めぐ)” の例文
極楽水の麓をめぐりし細流のほとりには今博文館の印刷工場聳え立ちたれば、その頃仰ぎ見し光円寺の公孫樹いちょうも既に望むべからず。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのビール瓶は、この島のまわりをめぐる、うしおの流れに連れられて、ズンズンと海中わだなか遠く出て行って、二度とこの島に帰って来ませんでした。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
我亦斯の如くになりき、かくなりて、かの岩の裂け登る者に路を與ふるところを極め、めぐりはじむる處にいたれり 六七—六九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
話聖東ワシントンのこと起り、蘭夷の報ずるところを聞けば則ち曰く、「いま礮台ほうだい海潯かいじんめぐらすを見ざれば、南風四月はなはだ心にかかる」。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ある人が葡萄園ぶどうえんを造り、まがきめぐらし、酒槽さかぶねの穴を掘り、物見の番小屋をたて、すっかり仕度をして農夫どもに貸しておいて、遠くに旅立ちした。
いかにも何万年となく何万回となく、一旦めぐり出したらいつまでも同じ歩みで環つてゐるものの冷やかさを持つてゐた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
春夏秋冬がほどよくめぐって来て、変化に富んでいて、春夏秋冬の草木禽獣きんじゅう虫魚、天文地理の諸現象、それらの変化を楽しむことが出来るということは
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
虚譚のようだが全く所拠よりどころなきにあらず、『旧唐書くとうじょ』に払菻国ふつりんこく羊羔ひつじのこありて土中に生ず、その国人その萌芽ほうがを伺い垣をめぐらして外獣に食われぬ防ぎとす。
一人ありてその前に立ち、道化役プルチネルラ偶人にんぎやうを踊らせ、且泣き且笑ひ、又可笑をかしき演説をなさしめたり。衆人はめぐり視て笑へり。向ひの家の石級には一僧あり。
別山方面の登路は、平蔵谷の雪渓の上部をめぐる長い岩壁を辿るのが尤も危険で、悪い場所が三ヶ所程ある。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
なるほど天地玄黄てんちげんこうを三寸に収めるほどの霊物だけあって、到底吾輩の手に合わない、尻尾をめぐる事七度ななたび半にして草臥くたびれたからやめにした。少々眼がくらむ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
折々クサンチスは台から下へ降りて来て、大勢が感嘆してめぐり視てゐる真中に立つて、昔アルテミスのほこらの、円柱まるばしらの並んだ廊下で踊つた事のある踊をさらつて見る。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
一面に海をめぐらし、一面の市外には丘陵を持つ桑名城は、長島よりは守るによく、敵を撃つに利がある。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この詩人の身うちには年わかき血あたたかくめぐりて、冬の夜寒よさむも物の数ならず、何事も楽しくかつ悲しく、悲しくかつ楽し、自ら詩作り、自ら歌い、自ら泣きて楽しめり。
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)
杉を磨いた丸柱の前にかたまって、移庁論の影弁慶が、南部だとか北部だとか、鮭の鑑定でもないことを云って居るのがあれば、その後をめぐえん欄干らんかんもたれかゝって
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
海をめぐっている潮流のこまごまとした枝分えだわかれ、常吹く風の季節ごとの移動など、やがては綿密な学者の調査が、一々の地区について説明してくれる日がくるのだろうけれども
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
初秋はつあきの夜気が、しみ/″\と身うちにめぐつて、何となく心持ちが引緊り、さあ「これからだぞ——」といふやうな気がするにつけても、訳もなく、灯とそれから人の匂ひが懐しい。
散歩 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
窓の外は容々とけむるような景色でしたが、若いお染と向い合って、膝と膝とを摺り合せた車の中の情緒は、まことにホカホカと五体をめぐる血潮の温か味を感ずるような心持でした。
十九日、朝起きて、かおあらうべき所やあると問えば、家の前なるながれを指さしぬ。ギヨオテが伊太利紀行もおもい出でられておかし。温泉をめぐりて立てる家数三十戸ばかり、宿屋やどやは七戸のみ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
論は無益と思うけれども、衆人めぐる中において、淑女のころもを奪うて、月夜を引廻すに到っては、主、親を殺した五逆罪の極悪人を罪するにも、洋の東西にいまだかつてためしを聞かんぞ!
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あり別れを惜みて伏水ふしみに至る。兵士めぐつて之をる。南洲輿中より之を招き、其背をつて曰ふ、好在たつしやなれと、金を懷中くわいちゆうより出して之に與へ、かたはら人なき若し。兵士はなはだ其の情をかくさざるに服す。
めぐる環水荘は降る雨のいろとりどりに夏いたりつつ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
白雲環草堂 白雲草堂をめぐる。
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
もろ/\御弟子みでし之をめぐる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
上をめぐれる夕暮や
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
バロンと名乗るものの城を構えほりめぐらして、人をほふり天におごれる昔に帰れ。今代きんだいの話しではない。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その滑り行くさま河の曲れるに似、その尾をむの状大河が世界をめぐれるごとく、辛抱強く物を見詰め守り、餌たるべき動物を魅入みいれて動かざらしめ、ある種は飼いらしやすく
かゝる時にこそ、我脈絡にカムパニアの野なる山羊の乳汁ちしるめぐらずして、温き血めぐれるを人に示すべきなれ、我が世馴れたることのベルナルドオにもフエデリゴにも劣らぬを示すべきなれ。
一八三三年綛糸かせいと製造高は一ヵ年にしてもって五十億里に達すべく、もって地球の表面をば二十万回めぐらすを得べく、もって地球より太陽に達するに五十一回するを得べく、もって地球の軌道をば
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この意気は、もとより彼ら箇々のものに違いないが、大きくると、秀吉の意気の投映であり、秀吉という主体を得て、初めて、太陽系をめぐる諸衛星のような勢いとかがやきを持ったということもできる。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八洲やしまめぐ大瀛おほわだ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
只ウィリアムの見詰めたる盾の内輪が、例の如くめぐり出すと共に、昔しながらのかすかな声が彼の耳を襲うのみである。「盾の中に何をか見る」と女は水の向より問う。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四川しせんの大輪山、〈群峰めぐり列なる、異人奇鬼のごとし、あるいは車に乗り蓋を張る、あるいは衣冕峩冠いべんがかんす、あるいは帯甲のごとく、あるいは躍馬のごとく、勢い奔輪のごとき故に名づく〉。
深き湖あり。暗き林はそをめぐれり。湖の畔なる巖はそばだちて天を摩せんとす。こゝに暴鷲あらわしの巣あり。母鳥は雛等に教へて、をさなき翼を振はしめ、またその目を鋭くせんために、日輪を睨ましめき。
本丸の左右に懸け離れたる二つの櫓は本丸の二階から家根付の橋を渡して出入しゅつにゅうの便りを計る。櫓をめぐる三々五々の建物にはうまやもある。兵士の住居すまいもある。乱を避くる領内の細民が隠るる場所もある。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)