溜飲りゅういん)” の例文
旧字:溜飮
締め殺してでもやったら、どんなにいい気持ちでおもしろくて溜飲りゅういんが下がるかわからねえ。あの金持ちの奴らをよ、みんな残らずさ。
中には、不義の富を積んでいる者を襲って、有り金を奪い取り、それを正統の持主にかえして溜飲りゅういんを下げたりすることもありました。
お使いにたって持ってくときもありましたが、見ていてグッと溜飲りゅういんがさがっちゃうので、かまうもんですか、やっちゃいなさいよ。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
たとい自分に何とも云わないまでも、お秀には溜飲りゅういんさがるような事を一口でいいから云ってくれればいいのにと、腹の中で思った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
常に大藩の誇りを鼻にかけて、尊大で倨傲きょごうな振舞のおおい京極方の惨敗は反動的に無暗に群集の溜飲りゅういんを下げて鳴りもやまぬ歓呼となった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こりゃよくよく寝坊だわイ、といいながら、チョキリ! チョキリ! とうとう四角とも切り落し、まずこれで溜飲りゅういんが下がった。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
ずばりと大喝だいかつ一声! いいつつぱらりと雪ずきんをかなぐりすてると、うって変わって、すうと溜飲りゅういんのさがる伝法な啖呵でした。
毎年の元旦に玄関で平突張へいつくばらせられた忌々いまいましさの腹慰はらいせがやっとこさと出来て、溜飲りゅういんさがったようなイイ気持がしたとうれしがった。
こっちあぐッと溜飲りゅういんが下って、おさらばをめてフイとなって、ざっぷり朝湯を浴びた気さ、我ながら男振を上げて、や、どんなもんだい。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いくらかの溜飲りゅういんを下げて、屋根の上からおりて来ましたけれど、鰡八大尽は言うばかりなき不快を感じて、病気も忘れて荒々しく寝床を立って
はっきりした言葉でそれをすぱりと云って退ければ、世界中の学者は一度に溜飲りゅういんが下がったような気がするであろう。
スパーク (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今までのちゃんばらに一新紀元をかくしたからでもあり、机龍之介りゅうのすけや月形半平太が、ことにも観衆の溜飲りゅういんを下げていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
面喰った課長の前に、小学生のお清書せいしょの様な大文字の辞表を投げつけて、ぐっと溜飲りゅういんを下げた宗三は、まだ午前十一時というに、大手を振って帰って来た。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうだとしても、おそくも明日か明後日のうちには無事に戻って行くであろう。するとあの二人がどんな喜びようをするか。そしてどんなに溜飲りゅういんを下げるか。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「まあいい、一つまいろう」七十郎は盃をさした、「今日は気がふさいでしょうがなかったが、船岡の館主がきめつけられるのを見て、きれいに溜飲りゅういんがさがった」
ひそかに溜飲りゅういんをさげているんだから私という三十五歳の男は、いよいよ日本一の大馬鹿ときまった。
鉄面皮 (新字新仮名) / 太宰治(著)
みんなにかわって溜飲りゅういんをさげたようなこの事件は、近ごろの珍談ちんだんとして大石先生の耳にもはいった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
葉子の心のすみからすみまでを、溜飲りゅういんの下がるような小気味よさが小おどりしつつせめぐった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かねて金兵衛が秘蔵子息むすこのために用意した狂言用の大小の刀も役に立つ時が来た。彼は鶴松つるまつばかりでなく、上の伏見屋の仙十郎せんじゅうろうをも舞台に立たせ、日ごろの溜飲りゅういんを下げようとした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「偉いぞさすがは鏡家の養子」葉之助贔屓びいきの連中はさもこそとばかり溜飲りゅういんを下げた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土器色かわらけいろになった、お祖母ばあさんの時代に買ったのを取出してチョク/\しめるんでしょう、実に面白うげす……此のうちあんころ餅が旨いからわたくしは七つ食べましたら少し溜飲りゅういんこたえました
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そういわれて、私はせっかくうまく食べかけていた朝飯が溜飲りゅういんになってしまった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それとも昔お前を捨てた女が、今は亭主に捨てられている姿をみて溜飲りゅういんがさがった気がするのかね。どっちにしてもお前の考えは間違っている。あてが外れて、お気の毒さまという他ないね。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
保吉は溜飲りゅういんを下げながら、物売りをうしろに歩き出した。しかしそこへ買いに来た朝日は、——朝日などはもう吸わずともい。いまいましい物売りを一蹴いっしゅうしたのはハヴァナを吸ったのよりも愉快である。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「秘書が二人首になると言って、みんな溜飲りゅういんを下げている」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
想像するだけでも溜飲りゅういんがさがるというものだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
これで寺はミソをつける、ざまを見やがれと、復讐の溜飲りゅういんをさげたのだろうが、ヒドい目にあったのは寺ではなく、私たちの一行だった。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、きょうの江戸っ子は同じ江戸っ子でも少しばかり品が違っているので、その啖呵たんかがまた聞いていても溜飲りゅういんの下がるくらいなのです。
正太夫は緑雨りょくうの別号をもつ皮肉屋である。浪六はちぬの浦浪六と号して、撥鬢奴ばちびんやっこ小説で溜飲りゅういんを下げてしかも高名であった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「井筒屋重兵衛は疝癪せんしゃく溜飲りゅういん持だ。気の毒だが金に不自由はなくなっても大福餅には縁がありませんよ——浅ましいことに重兵衛は骨董こっとうり始めた」
ほんとうに米友の口惜くやしがる通りです。尋常に自分も道庵先生のともをして歩きさえすれば、こういうところには、思いきり溜飲りゅういんが下げられたものを。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これで幾分か溜飲りゅういんが下りたような気のした津田には、相手の口から出た最後の言葉などを考える余地がなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
い、可い、ああ溜飲りゅういんの下る話だ、五千疋の顔を見りゃ、知事公の令嬢で歌所の奥方が、床屋の役介者やっかいもの——まあそうしておけよ——役介者をあおごうという当世に
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれらの跋扈跳梁ばっこちょうりょうはあたかも黄金境の観を呈し、幽霊もののけ妖怪変化、死霊いきりょう魑魅魍魎ちみもうりょう狐狸こり草木のたぐいまでが人を脅し世を騒がしては溜飲りゅういんをさげていた。
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
明らかに葉子がまっになって顔を伏せるとばかり思っていたらしく、居合わせた婦人たちもそのさまを見て、容貌ようぼうでも服装でも自分らを落とそうとする葉子に対して溜飲りゅういん
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
俺の気持を察してくれ、十数年来の溜飲りゅういんがグーッと一度にさがった様な気がするぜ。可哀相になあ、世界にその名をうたわれた大盗賊も、この極東の異境に、あえなく汚名を止めるのか。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たゞさうすると品子に溜飲りゅういんを下げさせることになるのが、いかにも残念でたまらないので、その方の意地がこうじて来ると、猫のことぐらゐ辛抱しても誰があの女の計略なんぞにと、云ふ風になる。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何十年来の溜飲りゅういんが一時にさがった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
啖呵たんかをきっていたかと思いましたが、もう横っとびで——まもなく、そこへあつらえの二丁をすえると、いかにも溜飲りゅういんの下がったようにいったものです。
思い通りに筋を運んで、途方もない結末にもって行って溜飲りゅういんを下げたこともあり、ひじょうに兇悪な犯人を許してやって、いい気持になったこともある。
平次と生きた二十七年 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お銀様は、そこでホッと息をついて、同時に胸の溜飲りゅういんを下げました。ははあ、これだなと思ったのでしょう。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あの小僧こぞうも、あとで家へかえって見たら、さだめしびっくりして泣きわめくにちがいない。それだけでも、まアまア、いちじの溜飲りゅういんがさがったというものだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやもうひさしぶりで癇癪かんしゃくをお起しなすって、こんな心持の可いことはござりません。わたくしゃ変な癖で、大旦那と貴方の癇癪声さえ聞きゃ、ぐっとその溜飲りゅういんの下りますんで。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仕返しをして溜飲りゅういんをさげたところで、それっきりのはなしじゃあないか、ふん、金持喧嘩せずだ、おかねの仕事にしろおくにの仕事にしろ、どうせすぐに放り出す女だ、二人とも
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今日の新聞なんか、おれのまいた種で、三面記事がうずまってるんだ。今度こそ、いくらか溜飲りゅういんが下ったてえものだ。だが、断るまでもねえ、人になんかこれから先もいうんじゃねえぜ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
急に溜飲りゅういんが起って咽喉のどの所へ、大きなたまが上がって来て言葉が出ないから、君にゆずるからと云ったら、妙な病気だな、じゃ君は人中じゃ口は利けないんだね、困るだろう、と聞くから
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たゞさうすると品子に溜飲りゅういんを下げさせることになるのが、いかにも残念でたまらないので、その方の意地がこうじて来ると、猫のことぐらゐ辛抱しても誰があの女の計略なんぞにと、云ふ風になる。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そいつは有難ありがてえ、俺は溜飲りゅういんを下げたくてウズウズしているんだ。あの悪党親子の前でフンぞり返らしてくれるなら、命なんか二つ三つ投げ出してもいい」
聞いて、すっかり溜飲りゅういんが下がりやした。じゃ、なんですね、だれかほかに下手人があって、そやつが江戸錦に罪をきせるため印籠の細工をしたというんですね
流鏑馬の競技があまり上品に取り行われて、期待したほどの興味をもたらさなかったのを飽かず思っていた大向うは、これで充分に溜飲りゅういんを下げようとするのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)