がえん)” の例文
束帯そくたいの上から縄打つ法はあるまい。まして宮門の内より縄付きを出してよいものか。万一、どうしてもがえんじねば、俊基、この場で舌を
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女子を自分と対等な位地に置くことをがえんぜないのは、男子がそれだけ無学であるからだと私は考えて男子のために恥じております。
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
抽斎がもし生きながらえていて、幕府のへいを受けることをがえんじたら、これらの蘭法医と肩をくらべて仕えなくてはならなかったであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鉄の配給統制で材料もなくなり日々の生活に窮しつつ猶組合の工場へ入って一人の労働者として働くことをがえんじがたい心持の失望と苦悩
「建設の明暗」の印象 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
出来しゅったいの上で、と辞してがえんぜぬのを、平にと納めさすと、きちょうめんに、すずりに直って、ごしごしと墨をあたって、席書をするように、受取を——
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はそれらの不評に屈服することをがえんじないで、ますます進んでその活歴なるものを観客に紹介しようと試みたのである。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は自分では気がつかないが、怠け者のせいか、それともまた役に立たないせいか、とにかく運動をがえんじないで、分に安じおのれを守る人らしく見えた。
端午節 (新字新仮名) / 魯迅(著)
私はこの抗議をがえんじよう。然しこの場合、改めねばならぬのは個人の生活であるか、社会の生活であるか、どちらだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
米友が頭を左右に振って、がえんぜぬ形をした時に、またしても盲法師の弁信が後ろから、抜からぬ面で口を出しました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
花嫁の泣き別れ で、その家を出ます時分には花嫁は大抵大いに泣き悲しんで馬に乗ることをがえんじない。地にひれふしてほとんど立つことが出来ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一行は病み衰へたサビエルを見て切に乗馬をすゝめたが、サビエルはがえんじないので、一同も馬から下りて、聖師の後から馬の轡を引つぱつて戻つてきた。
それは、自分たちの運動が幸いに成功して、どうなり県当局の意志を動かし得たとして、先生は果して留任をがえんじられるだろうか、という疑問であった。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
七年という言葉に驚愕きょうがくしながら太田は監房へ帰った。七年という刑は岡田が転向をがえんじなかったこと、彼が敵の前に屈伏しなかったことを物語っている。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
所有主は土地から引離し得ざる彼れの資本部分を抛棄することをがえんずるが、けだし彼は、この資本部分を抛棄しない場合よりも、引去り得る部分をもって
自分の知ってる者はだれもいないと言いながら、寂しそうに室に閉じこもって、出かけることをがえんじなかった。
家茂いえもち薨去こうきょの後は、尾州公か紀州公こそしかるべしと言って、前将軍の後継者たることをがえんじなかった人である。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女王は二人とも弾くのをがえんじない。父宮はたびたび勧めにおやりになったが、何かと口実を作って断わり、弾こうと姫君たちのしないのを薫は残念に思った。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
氏は一方に自分の個性を曲げることをがえんじないでゐながら一方には泡鳴氏にその主張を曲げさせやうと努力された。これは個人主義ではなくて利己主義である。
しかしこれは咳がなおったのではなくて、咳をするための腹の筋肉がすっかり疲れ切ってしまったからで、彼らが咳をするのをがえんじなくなってしまったかららしい。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
今日の文壇には彼らのほかにべつに、自然主義者という名をがえんじない人たちがある。しかしそれらの人たちと彼らとの間にはそもそもどれだけの相違があるのか。
それより談は其事の上にわたりて、太祖、その曲直はいずれに在りやと問う。太子、曲は七国に在りと承りぬとこたう。時に太祖がえんぜずして、あらずは講官の偏説なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
当人がそれをがえんじないのは勿論もちろんとして、本家も今では引き取ろうと云わないであろうことが予想された。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は十六日間責め通されてなお改宗をがえんじないのだ。彼の全身はことごと腐爛ふらんし、口も眼も鼻もらい患者のようにただれ、彼より発するえ難い悪臭が恐ろしく鼻をつく。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
僕は僕の市蔵に対する今日までの態度にかえりみて、この非難をもっともだとがえんずる。それがために市蔵を田口家から疎隔したという不服もついでに承認して差支さしつかえない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
使は元宰先生の手札しゅさつほかにも、それらの名画をあがなうべき槖金たくきんを授けられていたのです。しかし張氏は前のとおり、どうしても黄一峯こういっぽうだけは、手離すことをがえんじません。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あれが自分をかばい立てでもするように、自身番へ訴人することをがえんじないという——はて、どういうこころであろう? と、この危急の場合にも、お妙の心中を考え
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
対馬守がこれを外国公使館の敷地に当てようとしたところ、織部正が江戸要害説を固執こしつしてがえんじなかったために、怒って幽閉したのを憤おって自刃したと言う憶測だった。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
……それも、矢っ張、書置をたてに、何としてもその親たちからの要求をがえんじなかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
彼はそう云って、どんないそがしい時でも下等な仕事には手をつけることをがえんじなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
探索隊は深い山の中をさがし回って、ようやく老夫婦を見いだしたが、その老夫婦は、この十七年来人に逢ったことわずかに二度であると語り、浮世に出て来ることをがえんじなかった。
だが、勇は彼女に働きを要求しても、彼女の肉体を他人に提供することはがえんじない。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
鉄道開通以来、土地の人が頑固で、折角せっかくの停車場の設置をがえんぜなかったばかりに、木曾下流の渡船場として殷賑いんしんであったこの笠松街道もさっぱり寂れてしまったということであった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
巴がなかなか落ちることをがえんじないので義仲は度重ねて、きびしく巴にいった。巴も彼のきつい言葉のうらにある愛情は知っている。そして遂に決意して一行を先に送ると一人待った。
伯爵が寝室へ行く様に勧めても、娘の生死が分るまではとがえんじなかった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし正造はがえんじなかった。彼は紙片に記して、左席の中山へ示した。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
と頑張って退く事をがえんじない。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
某は家にいたのに、きたり診することをがえんぜなかった。常吉はこの時父のために憂え、某のためにおしんで、心にこれを牢記ろうきしていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その時、事情を聞いたお吉が、当然に、そういってすすめたけれど、お米は、どうしても首を振って、家へ帰ることをがえんじない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されど室内に立入りて、そのおもてを見んとせらるるとも、主翁は頑としてがえんぜざるべし。諸君涙あらば強うるなかれ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この貴公子が、どうしても動座をがえんぜざるがために、用人の面上に現われた苦渋、難渋の色は、見るも気の毒なほどでありました。よって見兼ねた兵馬が
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし、警官がも一人彼の背中に飛びかかったとき、彼はいのししのように武者震いして、二人の警官を拳固げんこでなぐりつけた。捕縛されるのをがえんじなかったのである。
その時になって外人も備前藩の兵でないだけは諒解りょうかいしたが、しかしこの地の占領を解くことを断じてがえんじない。長州兵はやむを得ないで奥平野おくひらの村の禅昌寺ぜんしょうじに退いた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
眼をわずらっていたからでもあったが、一つには、姉が義兄の意を伝えて雪子を返せと云い出しでもして、雪子ががえんじなかった場合に、板挟いたばさみになるのを恐れたからであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その老人はどうしても一家と一緒に東京へ来るのをがえんじなかった。それは見ず知らずの国で寂しい老後を送るよりは、知己の多い大阪で土になりたいという寂しい願いのためであった。
不幸 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
新らしい外套がいとうも着られなかった。が、彼の友だちはいずれもそれ等を受用していた。彼は彼等をうらやんだ。時には彼等をねたみさえした。しかしその嫉妬や羨望を自認することはがえんじなかった。
聞くならくアーサー大王のギニヴィアをめとらんとして、心惑える折、ながらに世の成行なりゆきを知るマーリンは、首をりて慶事をがえんんぜず。この女のちに思わぬ人を慕う事あり、娶る君にくいあらん。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
言うまでもなく、単なる臆測おくそくである。科学のがえんじない臆測である。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とがんばってがえんじなかったというのである。
文芸時評 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
とりかごとらはるゝをすをがえんぜんや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
然るに当時半井大和守成美やまとのかみせいびは献ずることをがえんぜず、その子修理大夫しゅりのだいぶ清雅せいがもまた献ぜず、ついに清雅の子出雲守広明ひろあきに至った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)