)” の例文
一切異議申間敷もおすまじく候と抑えられていたであったから、定基の妻は中々納まっては居なかった、瞋恚しんいむらで焼いたことであったろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その部屋のカミンに燃えている火も、かげのうつった桃花心木マホガニイ椅子いすも、カミンの上のプラトオン全集も確かに見たことのあるような気がした。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「獄中にいて、あの夜の炎にくるまれたのだ。まだ半狂乱のてりが冷めぬのももっともだ。放ッておけ、ほうっておけ」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに答へて白さく、「今火の稻城いなぎを燒く時に、中にれましつ。かれその御名は、本牟智和氣ほむちわけ御子みことまをすべし」
すると中では、かすかなやぶ行灯あんどんかげで、一人ひとりのおばあさんがしきりといとっている様子ようすでしたが、そのとき障子しょうじやぶれからやせたかおして
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その一つの窓に不消きえずの聖燈のかげが静に射してゐるのもなつかしい。また我山荘の燈火も狭霧をこめた月夜には却て明るく、さへ/″\しく見える。
修道院の月 (新字旧仮名) / 三木露風(著)
と、底に一物、吉蔵が、敷居を超えて、じりじりと、焚き付けかけた胸のに。くわつと逆上のぼせて、顫ひ声
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
彼女のしどろもどろの悪罵あくばの言葉の中からも、わたくしが汚い着物の下に美衣を着覆ちゃくふくしているのをこの女は嗅ぎ付け、それによって嫉妬のむらを一層高めているのを知りました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一方、われらの伝馬船では、ゆくてのやみの水平線に、かすかなさきを見つけた。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
をんな暫時しばし恍惚うつとりとしてそのすゝけたる天井てんじやう見上みあげしが、孤燈ことうかげうすひかりとほげて、おぼろなるむねにてりかへすやうなるもうらさびしく、四隣あたりものおとえたるに霜夜しもよいぬ長吠とほぼえすごく
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
行く春の一絃ひとを一柱ひとぢにおもひありさいへかげのわが髪ながき
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
おぎろなき夜天の宿は幽けけど人こそ知らね立ち見ゆ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
木屋街はかげ祇園は花のかげ小雨に暮るゝ京やはらかき
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
怪しいむらがお山を取り巻いて参りました。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
みづからを灼く むらのただなかに
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
ほのかなるそくのかげに
如是 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
たった三杯みっつ四杯よっつかさねただけなのに、武蔵の顔は、あかがねを焼いたようにてりだし、始末に困るように、時々手を当てた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
砂浜には引地川の川口のあたりにかげが一つ動いていた。それは沖へ漁に行った船の目じるしになるものらしかった。
蜃気楼 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
次に生みたまふ神の名は、鳥の石楠船いはくすぶねの神、またの名は天の鳥船とりぶねといふ。次に大宜都比賣おほげつひめの神を生みたまひ、次に夜藝速男やぎはやをの神を生みたまひき。
女は暫時しばし悾惚うつとりとして、そのすゝけたる天井を見上げしが、蘭燈らんとうかげ薄き光を遠く投げて、おぼろなる胸にてりかへすやうなるもうらさびしく、四隣あたりに物おと絶えたるに霜夜の犬の長吠とほゞえすごく
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
軒ちかき御座みざと月光のなかにいざよふ夜の黒髪
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
僕は浅草あさくさ千束町せんぞくまちにまだ私娼の多かつた頃のよるの景色を覚えてゐる。それは窓ごとにかげのさした十二階の聳えてゐる為にほとんど荘厳な気のするものだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
半生の信念に、大きな動揺をうけての溜息ためいきだった。叔父の前では、我慢していたが、じつはまだ、ゆうべ、したたかに投げつけられたときの腰の挫骨ざこつが、ずきずきとてッて、ひどく痛い。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
意祁おけの天皇の御子、橘の中比賣の命に娶ひて、生みませる御子、石比賣いしひめの命、次に小石比賣の命、次に倉の若江の王、また河内かふち若子わくご比賣に娶ひて、生みませる御子、の王、次に惠波ゑはの王。
斜めに上から見おろした、大きい長方形の手水鉢ちょうずばち柄杓ひしゃくが何本も浮かんだ水にはかげもちらちら映っている。そこへまた映って来る、憔悴しょうすいし切った少年の顔。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
菖蒲小路から木辻きつじの暗い道を、かれは、てったほおと、袈裟御前の面ざしばかり意識しながら、ふらふら戻っていた。世にはあんな佳麗な女性もいたのかと消えない幻影を連れて歩いた。
蝋燭のかげの落ちた岩の壁。そこには勿論もちろんはっきりと「さん・せばすちあん」の横顔も映っている。その横顔のくびすじを尻っ尾の長い猿の影が一つ静かに頭の上へ登りはじめる。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
カミンも赤あかと火を動かしていれば、そのまたかげも桃花心木マホガニイのテエブルや椅子いすうつっていた。僕は妙に疲労しながら、当然僕等のあいだに起る愛蘭土アイルランドの作家たちの話をしていた。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのうちに僕等はかげのさした、小さい窓の前を通りかかりました。その又窓の向うには夫婦らしい雌雄の河童が二匹、三匹の子供の河童と一しよに晩餐のテエブルに向つてゐるのです。
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのうちに僕らはかげのさした、小さい窓の前を通りかかりました。そのまた窓の向こうには夫婦らしい雌雄めすおすの河童が二匹、三匹の子どもの河童といっしょに晩餐ばんさんのテエブルに向かっているのです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)