招牌かんばん)” の例文
薄暗い廻り梯子を踏んで上がつて行くと肥満ふとつた南欧人らしい女主人が招牌かんばんどほりの金輪に乗つてゐる白鸚鵡に餌をやつてゐたりした。
旧東京と蝙蝠 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
「おん茶きこしめせ、梅干もさぶらふぞ」の招牌かんばんは昔ながらでも、それは風流の人たちが喜ぶので、小さな子たちには向きません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
親指は肉付豐かな弗羅曼フラマンの酒屋の亭主、根が瓢輕な巫山戯もの、三月釀造極上麥酒ビイル招牌かんばんを出した戸口のとこで煙草をのんでる。
五本の指 (旧字旧仮名) / ルイ・ベルトラン(著)
ある日は「御料理仕出し」の招牌かんばんをたのまれて千蔭ちかげ流の筆をふるい、そうした家の女たちから頼まれる手紙の代筆をしながらも
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
姫様ひいさまこういらっしゃいまし。」一まず彼室かなたの休息所へ、しばし引込みたまうにぞ、大切なる招牌かんばん隠れたれば、店頭蕭条しょうじょうとして秋暮のたんあり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
之が一等支出めりが立た無くて好いのだが、只此風に、こたえる。煎餅屋の招牌かんばんの蔭だと、大分しのげる。少し早目に出掛けよう。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
行田印刷所と書いたインキに汚れた大きい招牌かんばんがかかっていて、旧式な手刷りが一台、例の大きなハネをかえし繰り返し動いているのが見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
例の招牌かんばんから釣込む植木屋は家々の招きの旗幟はた翩翻へんぽん金風あきかぜひるがえし、木戸々々で客を呼ぶ声はかれこれからみ合て乱合みだれあって、入我我入にゅうががにゅうでメッチャラコ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
だまされる人は、招牌かんばん見ないで店に飛びむようなもので、商品が違っていたら、それは自分が悪かったのであります。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かくすな! 何有なあに、解つてるよ、確乎ちやんと解つてるよ。高が君等の行動が解らん樣では、これで君、札幌は狹くつても新聞記者の招牌かんばんは出されないからね。』
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今その面を見るに、深く車轍を印したればなり。家壁には時に戸主の姓氏を刻めるを見る。又招牌かんばんの遺れるあり。偶々たま/\その一を讀めば、石目細工の家と題したり。
姉もまけずに「前使った学校の招牌かんばんも売りました。十円に買って行きました」と云った。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仕つりぬ只今たゞいま藥研やげんに掛ますあひだ霎時しばらくお待ち下されと云つゝ夫を和吉に遞與わたし製造せいざう方へ廻させしは多少をろんぜぬ商個あきうどの是ぞ實に招牌かんばんなるさて細末さいまつの出來る間と元益に四方八方よもやまの話しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我々にとっては何が何やらまるで見当もつかぬような支那文字をべったり書いた細長い布や、派手な色の提灯ちょうちんや、怪奇な招牌かんばんの混合で装飾された変てこりんな建物が劇場なのである。
其処は晋陽の大街おおどおりで金色の招牌かんばんを掲げた商店が両側に並んでいた。廷章はその大街を暫く往って右に折れ曲った。其処に南三復の家があって数多たくさんの人が朝陽を浴びてその前に集まっていた。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
無心に吹く風に対しては招牌かんばんは入らぬからこのハンノキの花にはかの虫媒植物が備えている様な色のある花弁は持合せていない。ゆえに植物学者以外の人々には有っても無きがごとき花である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「狐じゃい。知らんのか。鏡を出してこの招牌かんばんと較べてみい。間抜けめ」
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
だから「諸国銘葉しよこくめいえふ」の柿色の暖簾のれん、「本黄楊ほんつげ」の黄いろい櫛形の招牌かんばん、「駕籠かご」の掛行燈かけあんどう、「卜筮ぼくぜい」の算木さんぎの旗、——さう云ふものが、無意味な一列を作つて、ただ雑然と彼の眼底を通りすぎた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふとってはいるがむしろ小男の部だ。その代り腹ばかり太鼓たいこのようにふくれている。ビールの招牌かんばんにありそうな便々とした腹を持っていて普通の洋服ではぼたんが合わん仕立屋がズボンの仕立に閉口する位だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この酒店には「陽気な船乗りジョリー・ター」の画が招牌かんばんとしてかけてあった。
おうぎ形の槻板つきいたに、大きく屋号を書いた招牌かんばんが、さがっていた。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あるいは理髮師とこや裁縫師したてやの軒に artist の招牌かんばんをかけ
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
という小さな招牌かんばんの出ていたのを思い出したのである
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それで学校はお休みだったのでしょう、私は通りへ出て、橘井堂医院の大きな招牌かんばんの蔭からのぞいて見ました。そこらの人たちが並んでいます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
路側みちばたのさまざまの商店やら招牌かんばんやらが走馬燈のように眼の前を通るが、それがさまざまの美しい記憶を思い起こさせるので好い心地ここちがするのであった。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その取つてつけた樣な不調和な玄關には、『加藤醫院』と鹿爪らしい楷書で書いた、まだ新しい招牌かんばんを掲げた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
貴夫人などは貞操ていそう招牌かんばんにかけ、むろんポチだの報酬だのをおっとより受くべきはずはないが、しかし随分それを強請ねだろうと思い、衣服を買ってもらいたいがために
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
招牌かんばんを仰げば、「ドンナ、カリテア、レジナ、ヂ、スパニア」(西班牙スパニア女王カリテア夫人)と大書し、作譜者の名をばメルカダンテと注せり。われ心の中におもふやう。
だから「諸国銘葉めいよう」の柿色の暖簾のれん、「本黄楊ほんつげ」の黄いろい櫛形くしがた招牌かんばん、「駕籠かご」の掛行燈かけあんどう、「卜筮ぼくぜい」の算木さんぎの旗、——そういうものが、無意味な一列を作って、ただ雑然と彼の眼底を通りすぎた。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どこにぶらさげた招牌かんばんがあるではなし
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
その取てつけた様な不調和な玄関には、『加藤医院』と鹿爪らしい楷書で書いた、まだ新しい招牌かんばんを掲げた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
美しい髪飾のいろいろ並べてあるのを、客は代る代る取出させて見たりしています。そうした様子を、右手の横から、神農しんのうの薬草を持った招牌かんばんが見詰めているようです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
(伊太利の小料理屋にて「オステリア、エエ、クチイナ」と招牌かんばん懸けたる類なるべし。)
昔の伊達気分などはもはや少しも持っていないだろうと思われるような小料理屋の招牌かんばんにも、自由自在にさし入って来て、至るところにその静けさとさびしさとをひろげているのだった。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
かくすな! 何有なあに、解つてるよ、確乎ちやんと解つてるよ。高が君等の行動が解らん様では、これで君、札幌はいくら狭くつても新聞記者の招牌かんばんは出されないからね。』
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私の頭には、電車と電車通にある大きな書籍の招牌かんばんとが浮んで来た。電車に並んで腰を掛ける洋服の男だの、髱の長く出た意気な女だの、小僧だの、ハイカラの男だのが見えたり消えたりした。
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
臆病らしい眼を怯々然きよろ/\と兩側の家に配つて、到頭、村も端れ近くなつた邊で、三國屋といふ木賃宿の招牌かんばんを見附けた時は、渠には既う、現世に何の希望も無かつた。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
口がおのづからポカンと開いたも心付かず、臆病らしい眼を怯々然きよろきよろと両側の家に配つて、到頭、村もはづれ近くなつたあたりで、三国屋さんごくやといふ木賃宿の招牌かんばんを見付けた時は、かれには
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)