真砂まさご)” の例文
旧字:眞砂
しかも世界に星の真砂まさごの如く、恒河沙ごうがしゃ数の如くきらめくそういう明滅の美こそ真に大なるものを生ましめる豊饒の場となるのである。
永遠の感覚 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
正之助は調子を変えて云った、「もちろん、江南の真砂まさご女史みたような生きかたもありますよ、知っているでしょう、あの真砂女史」
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
波は漾々ようようとして遠くけむり、月はおぼろに一湾の真砂まさごを照して、空もみぎは淡白うすじろき中に、立尽せる二人の姿は墨のしたたりたるやうの影を作れり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
浜の真砂まさご磨滅まめつしてどろになり、野の雑草の種族が絶えるまでは、災難の種も尽きないというのが自然界人間界の事実であるらしい。
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
矢島優はこの年十月十八日に工部少属しょうさかんめて、新聞記者になり、『さきがけ新聞』、『真砂まさご新聞』等のために、主として演劇欄に筆を執った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
上陸すると、恐ろしく暑い土地で、足首を二人ずつ鉄の鎖でつながれた囚人等が働いていた。其処には浜の真砂まさごのように数多くの黒人がいた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
唐崎からさきの一ツ松からその辺りは、いちめんにきれいな真砂まさごと松原のなぎさだった。波打際のしぶきを離れるや否、彼はいっさんにその松原へ駈け込んだ。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて妙な用事を思い出して御免をこうむる程度の人に到っては、浜の真砂まさごの類限りなく、殆ど十中九人はそうだと云っても差し支えはあるまいと思う。
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
玉津島たまつしま磯の浦回うらみ真砂まさごにもにほひて行かな妹が触りけむ」(同・一七九九)というので、いずれも哀深いものである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかも死はすなはち一なるが如し、し人生をとつて銖分縷析しゆぶんるせきするを得ば、天上の星といそ真砂まさごの数も容易に計算し得べし
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
真砂まさごなす数なき星のその中に吾に向ひて光る星あり」という子規居士の歌の「数なき」と同じことである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
わたしは深く飲みたい、星を真砂まさごとした大空で釣りをしたい。わたしは「一つ」をも算えることができない。わたしはアルファベットの最初の一字も知らない。
殊に別山の大カアールに続く真砂まさご谷の雪渓は、殆んど直線に近い姿を真竪にあらわして、三つばかりの瀑の白泡が丁度、上から目に見えぬほどしずかすべり落ちて来る雪の塊を
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
娘でございますか? 娘の名は真砂まさご、年は十九歳でございます。これは男にも劣らぬくらい、勝気の女でございますが、まだ一度も武弘のほかには、男を持った事はございません。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
煙の中にあいたたえて、あるいは十畳、二十畳、五畳、三畳、真砂まさごの床に絶えては連なる、平らな岩の、天地あめつちしき手に、鉄槌かなづちのあとの見ゆるあり、削りかけのやすりの目の立ったるあり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と女ははなやかなる声の優しくまずとい懸けたり。されど仙太は応答こたえもなさで、首をたれたるまま、時々思い出したらんように苫屋の方を振返りつつ、あてもなく真砂まさごの間をざくざくとふみ行きぬ。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
浜の真砂まさごのように数えきれない人間は、すぐれた力強い人間の材料とならなければならぬというのか? いや、われわれには弱い人間も大切なのだ、彼らは不徳漢で反逆者ではあっても
ニルヤの言い伝えなども、凡眼ぼんがんに見えぬ沖の小島のようにも言えば、また時あっては蒼海そうかいしおを押し分けて、水底にいわゆる可怜小汀(うましをはま)の真砂まさごを踏んだと説く場合もある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
寝ていると、私の周囲にはかの石川五右衛門ごえもんが浜の真砂まさごと称した所のその真砂と共に、黒、白、鼠、半透明、紺、青、だんだら染等の潮にさらされたるなめらかにも美しき小石がざらに落ちていた。
「乗って参るのではない。本郷真砂まさご町に中橋という別荘がある」
まことにもしろき浜びや足つけて踏みさくみ熱き真砂まさご照る玉
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「大兄、以後我は玉の代りに真砂まさごを爾に見せるであろう。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「権次は真砂まさごぱらにいますよ、近所の人が見て来たそうで」
「女なんてものは浜の真砂まさごの数ほどある」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
秦皮とねりこの、真砂まさご、いさごの、森の小路よ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
握る 真砂まさご の もろき うちに
地なる響 (新字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
暗緑色に濁ったなみは砂浜を洗うて打ち上がった藻草をもみ砕こうとする。おびただしく上がった海月くらげが五色の真砂まさごの上に光っているのは美しい。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
底の真砂まさごの一つ一つがはっきり見分けられるほど明るかった。水草に沿うて、絶えず小さな水泡みなわの列が水銀球のように光り、揺れながら昇って行く。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
劒岳はこの方面から見ると素晴らしい金字塔を押し立て、別山べっさん真砂まさご岳から富士ノ折立、雄山おやまと続いた立山連峰の壮観は、他の追従を許さない。薬師の大岳は半ば以上立山に隠れる。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
第一に驚かされたのは彼奴きゃつ等の船の数だった。石川や浜の真砂まさごどころではない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
朝凪あさなぎの海、おだやかに、真砂まさごを拾うばかりなれば、もやいも結ばずただよわせたのに、呑気のんきにごろりと大の字なりかじを枕の邯鄲子かんたんし、太い眉の秀でたのと、鼻筋の通ったのが、真向まのけざまの寝顔である。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真砂まさごなす数なき星のその中に吾に向ひて光る星あり
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
砂山の茱萸ぐみの藪原夏まけて花了りけり真砂まさご積む花
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
浜の真砂まさごの中から桜貝を拾う子供のような好奇心の追究を一時中止して、やや冷静に立ち帰って考えてみると、これはむしろなんでもない事のようである
頭山満とうやまみつる翁の逸話といったら恐らく、浜の真砂まさごの数限りもあるまい。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
真砂まさごなす数なき星のその中にわれに向ひて光る星あり
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
後者は、城山のふもとの橋のたもとに人の腕が真砂まさごのように一面に散布していて、通行人のすそを引き止め足をつかんで歩かせない、これに会うとたいていはその場で死ぬというのである。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)