“襲(かさね)” の例文
また、時には少年の着るような薄色の襲(かさね)を覗(のぞ)かした好みを見せれば、次の夕方には、もう一人の男もそれに似合うた衣を纏(まと)うていた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
着つけは桃に薄霞(うすがすみ)、朱鷺色絹(ときいろぎぬ)に白い裏、膚(はだえ)の雪の紅(くれない)の襲(かさね)に透くよう媚(なまめ)かしく、白の紗(しゃ)の、その狩衣を装い澄まして、黒繻子(くろじゅす)の帯、箱文庫。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御姫様は元より、二人の女房も、一度にこう云って、襲(かさね)の袖を合せましたが、若殿様は、愈御酒(いよいよごしゅ)機嫌の御顔を御和(おやわら)げになって
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いよいよ最(も)う駄目(だめ)と観念(かんねん)しました時(とき)に、私(わたくし)は自分(じぶん)が日頃(ひごろ)一ばん大切(たいせつ)にしていた一襲(かさね)の小袖(こそで)を、形見(かたみ)として香織(かおり)にくれました。
薄紫の細長一領に、三重襲(かさね)の袴(はかま)を添えて纏頭(てんとう)に出したのを使いが固辞して受けぬために、物へ包んで供の人へ渡した。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
二襲(かさね)の衣を着つゝ尊き僧院にあるものは、昇りし二の光のみ、汝これを汝等の世に傳ふべし。 一二七—一二九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
縁の上から転(まろ)び落ちた泰子は、紅梅の袿衣(うちぎ)や、白、青の襲(かさね)衣も、またその黒髪もふり乱して、大地にうつぶし、どうかしたのか、そのまま起きもしないのである。
と、ひどく礼を言った後で、きれいな着物一襲(かさね)に貂(てん)の帽(ぼうし)と履物を添えてくれ、孔生が手足を洗い髪に櫛を入れて着更えをするのを待って、酒を出して饌(めし)をすすめた。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
僧等は幾襲(かさね)の美しき衣を脱がせて、姫を柩(ひつぎ)の上に臥させまつり、下に白き希(きれ)を覆ひ、上に又髑髏(どくろ)の文樣(もんやう)ある黒き布を重ねたり。忽ち鐘の音聞えて、僧等の口は一齊に輓歌(ばんか)を唱へ出しつ。
包みを解いて見ると、中から出たのは一襲(かさね)の衣類、羽二重の白無垢である。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
... 紋服を一襲(かさね)くれたのだからな」チラリと長方形の箱を見たが「アッハハハ何んという態だ、ひどくその時の俺と来たら、しんみりとした気持になり、切ってかかろうともしなかったのだからな」
首頂戴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
道具の持ち出されてしまった部屋には、二人の礼服の襲(かさね)に、長襦袢や仕扱(しごき)などの附属が取り揃えられ、人々は高い声も立てずに、支度に取りかかった。厳(おごそ)かな静かさが、部屋の空気を占めていた。
爛 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一陽(いちよう)を襲(かさね)正月はやり来て 清風(せいふう)
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
基経は姫の棺(ひつぎ)に、香匳(こうれん)、双鶴(そうかく)の鏡、塗扇(ぬりおうぎ)、硯筥(すずりばこ)一式等をおさめ、さくら襲(かさね)の御衣(おんぞ)、薄色の裳(も)に、練色(ねりいろ)の綾(あや)の袿(うちぎ)を揃えて入れた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
紫の襲(かさね)の片袖、紋清らかに革鞄に落ちて、膚(はだ)を裂いたか、女の片身に、颯(さっ)と流るる襦袢(じゅばん)の緋鹿子(ひがのこ)。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
着ているのは黒い袷(あわせ)の一襲(かさね)で、初めの人と同じような姿であったが、この人には人を惹(ひ)きつけるような柔らかさ、艶(えん)なところが多くあった。また弱々しい感じも持っていた。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
筒井のために作られた衣裳はまるで御娘子と同じ模様の襲(かさね)も青い練絹(ねりぎぬ)であった。筒井はそれを携えた御娘子に辞退して、押しやって勿体(もったい)ながった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
白衣(びゃくえ)に緋(ひ)の襲(かさね)した女子(おなご)を馬に乗せて、黒髪を槍尖(やりさき)で縫ったのは、かの国で引廻しとか称(とな)えた罪人の姿に似ている、私の手許(てもと)に迎入るるものを、不祥(ふしょう)じゃ、忌(いま)わしいと言うのです。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
普通の絹や綾(あや)も下のほうには詰め敷かれてあって、女王がたにと思ったらしい二襲(かさね)の特に美しく作られた物の、その一つのほうの単衣(ひとえ)の袖(そで)に、次の歌が書かれてあった、少し昔風なことであるが。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
生絹はその僅かな留守居のあいだにも、何度か聞耳(ききみみ)を立て、何度か往来の道ばたに出て行った。きゅうに春めいた田や畠は萌(も)えた青い粉を雑(ま)ぜた、襲(かさね)の色に見えた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
襲(かさね)を透いた空色の絽(ろ)の色ばかり、すっきりして、黄昏(たそがれ)の羅(うすもの)はさながら幻。そう云う自分はと云うと、まるで裾から煙のようです。途端に横手の縁を、すっと通った人気勢(ひとけはい)がある。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平生からこの人の夏物、冬物を幾襲(かさね)となく作って用意してある養母であったから、香の唐櫃(からびつ)からすぐに品々が選び出されたのである。朝の粥(かゆ)を食べたりしたあとで夫人の居間へ夕霧ははいって行った。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
唖の娘はさまざまな海の貝、衣裳の断ちぎれ、造花を筒井におくり、宮腹の主人は紅梅色の襲(かさね)を生きがたみとして贈り、亡妻のこまごまとした女物を筒井にあたえた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
白の角通(かくとお)しの縮緬(ちりめん)、かわり色の裳(もすそ)を払って、上下(うえした)対の袷(あわせ)の襲(かさね)、黒繻珍(くろしゅちん)に金茶で菖蒲(あやめ)を織出した丸帯、緋綸子(ひりんず)の長襦袢(ながじゅばん)、冷く絡んだ雪の腕(かいな)で、猶予(ため)らう色なく、持って来た銚子を向けつつ
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とある庭のある構えの内からよき襲(かさね)をひからせた物好きな男が一人、銭(ぜに)乞(こ)うにはあらざるふうに細い笛を吹いて、生絹の顔をみつめていた。男の顔は粉のように白かった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あなたさまのご都合よきときに紅梅色の一襲(かさね)なりとも送りくださいませ。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
同じ武家の姫となぞらえて迎えるような手筈(てはず)は、とうに、はぎ野は知っているはずだった、母からの衣裳や髪化粧の具、袿(うちかけ)や襲(かさね)の数々もひそかに母からわたされていることを知っている経之は
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)