萱原かやはら)” の例文
「ここは背もうず萱原かやはら。あれまでお運びたまわれい。おなじことなら、ご最期さいごには、人の聞えにも、おすずやかがよろしゅうおざろう」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うしてほとん毎日まいにちごとつてうちに、萱原かやはらを三げんはゞで十けんばかり、みなみからきたまで掘進ほりすゝんで、はたはうまで突拔つきぬけてしまつた。
そうであろう、顔色は青く、目は光を失い、頭髪は萱原かやはらのように乱れ、そして艶のない頬の上にどろりと、赤黒い血痕が附着しているのであったから。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
折られてどうしてまあすぐ飛べませう。あの萱原かやはらの中に落ちてひいひい泣いてゐたのでございます。それでも昼の間は、たれも気付かずやっと夕刻、私が顔を
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
昔の武蔵野は萱原かやはらのはてなき光景をもって絶類の美を鳴らしていたようにいい伝えてあるが、今の武蔵野は林である。林はじつに今の武蔵野の特色といってもよい。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
皮をいだ痕があったとか、五六尺もある萱原かやはらに、腰から下だけが隠れていたとか、または山小屋をまたいでゆさぶったとか、いろいろな珍しい話を伝えているかと思うと
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鴨がを聞いたのだっけ。そうだ。訳語田おさだの家を引き出されて、磐余いわれの池に行った。堤の上には、遠捲とおまきに人が一ぱい。あしこの萱原かやはら、そこの矮叢ぼさから、首がつき出て居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
向日葵ひまはり向日葵ひまはり百日紅ひやくじつこう昨日きのふ今日けふも、あつさはありかずかぞへて、麻野あさの萱原かやはら青薄あをすゝき刈萱かるかやあきちかきにも、くさいきれくもるまで、たちおほ旱雲ひでりぐもおそろしく、一里塚いちりづかおにはあらずや
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
源内先生は、堤の高みへ上り手庇てびさしをして、広い萱原かやはらをあちらこちらと眺めながら
行くてに当って、大きな炎が、真っ赤に、大地をいていた。この風であるし、萱原かやはらであるし、まるで、油をそそがれたように火はまわる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
萱原かやはら准尉は、自分が運転をしているかのように、ひたいに汗をにじませて少佐と並んで、地下戦車のうしろからのそく。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
折られてどうしてまあすぐ飛べましょう。あの萱原かやはらの中に落ちてひいひい泣いていたのでございます。それでも昼の間は、たれも気付かずやっと夕刻、私が顔を
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
はじめて萱原かやはら分入わけいつたとき活東子くわつとうしんだ。望蜀生ぼうしよくせい如何どうしたのか、りつきもない。狹衣子さごろもし役者やくしやつて、あのどろしやくつたでお白粉しろしいきつゝあり。
萱原かやはらの一端がしだいに高まって、そのはてが天ぎわをかぎっていて、そこへ爪先つまさきあがりに登ってみると、林の絶え間を国境に連なる秩父ちちぶの諸嶺が黒く横たわッていて
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
峰の松原も、空様そらざまに枝を掻き上げられた様になって、悲鳴を続けた。谷からに生えのぼって居る萱原かやはらは、一様に上へ上へとり昇るように、葉裏を返してき上げられた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
萱原かやはらの中に寝たために萱の葉で尻を切り、それで今でもイテテテと啼いて、そういう処を飛びまわるのだという笑話であって、殺されたのではないが切ったという条はなお残っている。
そして、ほとんど半死半生のすがたになった彼を、萱原かやはらの枯れ木の幹に賊たちはくくりつけて、やがて、範宴の身も、朝麿の身も、同様に、うしろ手にいましめて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少佐のそばに目を丸くして立っていた萱原かやはらという古強者ふるつわものの小隊長が、少佐に向っていったことである。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今日けふ天氣てんきいからとて、幻花子げんくわし先導せんだうで、狹衣さごろも活東くわつとう望蜀ばうしよくの三が、くわかついで權現臺ごんげんだい先發せんぱつした。あとからつてると、養鷄所やうけいじよ裏手うらて萱原かやはらなかを、四にんしきりに掘散ほりちらしてる。
「梢が——梢が——」と、必死になって、道もない萱原かやはらの中へまろび入った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実は朱実あけみは恐かったのである。そうののしると、彼の手を払って、っしぐらに走ってしまった。そのむかし燈籠とうろう大臣おとどといわれた小松殿のやかたがあった跡だという萱原かやはらを、彼女は、泳ぐように逃げてゆく。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御薬園裏の萱原かやはらで——と場所までして。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)