矛盾むじゅん)” の例文
この不自由ふじゆうな、みにくい、矛盾むじゅん焦燥しょうそう欠乏けつぼう腹立はらだたしさの、現実げんじつ生活せいかつから、解放かいほうされるは、そのときであるようながしたのです。
希望 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いたずらに、物絶ちをもって、清浄しょうじょうとし、形式にばかりとらわれて、実はかえって、裏には大きな矛盾むじゅんを秘しているようなことになる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、彼にとって大きな矛盾むじゅんであったにちがいない。しかし、彼自身では、少しもその矛盾には気がついていなかったのである。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
けれどもまたなん矛盾むじゅんもなしに多少の享楽をも感じていた。もっとも守衛しゅえいや観覧人に時々一瞥いちべつを与えられるのは勿論彼女にも不快だった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
我は彼を信じたり、しかして今我彼の信ずる所をあきらかに見ることあたかも汝が一切の矛盾むじゅんの眞なり僞やなるを見るごとし 一九—二一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あんな恥ずべき人間に、あんな美麻奈さんというような、あんな可愛らしい娘さんのあるのは、何んという矛盾むじゅんしたことだろう。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
医師の門をくぐるのと、それは矛盾むじゅんしているようであったが、本能的な自己防禦ぼうぎょが働く。自分の症状を軽く見せたいという気持が強かった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
言いかけて、お君を犯したことをふと想いだし、何か矛盾むじゅんめくことを言うようだったから、簡単な訓戒に止めることにした。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
歳子はほとんど一晩語りに語り続けた青年の矛盾むじゅんしてゐるやうな、独断のやうな言葉を聞き明したが、決して退屈しなかつた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
えたいの知れぬ混沌こんとんを成しており、この上もなく矛盾むじゅんした感情や、想念や、疑惑ぎわくや、希望や、喜びや、なやみが、つむじ風のようにうずまいていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
最初からしていくたの矛盾むじゅんが雑然として混在していたにかかわらず、今日までまだ何らの厳密なる検覈けんかくがそれに対して加えられずにいるのである。
第七十六条 法律規則命令又ハ何等なんらノ名称ヲもちヰタルニかかわラスノ憲法ニ矛盾むじゅんセサル現行ノ法令ハすべ遵由じゅんゆうノ効力ヲゆう
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
銭形平次は重三郎の長物語の中から、幾つかの矛盾むじゅんを見出して、その場を去らせずこの曲者を縛ってしまったのです。
清逸が会社か銀行にでも勤めていたら(そんな所にいる自分を想像するほど矛盾むじゅん滑稽こっけいとを感ずることはなかったが)
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
机博士は、矛盾むじゅんするふたつの発見にびっくりしたが、今宵こよいチャンウーの店にしのびこんだのは、まぎれもなく、小男。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
矛盾むじゅん、抗争というものが存在するので、それらを統合して、一体的な共同生活の意思と秩序を生み出すために、どうしても政治を欠くことができない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
僕は中村君からこの事件の経過を聞いた時に、殺人鬼の行動に、一つの心理的な矛盾むじゅんがあることを気附いたのです。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
右に言ったことをもっとまっすぐにいうと、何事に従事するときも、普通に用うるあらんかぎりの力をつくすべしという言葉とはさらに矛盾むじゅんしないと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
矛盾むじゅんした二つのことが、平気で並行されるということは、よほど理屈にはずれた話だけれど、僕のところなどではそれがしじゅう事実として行なわれている。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
これは前述の反抗性と矛盾むじゅんするようだが、それだけに複雑なのだろう。将来の改善の見込があるといえる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
ならびに御養子伊賀守どのをお使者になされてかみがたへおつかわしになり、ほうばい同士矛盾むじゅんにおよんでは亡君の御位牌にたいしてももうしわけなくぞんずるゆえ
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
このわたしの心の中の矛盾むじゅんはおのずと声にあらわれたが、おっかあはそれに気がつかないらしかった。
や、君の顔は妙だ。日のしている右側の方は大変血色がいいが、影になってる方は非常に色沢いろつやが悪い。奇妙だな。鼻を境に矛盾むじゅんにらめこをしている。悲劇と喜劇の仮面めん
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
祖母も病床に臥したまま動かれず、老耄ろうもうして白痴のような矛盾むじゅんしたことを申しますし、一家は二人の看護で秩序を失っていました。それから二十日間姉は苦み続けました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
老博士はなおしばらく、文字の霊の害毒があの有為ゆういな青年をもそこなおうとしていることを悲しんだ。文字に親しみ過ぎてかえって文字に疑を抱くことは、決して矛盾むじゅんではない。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これは疑いもなく矛盾むじゅんであり、矛盾はわざとつくられたにちがいないほど歴然としていた。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「驚いたね。人の子を教育して自分の子の教育が出来ないのは悲惨な矛盾むじゅんじゃないか?」
首席と末席 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
部屋の中の畳の上をさえスリッパを穿かねば歩けないといったほうであったが、それでいておかしいことには、そのスリッパで便所の板の間をじかに踏む矛盾むじゅんを平気でやるのであった。
すなわち私は一仏教徒として我が同朋どうぼうたるビジテリアンの仏教徒諸氏に一語を寄せたい。この世界は苦である、この世界に行わるるものにして一として苦ならざるものない、ここはこれみな矛盾むじゅんである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それは、甚だ矛盾むじゅんした様な外見を持って居る。
大いなるもの (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この矛盾むじゅんを切りぬける事が出来るかどうか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかし、矛盾むじゅん——ではなかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この一箇名門の脆弱児ぜいじゃくじを、自己の薬籠中やくろうちゅうにして、完全に利用しきろうとする底意には、何らの矛盾むじゅんも良心のまどいも覚えはしない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(これほど塾生たちが期待してくれているこの塾の運命も、遠からず決定するのだ。何という矛盾むじゅんだろう。何という大きな損失だろう。)
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼には大井がその汽車へ乗り合せていたと云う事より、汽車の窓で手巾を振っていたと云う事が、滑稽なくらい矛盾むじゅんな感を与えるものだった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いはゞ世紀末的な敗頽はいたいの底を潜つて、何か清新なものをつかまうとあさつてゐる、おいと若さと矛盾むじゅんしてゐる人間に見えた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そして、自分じぶんのすることについて矛盾むじゅんかんじなければ、そうした社会しゃかいをよくしなければならないともかんがえない。
自由 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかるにもかかわらず、人に使われてるのみならず、おちついて使われている主人をすらえられないかと思うと、そこにだいなる矛盾むじゅんを思わぬわけにいかない。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かく神経作用の鋭いものは、すなわち怜悧れいりなるものは、目先きがよく利くため、とかく人負ひとまけするように思われる。この事も一見矛盾むじゅんの感なきにしもあらぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それからまだあとに、実に大きな矛盾むじゅんが残っているのだよ。お前がはじめに見た夢の中で、たいへん恐怖を感じた場面のあったのを覚えているだろう。実は、あのことだ。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なんらの権力的統制もない所で可能だなどと考えるのは、収拾すべからざる矛盾むじゅんである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
その本場の批評家のいうところと私のかんがえ矛盾むじゅんしてはどうも普通ふつうの場合気が引ける事になる。そこでこうした矛盾がはたしてどこから出るかという事を考えなければならなくなる。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
フランス仕込みの隆鼻術ということが既に矛盾むじゅんを示しています。烏の発明した白髪染めも同じことです。彼方あっちの人は元来鼻が高いから殊更隆鼻術なんか工夫する必要はないんです。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「どうも矛盾むじゅんがすっかり説明しつくされたようには思えませんね」と、Kはいった。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
遠慮えんりょして云わないこと、前後矛盾むじゅんしていること、何かもぐもぐと云うには云っても息のれる声が聴き取りにくく、いくら問い返しても要領をつかめなかったことなどがたくさんあって
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……この矛盾むじゅんは、心理学者どもが、なんとでも勝手に解釈するがいいのだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その矛盾むじゅんを乗りこえて、かれをここまで勇躍させてきた力は、幕府のためというよりも、剣山で龍耳りゅうじ老人に告白したとおり、恋、義理、涙
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうした矛盾むじゅんにみちた報道がつぎつぎに伝わる一方、二十八日の夕刻ごろからは、九段戒厳司令部の警戒けいかい次第しだいに厳重を加え
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そして、あわれなものを、いたわるかとおもえば、また、いじめるというふうに、矛盾むじゅんした光景こうけいそらえがきながら。
からす (新字新仮名) / 小川未明(著)
すなわち白隠和尚はくいんおしょうの態度のごときはごろの修養ある者でなければ、為すべきことでない。かく言えば、前に説いたことと矛盾むじゅんするらしく思われるがそうでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)