いぢ)” の例文
そのお高婆さんが、嫁入当時多くの女が経験するやうに(女としては何といふ有難い経験であらう)ひどしうとめいぢめられた事があつた。
「いけないね、秀ちやんは」と、おつねが二人の横に立つて、——「うちの子をいぢめると承知しないから、さア、仲直りなさいよ」
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
清潔好きれいずきかれには派手はで手拭てぬぐひ模樣もやう當時たうじほこりひとつであつた。かれはもう自分じぶんこゝろいぢめてやるやうな心持こゝろもち目欲めぼしいもの漸次だん/\質入しちいれした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それからまた、私は仲間の生徒たちの受けもよかつたし、同じ年頃の人たちにも、對等に附合つきあはれ、誰からもいぢめられたりすることもなかつた。
苛々いらいらしさ……何よりも芸術の粋を慕ふ私の心は渾然としたその悲念のとろましさにわけもなくいぢめられ、魅せられ、ひき包まれ、はたまた泣かされる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
源太郎の娘で、氣象者で通つたお銀の方も、椎茸髱しゐたけたぼの女中共にいぢめ拔かれて、少し氣が變になつた。到頭若樣十次郎を
しかもお生家さとが並々ならぬ大身なる処より、かゝあ天下の我儘一杯にて、継子いぢめの噂もつぱらなる家なり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
無論父親は決して富之助をいぢめる爲めに富之助に尋ねたのではなかつた。實際子を思ふ至情からであるのだが、それが富之助には獄吏のしもとかと思はれるのであつた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
平三にどんな理由があつても、大きなものが小さいものをいぢめる法はない、小さい者がどんなことをしようと大きな者は辛抱して居るものだとお光は平三をたしなめた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
野郎はあの犬をけしかけて借金とりをおどしたり、自分が小作人いぢめに赴く時の供に使つてゐるさうだが、あいつを一番擲り殺して、ヤグラ岳で狼を退治した、野良を荒し
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
姑が或理由を附して嫁を離別させるのはまだ好い方であつて甚しきは理由が無いと唯だ無茶苦茶にいぢめ通した擧句、姑の一存で嫁を追ひ返してしまふ例さへ珍しくないのです。
姑と嫁に就て(再び) (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ひとまれたり、られたり、後足うしろあしすなをかけられたり、いぢめられてさいなまれて、熱湯にえゆませられて、すなあびせられて、むちうたれて、あさからばんまで泣通なきどほしで、咽喉のどがかれて、いて
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いぢめられたり揶揄からかはれたりしても、まだしも雛子や蝶子が懐かしかつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「あんまりいぢめるなよ。」
キリスト者の告白 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
驟雨しううあとからあとからとつてるのであかつきしらまぬうちからむぎいてにはぱいむしろほし百姓ひやくしやうをどうかすると五月蠅うるさいぢめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ところが、抱月氏の生存当時、須磨子の勝気にしひしがれてゐた多くの男と女とは、抱月氏が亡くなると、徐々そろ/\寄つてたかつてこの女優をいぢめ出した。
「お糸を皆んなで邪魔にするから、こんな事になるのですよ。——お幾なんか、あんな濟した顏をして居るけれど、甚助をけしかけてどんなにお糸をいぢめたかわからない」
今日けふからは僕達のやうに叔母さんからいぢめられるだらうからと云ふのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ジョンは私に似てるし私の兄弟に似てる——あれは立派なギブスン家の人間なのだ。あゝ彼がお金をくれといふ手紙で私をいぢめるのを止してくれゝばいゝのに! 私にはもうあれにやるお金は無い。
「心配するな、俺はもう何と云はれたつて姦通者に相違ないのだ、皆が皆寄つてたかつて苛めるならもつといぢめろ、もつといぢめろ、一層いつその事ぐいと銀の槍でも突き通せ。」おまへの心はもうその時犇と優しい Tinka John の身体を
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まだあつ空氣くうきつめたくしつゝ豪雨がううさら幾日いくにち草木くさきいぢめてはつて/\またつた。例年れいねんごと季節きせつ洪水こうずゐ残酷ざんこく河川かせん沿岸えんがんねぶつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「この男はLといふ軍曹です。悪い奴ぢやありません。別扱ひにして欲しいと言ひますから、一度に撃ち殺さないで、ゆつくりいぢめ殺してやつて下さい。」
「お菊を、殺したのは、この彌助に相違ございません。——何時もお菊やお淺にいぢめられて、小さくなつてゐる、片輪のお吉が可哀さうで、ツイあんな大それた事をして了ひました」
四人程そのことに就いて話してやらうと云つて来た人がありましたが、私は自分の後暗うしろくらさから(間接に子供をいぢめたのは私とあなたなのですから)その人等には曖昧なことを云つて口をとざさせました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
実業家は冷めた盃をふくみながら、是公氏が何を泣いてゐるのだらうと色々想像してみた。後藤だんが新聞記者にいぢめられたからといつて泣く程の是公氏でもないと思つた。
(おそろしく近代的なお公家さまで、歌よみを優遇するよりも、いぢめることを知ってゐる。)
器用な言葉の洒落 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
(おそろしく近代的なお公家くげさまで、歌よみを優遇するよりも、いぢめることを知つてゐる。)