瞑想めいそう)” の例文
こうして、天上のあこがれと、地上の瞑想めいそうが、二人の少年によってほしいままにされている時、その場へ不意に一人の殺生者せっしょうものが現われました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かくまで、この子守唄が、瞑想めいそうふけらせるとしたら、その子守唄には、最も力強い芸術的の魔力があることをいなむ訳にはゆかない。
単純な詩形を思う (新字新仮名) / 小川未明(著)
瞑想めいそうは多くの場合感傷から出てくる、少くとも感傷を伴い、あるいは感傷に変ってゆく。思索する者は感傷の誘惑に負けてはならぬ。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
土台が、換言すれば民衆が、革命の潮に浸されて一種漠然ばくぜんたる癲癇的てんかんてき動揺をなしてるとともに、その上に立って思想家らは瞑想めいそうしていた。
つまり夢殿は太子の瞑想めいそうと内観の道場であった。ひとたびは灰燼に帰したとはいえ、太子の御思いの永久にとどまるところであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
綽空は、草庵をとざして、夜の孤寂こじゃくに入ってからも、瞑想めいそう澄心ちょうしんを、それのみに結ばれてしまうことを、どうしようもなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深夜眠れぬままにときどきこのように思ったパリーでの瞑想めいそうも、も早や梶から形をとりこわして安らかにしずまって来るのであった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
しかし、女性の生活は比較的固定し、世間ときりはなされており、瞑想めいそう的である。女はむしろ自分の感情や思索を友とする。
傷心 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
曽根は、今日は一日社も休み、「自分の生命」のために、そんな小さなことに煩わされずに、もっとおおきいことについて静かに瞑想めいそうしようと思うた。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
もうそこには死生を瞑想めいそうして自分の妄執もうしゅうのはかなさをしみじみと思いやった葉子はいなかった。我執のために緊張しきったその目は怪しく輝いた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし寝坊をして出勤時間に遅れないように急いで用を足す習慣のものには、これもまた瞑想めいそうに適した環境ではない。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼の風貌ふうぼうのうちには、沈重ちんちょうな北方人の趣きと瞑想めいそう的な苦行者の趣きとがあるといわれているが、その心には、輝かしい溌剌はつらつたる魂が蔵せられていた。
既に年経て、古く物さびた庵の中には、今もなお故人の霊がいて、あの寂しい風流の道を楽しみ、静かな瞑想めいそうふけっているように見えたか知れない。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
冬ぢかい秋の日の、どんよりと曇ったまま、雨にもならず風もそよがず、尽きない黄昏たそがれのように沈静する昼過ほど、追憶と瞑想めいそうとに適した時はあるまい。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
哲学者みたいに瞑想めいそうに耽っているかと思うと、突然車にも乗らないで、異様なモーニングの裾をひるがえしながら、鉄砲玉のようにどこかへ飛び出して行く。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つくづくその女の動きを見ているうちに、諸君は、安心するであろう。ああ僕は、女じゃない。女は、瞑想めいそうしない。女は、号令しない。女は、創造しない。
女人創造 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一つの思惟像しゆいぞうとして、瞑想めいそうの頬杖をしている手つきが、いかにも無様ぶざまなので、村人たちには怪しい迷信をさえ生じさせていたが、——そのうえ、鼻は欠け落ち
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
或時暗黒くらやみの中で瞑想めいそうしている刹那せつな、忽然座辺のものが歴然ありありと見えて、庭前の松の葉が一本々々数えられたとソムナンビュリストの夢のような事をいったりした。
しかし言論は極度に圧迫されていますから、印度の作家は低俗な恋愛のみにはしるか、さもなければ哲学か詩の瞑想めいそうへ逃避する以外には書くことができないのです
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
クリストフはその快い光景をただ通りがかりにうっかり見たばかりであって、そのために音楽上の瞑想めいそうが少しも邪魔されはしなかったのだと、思い込んでいた。
私はそれを村の男が植木か何かを載せて縁日えんにちへでも出掛けるものと想像した。先生はその音を聞くと、急に瞑想めいそうから呼息いきを吹き返した人のように立ち上がった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
骨相学者がもしこのときの彼の顔をよく観察したならば、そこには思考もなければ想念もなく、ただ何か瞑想めいそうとでもいうものがあるばかりだ、と言うに違いない。
ある賢明な老魚は、美しい庭を買い、明るい窓の下で、永遠の悔いなき幸福について瞑想めいそうしておった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それは瞑想めいそうする自分には望ましい事実であるが、本能的には恐ろしい。強いて死を求めるのは不自然である。けれども死が人間の運命だという事は人間の不幸ではない。
夏目先生の追憶 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
と話すのを、こっちも芸術家だ、眼をふさいで瞑想めいそうしながら聴いていると、ありありとその姿が前に在るように見えた。そしてまだ話をきかぬ雌までも浮いて見えたので
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私が大切な瞑想めいそうの道場としている事を夢にも御存じない校長先生と、傴僂せむしの老人の川村書記さんとは、いつも学期末の近付いた放課後になると、職員便所の横のカンナの葉蔭から
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「残念ながら代々の家柄でね、そういう瞑想めいそう的にはたらく頭を持っていないんだ、銭勘定をする商人のように、いつも俗っぽくって現実的なんだ」安宅は湯呑の冷や酒をすすりながら
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
外部の喧騒けんそうから遮断しゃだんされたところで読書と瞑想めいそうふけることもできたが、彼はいつも神経を斫り刻むおもいで、難渋を重ねながらペンをとった。……このようにして年月は流れて行った。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
大津はひとり机に向かって瞑想めいそうに沈んでいた。机の上には二年まえ秋山に示した原稿と同じの『忘れ得ぬ人々』が置いてあって、その最後に書き加えてあったのは『亀屋かめや主人あるじ』であった。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その巨大な蝶番ちょうつがいがぎいっときしるたびごとに、私たちはその音のなかに、かずかずの神秘を——厳かな注意や、あるいはもっと厳かな瞑想めいそうをそそる多くの事がらを——見出みいだしたのであった。
海軍機関学校に居る頃から、彼は外川先生に私淑ししゅくして基督を信じ、他の進級、出世、肉の快楽けらくにあこがるゝ同窓青年の中にありて、彼は祈祷きとうし、断食だんじきし、読書し、瞑想めいそうする青年であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ユダ的な幽婉ゆうえんな、瞑想めいそう的な音楽が特色である。ドイツ浪漫ロマン派の変り種だ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
唯古来の詩人や学者はその金色の瞑想めいそうの中にこう云う光景を夢みなかった。夢みなかったのは別に不思議ではない。こう云う光景は夢みるにさえ、余りに真実の幸福にあふれすぎているからである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「こゝが僕の散歩道です。夕方独りで来て、瞑想めいそうしながら歩きます」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
此方こなたも古塚の奇異に対して、瞑想めいそう黙思した男には相応そぐわない。
その一つへ腰を下ろし、瞑想めいそうふけったものである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
頬に軽く指先をふれた柔軟な思惟像に彼らの瞑想めいそうの深さをしのび、あるいは百済観音のほのぼのとした清純な姿に法悦の高い調べを思ったりした。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その凶悪な瞑想めいそうのうちに、われわれが先に述べたところの考えは絶えず彼の頭に出入してかき乱し、一種の圧迫を加えていた。
弦之丞は、かえってそれを心安そうに、携えてきた尺八を吹くでもなく、ひとり行きつ戻りつ瞑想めいそうの闇をさまよっている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冬の凍りついた家の中で、芭蕉は瞑想めいそうふけりながら、骨のように唯一人ですわっている。その背後の壁には乾鮭からさけがさがり、戸外には空也念仏の声が通る。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
わたしは、名声の高い偉業が行われた跡を歩きまわり、古人が残した足跡を踏み、すさび果てた古城のあたりに遊び、崩れかかった高殿の楼上で瞑想めいそうしたくてならなかった。
けれど、彼はすぐに深い瞑想めいそう、というよりむしろ一種の自己忘却にちたようなあんばいで、もう周囲のものに気もつかず、また気をつけようともせず先へ先へと歩き出した。
煙が、鼻の下に彽徊ていかいして、ひげに未練があるように見える時は、瞑想めいそうに入る。もしくは詩的感興がある。もっとも恐るべきは穴の先のうずである。渦が出ると、たいへんにしかられる。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼らは自分の思想のうちに生きながら、自分の芸術について瞑想めいそうしたり、あるいは渾沌こんとんたる事相の下に、人間の精神の歴史中に跡を印すべき、人の気づかぬ小さな光を見分けたりした。
不思議なほどに緊張した葉子の心は、それらの世間話にはいささかの興味も持ち得ないで、むしろその無意味に近い言葉の数々を、自分の瞑想めいそうを妨げる騒音のようにうるさく思っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
はたから見ると、私は、きっとキザに気取って、おろかしい瞑想めいそうにふけっているばあちゃん女史に見えるでしょうが、でも、私、こうしているのが一ばん、らくなんですもの。死んだふり。
皮膚と心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
赤目のちぢれ毛は遂には翁をば怖しい人だと思って翁がただ独りで教壇に向って、瞑想めいそうしている時などには、たとえストーブが冷かになるということを知っても薪を持ち運ばぬようになった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
又は彼を知っている教え子の親たちや何かに出会ってお辞儀をさせられるたんびに、彼の頭の中にフンダンに浮かんでいる数学的な瞑想めいそうを破られるのが、実にたまらない苦痛だからであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は初めブラッセルにおもむいたが、次にイギリス海峡の小島ゼルセーに行き、終わりにゲルヌゼーに赴いた。その間、一八五八年より六二年まで五年間の瞑想めいそうと思索とに成ったのがこの物語である。
レ・ミゼラブル:01 序 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ショパンのピアノ芸術の最後の到達点であったと言われる「幻想曲ファンタジー=ヘ短調(作品四九)」は、ショパンの甘美さをかなぐり捨てて、古典的な形式のうちに雄大深奥な瞑想めいそうを盛ったものであるが
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)