やしろ)” の例文
わたくし竜宮行りゅうぐうゆきをするまえに、所中しょっちゅうそのおやしろ参拝さんぱいしたのでございますが、それがつまりわたくしりて竜宮行りゅうぐうゆき準備じゅんびだったのでございました。
夜の十一時頃に、わたし達は町と村との境にある弁天のやしろのそばを通った。当夜の非番で、村の或る家の俳句会に出席した帰り路である。
鴛鴦鏡 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
毎年初夏の頃になると、薄紅うすくれない色の合歓の花が咲く。その頃になるとこのやしろの祭があるので、村祭同様に村中の者が家業を休む。
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
小野さんは孤堂こどう先生と小夜子さよこを連れて今この橋を通りつつある。驚ろかんとあせる群集は弁天のやしろを抜けてして来る。むこうおかを下りて圧して来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生れて間もない私が竜門りゅうもんの鯉を染め出した縮緬ちりめん初着うぶぎにつつまれ、まだ若々しい母の腕に抱かれて山王さんのうやしろの石段を登っているところがあるかと思うと
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「洛陽から三十里、躍龍潭やくりょうたんふちに、一つのやしろがあります。そこにある梨の木は高さ十余丈、千古の神木です。これをって棟梁はりといたしましては如何でしょうか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例えばあの世に行けばんなが神様のおやしろみたいな所へ入って、朝から晩までお勤行つとめをしているというような事や、空中を白い着物を着て飛んで行ける事や、大体だいたい野原で
しかし、才をたのみ物におごって、鬼神を信ぜず、やしろを焼き、神像を水に沈めなどするので、狂士を以て目せられている大異には、そんなことはすこしも神経に触らなかった。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つかもりえのきに、線香せんかうけむりあはち、こけいしやしろには燈心とうしんくらともれ、かねさらこだまして、おいたるはうづくまり、をさなきたちはつどふ、やまかひなるさかひ地藏ぢざうのわきには、をんなまへいて
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
縁日の晩は外ばかりにぎやかで、路地の中は却て客足が少いところから、窓の女達は貧乏稲荷と呼んでいる事などを思出し、人込みに交って、まだ一度も参詣さんけいしたことのないやしろの方へ行って見た。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのちひさなやしろまへに、こめつくつたおもちをあげてました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
御存ごぞんじのとおひめのおやしろ相模さがみ走水はしりみずもうすところにあるのですが、あそこはわたくしえんづいた三浦家みうらけ領地内りょうちないなのでございます。
むかし住吉のやしろで芸者を見た事がある。その時は時雨しぐれの中に立ち尽す島田姿が常よりはあでやかに余がひとみを照らした。箱根の大地獄で二八余にはちあまりの西洋人にった事がある。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しんの時、武都ぶとの故道に怒特どとくやしろというのがあって、その祠のほとりに大きいあずさの樹が立っていた。
其処には荒廃したやしろが夕闇の底に見えていた。桟道かけはしに見覚えのある陳宝祠ちんほうしであった。杜陽はびっくりして侍女の方を見た。侍女は二羽のきじとなって鳴きながら壑の方へ飛んで往った。
陳宝祠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
現世げんせ立派りっぱなおやしろがあるとおり、こちらの世界せかいにも矢張やはりそうったものがあり、御用ごようがあればすぐそちらへおましになられるそうで……。
呂城は呉の呂蒙りょもうの築いたものである。河をはさんで、両岸に二つのやしろがある。