見据みす)” の例文
まして、わたしに何も請求したわけではない。人の顔を穴のあくほど見据みすえる、例の図々ずうずうしい女でもない。彼女は中をのぞいても見ない
「四宮さんは二階に殺されていてよ」とミチ子が耳のそばささやいた。サテは、と思って僕がミチ子を見据みすえた時、階上で叫ぶ声が聞えた。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あきれるほど自信のないおどおどした表情と、若い年で女を知りつくしているすごみをたたえた睫毛まつげの長い眼で、じっと見据みすえていた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
洋服の男は女の顔を見ると驚いたような眼をして、じっと眼を見据みすえるようにしたが、いきなり飛びあがるようにちあがった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ころげた首の、笠と一所いっしょに、ぱた/\とく口より、眼球めだまをくる/\と廻して見据みすゑて居た官人が、此のさまにらゑて
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
餉台ちゃぶだいにおかれたランプの灯影ひかげに、薄い下唇したくちびるんで、考え深い目を見据みすえている女の、輪廓りんかくの正しい顔が蒼白く見られた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
神棚の上には蜘蛛くもの巣にぬかのくっついた間からお燈明とうみょうがボンヤリ光っていた、気がついた時は自分は縛られていた、上からじっと見据みすえた竜之助。
妙子も同じように平然として、例の顔色一つ変えるではなかったが、でもそう云われると、無言でじっと雪子の顔を見据みすえているばかりであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
急に厳粛げんしゅくに変わった如来の目が悟空をキッと見据みすえたまま、たちまち天をも隠すかと思われるほどの大きさにひろがって、悟空の上にのしかかってきた。
観世音菩薩! この言葉はたちまち神父の顔に腹立たしい色をみなぎらせた。神父は何も知らぬ女の顔へ鋭い眼を見据みすえると、首を振り振りたしなめ出した。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そしてお手前のお頼みとは?」旅の侍は油断なく彼らをキッと見据みすえたまま、隙も与えずすぐに訊いた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土肥君はあのねずみの様な眼を見据みすえて、やゝ不安なさびしそうな面地をして居たが、皆に説破されて到頭泊った。枕を並べて一寝入ひとねいりしたと思うと、余等は起された。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こうした私の二度目の挨拶は、だいぶ固苦しい外交辞令に近づいていたように思うが、しかし白鷹氏は依然として私を見据みすえたまま、両手をポケットに突込んでいた。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それ以前いぜんうたは、みな表面ひようめん景色けしきんだようにえても、ほんとうにあぢはつてると、たゞのうはっつらだけのところで、實際じつさい景色けしき見据みすゑたものだ、といふことが出來できません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
雲を洩れたわずかな夕陽ゆうひのなかを、鶏はくびを立て、鋭い眼でひとところを見据みすえていた。背の高さは、三尺ほどもある。白木は縁側にかけたまま、なにかいらだたしそうに呟いた。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
兄分の男は「可哀そうだなあ。」と吐き出すように云って、順吉の顔を見据みすえながら「おやじのことを思うかい?」と訊いた。順吉はかぶりをふった。父親のことなど思ったこともない。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
そしてその陰気な灰色の薪を積み上げてあるのをじっと見据みすえながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
今日けふもまたわれ見据みすゑ、果敢はかなげに、いと果敢はかなげに
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
兄はじっと弟を見据みすえて唇を噛んだ。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
いまふさがず、れいみはつて、ひそむべきなやみもげに、ひたひばかりのすぢきざまず、うつくしうやさしまゆびたまゝ、またゝきもしないで、のまゝ見据みすえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
黒坂が振返って見ると、今まで気がつかなかった旅の武士さむらいが一人、笠越しにじっとこっちを見据みすえています。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鶉は、地べたの上で、犬が立ち止まっているその鼻先で、仕止しとめたのである。はじめ、彼は、土の色をした丸い小さな球のようなものを、見るともなしに見据みすえていた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
逆立った眼で葉之助を見据みすえ、紋兵衛はまじろぎもしなかったが、ようやくホッと溜息をくと
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はじっと高城を見据みすえながら、今朝のことを考えつづけていた。隊長の半白の頭を見おろして立っていた時、彼は不意に悲哀の感じが瞬間であったが胸一ぱいになっていたのである。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
鏡の中で、廊下からうしろへ這入はいって来た妙子たえこを見ると、自分でえりを塗りかけていた刷毛はけを渡して、其方そちらは見ずに、眼の前に映っている長襦袢ながじゅばん姿の、抜き衣紋えもんの顔を他人の顔のように見据みすえながら
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
眼だけ放心したように虎の方を見据みすえている。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
広い船室の中に、たった一人で、思う存分考えてやろうとしたのは、今朝、天幕の中でじっと見据みすえた、あの体力のハチきれそうな、おぼこの娘の身の上のことでした。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
運転手は前を見据みすえたまま言った。料金表示器は三百円をさしていた。
記憶 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
暫くすると又ジロジロと雪子を見据みすえた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私もじっと彼の顔を見据みすえながら言った。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)