白粉しろい)” の例文
紹介もなしにそばへ寄って来て、無理に彼女と一緒に踊った、あのずうずうしい、お白粉しろいを塗った、にやけた男がそれだったのです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なるほどな、真白なお多福さんが出来上ったな、あはははははは、だがな、女の子だもの、お白粉しろいぐれいはな、いいやなあ あはははは」
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そう言って、さもあざけるように笑っている。事実、顔の浅黒い娘がくびにだけ真白にお白粉しろいをつけているのが変てこだと思っているのである。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その稚児さんは、お白粉しろいをぬりこくって顔をいろどっているけれど、よく見ると、お多福湯たふくゆのトネ子でありましたので
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
むらさき色の単衣ひとえ、赤い帯はしめておりますが、顔をみると、目も鼻も口もなく、お白粉しろいをぬったしゃもじに、着物をきせたようなノッペラ坊です。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
一寸奥の六畳へ行って徳に逢ってやっておくれ、徳が今日はお白粉しろいけて待っていたのだから、お前に逢わないと粧けたお白粉がむだになってしまう
私は伊藤の鏡台を見て、それが笠原の鏡台よりもなか/\立派で、黄色や赤や緑色のお白粉しろいまでそろっているので
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
スミルノーフ わが身を生きながら埋めてしまった人が、やっぱりお白粉しろいだけは忘れなかったってね!
なべのお白粉しろいを施けたとこは全然まるで炭団たどんへ霜が降ッたようで御座います』ッて……あんまりじゃア有りませんか、ネー貴君、なんぼ私が不器量だッて余りじゃアありませんか
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あごや、襟すじに、ほの白い青味がかって参りますと、お白粉しろいなぞはちっともつけないままに、そのあたりがお母様と生きうつしの恰好に見えて来るので御座いました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白粉しろいで刺青をした……お白粉で入れたやつは、ふだんはわからないけれど風呂に這入ったり
この騒動中比較的静かであったのは、次女のすん子嬢である。すん子嬢は向うむきになって棚の上からころがり落ちた、お白粉しろいびんをあけて、しきりに御化粧をほどこしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
越智がまだしげしげ動坂の家へ来て母が客間に永い間とじこもっているような頃、保が、伸子に向って、越智さんが来るとお母様どうしてお白粉しろいをつけるんだろう、と云ったことがあった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
田打櫻タウヂざくらハナコでも、蕗臺バキヤタヂハナコでも、彼處アコ田畔タノクロガラ見れバ花見はなみコだデバせ。弘前フロサギ公園地こうゑんち觀櫻會くわんあうくわいだけヤエにお白粉しろいカマリコアポツポドするエンタ物でネエネ。フン! 二十六にじふろくオドタテ何ア目ぐせバ。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
とお白粉しろいを塗つた給仕の女は少年を見て挨拶した。
ナオミは両手にお白粉しろいを溶き、まだ湯煙の立っている肉づきのいい肩からうなじを、その手のひらで右左からヤケにぴたぴたたたきながら云いました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
白粉しろいは屋敷だから常は薄うございますが、十九つゞ二十はたちは色盛り、器量よしの娘お照、親の前へ両手を突いて
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
キヌちゃんはその手紙をもらってから、急にお白粉しろいが濃くなったとか、まる鏡にひもをつけて帯の前につるし、仕事をしながら終始のぞきこんでいるとか、際限がない。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
母親は、死ぬ間際に顔が汚ないと言って、お白粉しろいなどで薄く刷き、戸棚の中から琴柱ことじの箱を持って来させて
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
三平は鏡をのぞきながらそこにあるお白粉しろいを真白に塗り付けた。まゆずみで眉と生え際を塗った。お神さんの着物を着て帯を締めた。次にスキ毛を頭に載せて手拭いを冠った。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そのうちに、香川礼子の身扮みなりが、見違えるほど美しくなって行きました。髪のウエーヴが新しくなり、お白粉しろいがフランス製になり、——いやそれどころではありません。
餡と一緒にお白粉しろいまでも洗い落して了ったと見え、却って前よりは冴え/″\として、つやのある玉肌の生地きじが一と際透き徹るように輝いて居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
又は茶色に変色した虐待致死の瘢痕はんこんといしの粉でおおうて、皮膚の皺や、繃帯のあとを押し伸ばし押し伸ばしお白粉しろいを施して行く手際なぞは、実に驚くべきもので、多分遊廓の遣手婆やりてばば
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
およそえものの和え方は、女の化粧と同じで、できるだけ生地きじの新鮮味をそこなわないようにしなければならぬ。掻き交ぜ過ぎた和えものはお白粉しろいを塗りたくった顔と同じで気韻きいんは生動しない。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
外の女給のようにお白粉しろいもつけず、お客や朋輩ほうばいにも馴染なじみがうすく、隅の方に小さくなって黙ってチョコチョコ働いていたものだから、そんな風に見えたのでしょう。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかもその身分違いをハッキリさせるために、平民が寄付けないようなドエライ扮装をらしやがる。薄黒いドーナツづら蒟蒻こんにゃく白和しらあえみたいに高価たかいお白粉しろいをゴテゴテと塗りこくる。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しめっぽい匂いのするほろの上へ、ぱらぱらと雨の注ぐ音がする。疑いもなく私の隣りには女が一人乗って居る。お白粉しろいの薫りと暖かい体温が、幌の中へ蒸すようにこもっていた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
全体に赤黒く日に焼けてはいるが肌目きめの細かい、丸々とした肉付の両頬から首筋へかけて、お白粉しろいのつもりであろう灰色の泥をコテコテと塗付けている中から、切目の長いめじりと、赤い唇と
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのままにしていたのであったが、生憎あいにく今日のように厚化粧をすると、かえってそれがお白粉しろいの地の下から浮き上って、斜めに透かした時に検温器の水銀のように際立つのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「———わたし、電車の中でコムパクトを開けて、隣の人に嚏されたことが二三度ございます。わたしの経験を申しますと、上等のにおいのするお白粉しろいほどそう云うことが起りますの」
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
姉の襟頸えりくびから両肩へかけて、妙子はあざやかな刷毛目はけめをつけてお白粉しろいを引いていた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
黄色い生地きじの鼻柱へずベットリと練りお白粉しろいをなすり着けた瞬間の容貌ようぼうは、少しグロテスクに見えたが、濃い白い粘液を平手で顔中へ万遍なく押しひろげると、思ったよりものりが好く
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのかげりが現れている期間は、お白粉しろいを濃くすると、斜めに光線を透かした時に、かえって真っ白な地肌じはだの下に鉛色の部分がくっきり沈澱ちんでんして見えるので、むしろその期間はお白粉を薄くして
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あんまり色が白すぎると思ったのも道理、顔にも襟にも濃いお白粉しろいがくっきりと毒々しいまでに塗られている。———けれど、そのために彼女の美貌びぼうが少しでも割引されると云うのではない。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのくせ当人は例のごとく無関心で、今朝もいつもの厚化粧をしようとするので、雪子ちゃん、少し濃過ぎるようやないかと、拵えを手伝ってやりながらそれと云わずにお白粉しろいを薄くさせたり
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
満洲朝の官服に似せた刺繍ししゅうのあるパジャマの上衣うわぎだけを、ようようしりと擦れ擦れに着ている下はパンツの代りにすね一面のお白粉しろい穿いた脚の先へ、仏蘭西型のかかとの附いた浅黄色の絹の上靴パントウフル
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
妙子のやつは真っ黒な顔をしていて一番汚いと、父親に云われ云われしたことを覚えているのであるが、それはそのはずで、父親の晩年時代には、まだ女学校在学中であったから、紅お白粉しろいも着けず
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)