴嬢あなたの座布団を持って来たのです。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お登和さん、先日良人やど貴嬢あなたから三十銭料理や二十銭料理を教えて戴きまして宅へ帰ってから一々みんな試みてみましたが大層経済に出来てどんなによろこびましてしょう。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
すると御前も負けぬ気で、(それでは幽霊の出るという邸の廊下のはずれまで貴嬢あなた一人で行って来ることが出来ますか)(何時なんどきでも)というので、ね、秀様、今に番町のがここへって来るのさ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴嬢あなたさえそういうお覚悟でいらっしゃるなら私なんぞはに継いで勉強しても追付おっつきません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
こと貴嬢あなたのお家なんぞは社会の上流に立って如何いかなる人物とも御交際が出来ますから阿父様おとうさまのお心掛次第で貴嬢のために如何なる上等のお婿むこさんをも択り出す事が出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)