激昂げきこう)” の例文
その挑戦的ちょうせんてきな態度が徳川方を激昂げきこうさせて東西雄藩の正面衝突が京都よりほど遠からぬ淀川よどがわ付近の地点に起こったとのうわさも伝わった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、かなり激昂げきこうしたような声が、みんなの耳をいきなり刺激しげきした。それは次郎の耳にはききおぼえのある、しゃがれた声だった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ことに若い人たちの間には一種の重苦しい波動が伝わったらしく、物をいう時、彼らは知らず知らず激昂げきこうしたような高い調子になっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
当人を前において面罵めんばするような激昂げきこうした口調でしゃべり、最後に、「実際私でも、あんな奴はぶち殺してやりたいほどしゃくにさわっていました」
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
これまでになく打ち明けて、盛んな議論をしているが、話の調子には激昂げきこうあとは見えない。大村はやはりいつもの落ち着いた語気で話している。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
池田はすぐ激昂げきこうするたちで、気の毒だったが、しかし、何といっても殿の今度のなされ方は、すこしお手荒だったよ。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
峻厳しゅんげんな力強い感情に輝きうる、つつましやかな青い目や、憤懣ふんまん激昂げきこうになおも震えているその小柄な体に見入った。
しかりといえども勝氏もまた人傑じんけつなり、当時幕府内部の物論ぶつろんはいして旗下きかの士の激昂げきこうしずめ、一身を犠牲ぎせいにして政府をき、以て王政維新おうせいいしんの成功をやすくして
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
兄の血と同じ血を持っているはずの弟は、それを見て兄と同じように激昂げきこうする。兄と同じように自殺を決心する。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼の精神激昂げきこうは少しも減退せずむしろ募っていったが、しかしそれはもはや精神の危険な眩迷げんめいでなく、力に狂った身と魂の、全存在の、健全な陶酔であった。
そこで今まで述べたシカゴの大会とボストンの公園の集会を見て、我が同胞どうほうとともにかえりみたいことは、一時の激昂げきこうられて事をなすを慎むべき一点である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
傍若無人の振舞の手に取るごとく見ゆるにぞ、意気激昂げきこうして煙りも立たんず、お通はいかで堪うべき。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トロ族群衆の興奮と激昂げきこうとはその頂点に達した。ついに彼らはときの声をあげて、僕の方へ殺到した。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
多少たせうらういとふて他船たせん危難きなんをば見殺みころしにするつもりだなと心付こゝろついたから、わたくし激昂げきこうのあまり
かれはその病院びょういんに二イワン、デミトリチをたずねたのであるがイワン、デミトリチは二ながら非常ひじょう興奮こうふんして、激昂げきこうしていた様子ようすで、饒舌しゃべることはもうきたとってかれ拒絶きょぜつする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
代助は今まで、自分は激昂げきこうしないから気狂にはなれないと信じていたのである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ボクさんのことも孔雀くじゃくのことも、なにもかも、ひとまとめにして、思いっきりいってやらなければおさまらないような気持になってきました。あたしとしては、たいへんな激昂げきこうぶりでしたの。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もってその騒擾そうじょうのいかにはなはだしかりしかを知りうると同時に、平生冷静沈着なる英人がかほどまでの騒動を惹起ひきおこせしことは、その激昂げきこうの度のいかにはなはだしかりしをも知るに足ると思う。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
思うに当時人心じんしん激昂げきこうの際、敵軍を城下に引受ひきうけながら一戦にも及ばず、徳川三百年の政府をおだやか解散かいさんせんとするは武士道の変則へんそく古今の珍事ちんじにして、これを断行だんこうするには非常の勇気ゆうきを要すると共に
カ氏やジャヴェリたち印度人一行の激昂げきこうはその極に達したのであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
美奈子が、真中にいることも、もうスッカリ忘れたように、青年は我を忘れて激昂げきこうした。興奮にき立った温かい呼吸いきが、美奈子の冷い頬に、吐き付けられた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
葉子は震えを覚えるばかりに激昂げきこうした神経を両手に集めて、その両手を握り合わせてひざの上のハンケチの包みを押えながら、下駄げたの先をじっと見入ってしまった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
近ごろ我が国民全体が激昂げきこうしたことは、表向きでは愛国を口にし、一身の名利などはごうも眼中にない、いなむしろ名利を犠牲ぎせいに供して国防の充実を計るという看板をかけた人が
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
当時、京都は兵乱のあとをけて、殺気もまだ全く消えうせない。ことに、神戸さかいの暴動、およびその処刑の始末等はひどく攘夷の党派に影響を及ぼし、人心の激昂げきこうもはなはだしい。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あのとおり同胞は激昂げきこうしているんだ。尋常じんじょうのことではおさまらないだろう。同胞たちは君の姿を見て、一層刺戟しげきされたのだ。同胞たちは、日頃の忍耐を破って、ヤマ族の海底都市襲撃を
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これから吐き出そうとしている癇癪かんしゃくに、前から喜びを感じながら、落ち着き払って言い出したが、結局、先ほどルージンに対した時と同様激昂げきこうしてしまい、息を切らせながらことばを結んだ。
帽子もかぶらず、日の照る中で、まだ議論のために激昂げきこうしたまま、疳癪かんしゃくまぎれにうなっていた。クリストフは書物を手にして、青葉だなの下にすわっていた。しかし彼はほとんど読んでいなかった。
人心じんしん籠絡ろうらくしてその激昂げきこう鎮撫ちんぶするにるの口実こうじつなかるべからず。
激昂げきこうした、山城守、思わず大きな声が出た。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
次郎は激昂げきこうして
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
つやは恐ろしいまでに激昂げきこうした葉子の顔を見やりもし得ないで、おずおずと立ちもやらずにそこにかしこまっていた。葉子はそれがたまらないほどしゃくにさわった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
家の者もわざとなんとも言わなかった。彼がまだやはり激昂げきこう状態にあるのがわかったのである。そして彼を大目に見てやらなければならなかった。なぜなら彼は宮廷の晩の演奏に出ていてくれたから。
青年の顔は、今蒼白そうはくに変じ、彼の言葉は、激昂げきこうのために、ふるえた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
目賀野は再び激昂げきこうに顔をあかくし始めた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
腰を冷やしたり、感情が激昂げきこうしたりしたあとでは、きっと収縮するような痛みを下腹部に感じていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そういって倉地は言葉の激昂げきこうしている割合に、また見かけのいかにも威丈高いたけだかな割合に、充分の余裕を見せて、空うそぶくように打ち水をした庭のほうを見ながら団扇うちわをつかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その時階下で倉地のひどく激昂げきこうした声が聞こえた。葉子ははっとして長い悪夢からでもさめたようにわれに帰った。そこにいるのは姿は元のままだが、やはりまごうかたなき貞世だった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)