おも)” の例文
わたくしは此「望之妻」は棭斎の妻であらうとおもふ。果して然らば、棭斎の妻狩谷氏は文化七年庚午六月十八日の朝歿したこととなるであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おもへらく、天朝より教書を開板して天下に頒示するにかずと。余おもへらく、教書を開板するに一策なかるべからず。
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
常におもへらく、此二書こそ露伴の作として不朽インモータルなる可けれ。何が故に二書を愛読する、曰く、一種の沈痛深刻なる哲理の其うちに存するあるを見ればなり。
然りと雖もなおおもえらく、逸田叟いつでんそうの脚色はにして後わずかに奇なり、造物爺々やや施為しいは真にしてかつ更に奇なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
明くるに及んで遠く視るに山木一空、いわく海竜王宮を造るなり、余おもえらく竜水を以て居と為す、あにまた宮あらん、たといこれあるもまたまさに鮫宇貝闕なるべし
七四 在家も亦出家も「此れ正に我がために造られたり」とおもひ、「諸の所作と非所作の中に於ける何事も實に我が隨意たるべし」とおもへる人あり、此れ愚者の思量する所
法句経 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お妙の俯向うつむいた玉のうなじへ、横から徐々そろそろと頬を寄せて、リボンの花結びにちょっと触れて、じたじたと総身をわななかしたが、教頭は見て見ぬ振の、おもえらく、今夜の会計は河野もちだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は自らおもへり、この心は始より貫一に許したるを、縁ありて身は唯継にまかすなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
欧詩に云ふ、雪裏花開イテ人未知、摘相顧ミテ驚疑、便ベシメテ花前、初今年第一枝と。初めだ桃花に一種早く開ける者あるのみとおもへり。
抑又はたまた塩土老翁しほつちのをぢに聞きしに曰く、東に美地よきくに有り、青山四周よもにめぐれり、……われおもふに、彼地そのくには必ずまさに以て天業あまつひつぎのわざ恢弘ひろめのべ天下あめのした光宅みちをるに足りぬべし、けだ六合くに中心もなかか。……何ぞきてみやこつくらざらむや。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
僕の屑見せっけん、誠におもえらく、観望持重は、今の正義の人、比々ひひとしてみなしかり、これ最大の下策と為す。何ぞ軽快拙速、局面を打破し、然る後おもむろに地を占め石をくの、まされりと為すにしかんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
自由と擅制せんせいとの衝突にして、又た文明と野蛮との衝突……と云ふ、吾輩おもへらく決して然らず、だ両個擅制せんせい帝国の衝突のみ、両個野蛮政府の衝突のみ……………………財産の特権、貴族の遊食
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「鎮年走道途。無暇奉祭祀。地下若有知。豈謂克家子。惟有詩癖同。家声誓不墜。」〔鎮年道途ヲキ/祭祀ヲ奉ズル暇無シ/地下シ知有ラバ/豈おもハンヤ克家ノ子ト/ダ詩癖ノ同ジキ有ルノミ/家声誓ツテ墜トサズ〕枕山はこの誓言にたがわず家声かせい
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そしてわたくしは聞く所の事の是正月のもとくべきものなるをおもふ。此に先づ聞く所を叙することとする。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
臣愚しんぐおもえらく、今よろしくそのを師とすべし、晁錯ちょうさくが削奪の策を施すなかれ、主父偃しゅほえんが推恩のれいならうべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
常におもへらく、人間はいかにいかなる高尚の度に達するとも、畢竟ひつきやうするに或種類の偶像に翫弄ぐわんろうせらるゝに過ぎず、悟るといふも、悟ること能はざるが故に悟るなり
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
一一 不實を實とおもひ又實を不實と見る人は、實を了解せずして邪思惟に住す。
法句経 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
熊楠おもうに昔朱肜しゅゆう隠居して仕えず、閻負涼えんぶりょうに使し肜を以て王猛に比し並称す。
自らおもへらく、吾夫わがをつとこそ当時恋と富とのあたひを知らざりし己を欺き、むなしく輝ける富を示して、るべくもあらざりし恋を奪ひけるよ、と悔の余はかかる恨をもひとせて、彼は己をあやまりしをば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
東坡もとより牧之の詩をぬすむ者に非ず、然かもつひに是れ前人已に之をへるの句、何んすれぞ文潜之を愛するの深きや、豈に別におもふ所あるか。いささか之を記し以て識者をつ。(老学庵筆記、巻十)
今の世界は老屋ろうおく頽厦たいかの如し。これ人々の見る所なり。吾れおもえらく、大風一たび興って、それをして転覆せしめ、然る後朽楹きゅうえいを代え敗椽はいてんを棄て、新材をまじえてこれを再造せば、すなわち美観と為らんと。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
わたくしは移居と任官とがほゞ時を同じうする如くおもふと云つた。文中「御引移並御召出」と云ふより観れば、或は移居が任官にさきだつてゐたかとも推せられる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
世間幾多の平坦なる真理を唱ふるものゝ中には、平坦を名としてみだりに他の平坦ならざるものを罵り、自からおもへらく、平坦なるものにあらざれば真理にあらずと。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
諸王をして権を得せしむるも、また大なりというべし。太祖の意におもえらく、かくごとくなれば、本支ほんしあいたすけて、朱氏しゅし永くさかえ、威権しもに移る無く、傾覆のうれいも生ずるに地無からんと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ゆゑに身は唯継に委すとも、心は長く貫一を忘れずと、かくおもへる宮はこの心事の不徳なるを知れり、されどこの不徳のその身にまぬかあたはざる約束なるべきを信じて、むしろ深く怪むにもあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
欧詩に云ふ、「雪裏花開いて人未だ知らず、摘み来り相顧みて共に驚起す。便すなはすべからく酒を索めて花前に酔ふべし、初めて見る今年の第一枝」と。初めただ桃花に一種早く開く者あるのみとおもひき。
ふたつながら胆が薬用さるるからマルコの大蛇と鱷と同物だとは、不埒ふらちな論法なる上何種の鱷にもマルコが記したごとき変な肢がない。予おもうにマルコはこの事を人伝ひとづて聞書ききがきした故多少の間違いは免れぬ。
クボ人はこの辺の虎滅多に人を襲わぬとて、虎に近くいるを一向恐れず、ただし一度人を啖わば十の九は以後やむ事なき故、村を移してその害を避くる、虎人肉の味を覚えて人をち始むるとおもわず