懶惰らんだ)” の例文
懶惰らんだで、大酒に淫し、弓と矢とを用いて狩猟することと、漁とによって生計を立てているのであることは、容易に了解出来なかった。
この五、六年田舎で懶惰らんだに日を暮した父親は、ほかに何か気苦労のない仕事があるならばと、もうそれを考えているらしくも見えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
欠伸あくび一つしてもだ——苦の中に潜心した人間のあくびと、懶惰らんだな人間のそれとはまったく違う。数ある人間のうちには、この世に生を
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はその志をうれしくは受けるが、この書を読まれるならば大方の誤解は解け去るであろう。私は宗教の真理に懶惰らんだであったのではない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
何といふ思ひまうけぬ悦びであらうか! 流されるだけ流されてやれ! 彼はさういふ懶惰らんだの底へ蟇のやうに腰を据ゑたわけであつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
現に、騎西家の人達は、その奇異ふしぎおきて因虜とりことなって、いっかな涯しない、孤独と懶惰らんだの中で朽ちゆかうとしていたのであった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その人たちというのは、主に懶惰らんだ放蕩ほうとうのため、世に見棄てられた医学生の落第なかまで、年輩も相応、女房持にょうぼうもちなどもまじった。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるに学問の道において、談話、演説の大切なるはすでに明白にして、今日これを実に行なう者なきはなんぞや。学者の懶惰らんだと言うべし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
時代遅れの寄生的気分に満ちた、こういう懶惰らんだな遊民的女子の将来が如何に不幸であるかは平塚さんも認められるでしょう。
平塚さんと私の論争 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ことに心の平静をこぼちほしいままな荒々しさや働きのない懶惰らんだな気分のなかに住むことは、もっとも不幸に感ぜられます。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
放蕩ほうとう懶惰らんだとを経緯たてぬきの糸にして織上おりあがったおぼッちゃま方が、不負魂まけじだましいねたそねみからおむずかり遊ばすけれども、文三はそれ等の事には頓着とんじゃくせず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
当時緑雨は『国会新聞』廃刊後はきまった用事のない人だったし、私もまた始終ブラブラしていたから、懶惰らんだという事がお互いの共通点となって
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
一、第二期は浅学なる者、懶惰らんだなる者、なほ能くこれを修むべし。第三期は励精れいせいなる者、篤学なる者に非れば入る能はず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そして齷齪あくせくと生活してる人々の悪口を言いながら、自分の懶惰らんだを慰めていた。その多少重々しい皮肉な冗談は、人を笑わせずにはおかなかった。
これらの事を綜合そうごうして考えると、日本の下層階級の懶惰らんだで無責任な事は、とても救済する方法がないように思われる。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
新しい生甲斐のある生活をつくることに、ぼくは懶惰らんだであり、不信であり、自分の体力を考え、絶望してもいたのだ。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
そして心身ともに以前に倍しておすこやかになり、ともすれば懶惰らんだに、億劫おっくうになりがちなわたしたちのために、発奮させる原素となって下さいまし。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
懶惰らんだな者、巧妙でない者、浪費者のために与えるものであり、すべての人々から、各自の目的の追求が適当であったか否かの責任を奪うものであり
だんだん田舎深く入込いりこめば、この道中一行の呆れ返らざるを得なかったのは、この地方住民の懶惰らんだ極まる事である。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
強者の傲慢ごうまん懶惰らんだ、弱者の無学と畜生暮し、どこを見てもおそろしい貧乏と窮屈、堕落と泥酔、偽善と虚偽ばかり。
惰力の為めに面白くもない懶惰らんだな生活を、毎日々々繰り返して居るのが、堪えられなくなって、全然旧套きゅうとう擺脱はいだつした、物好きな、アーティフィシャルな
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
岸本君、僕はもう黙してい頃であろう。倦怠と懶惰らんだは僕が僕自身にかえるのを待っている。眼も疲れ心も疲れた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
親不孝と流浪と懶惰らんだと遊酒と、そのほかに何をなしたであろう。まことに、取るに足らぬ人生であった。有害無益の人生であった。実に意味なき人生であった。
利根川の鮎 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
当時、私は極めて懶惰らんだな帝国大学生でありました。一夏を、東海道三島の宿で過したことがあります。
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼らをその有害な懶惰らんだから脱却せしめ得るあらゆる企図に対して、頑固な反抗を続けているのである3
ベシイ・マンディからきあげた金で、彼らのうえに、またとうぶん情痴じょうち懶惰らんだの生活が続いた。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
人もどれほど「王佐棟梁おうさとうりょう」の才であっても、これを利用もせず懶惰らんだに日を送れば、小技しょうぎ小能しょうのうなるいわゆる「斗筲とそうひと」で正直につとめる者に比して、一人前と称しがたく
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その見ぬ幸福を想像しながら、のびのびと懶惰らんだをむさぼった。一時十分、いよいよ赤石の登りにかかる。アイゼンがよく利くようになった。百間平では鷹の飛ぶのを見た。
正しい仕事を選び得たものは懶惰らんだであることが出来ないのだ。私は嘗て或る卒業式に列した。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私の生活が生気のない、懶惰らんだなものとは思わないで下さい。私もようやく戦うという気持がどんなものだか、わかりかけてきたような気がします。そうです、私も一人の戦士なのです。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
かように豕の性質について善い点を探れば種々多かるべきも、豕が多食・好婬・懶惰らんだきたない事を平気というは世に定論あり。『西遊記』の猪八戒ちょはっかいは最もよくこれを表わしたものだ。
救いようのない貧窮、安逸と懶惰らんだに馴れた女にはそれだけでも耐えきれなかったろう、はたし合いが事実になれば、結果のいかんにかかわらず係り合はまぬかれない、逃げるのは当然だ。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こういう余儀ない事情はかれらを駆って放縦ほうじゅう懶惰らんだの高等遊民たらしめるよりほかはなかった。かれらの多くは道楽者であった。退屈しのぎに何か事あれかしと待ち構えているやからであった。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
新らしいと云うのは内容のかわった恋愛と云う意味ではなく、整理のついた恋愛を云うのかも知れないけれども、すぐ泥にまみれたかたちになってしまう。——懶惰らんだで無気力な恋愛がある。
恋愛の微醺 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
魂は決して安逸あんいつ懶惰らんだを願わない。魂は永遠に知識の前進に対する欲求を棄てない。人間的慾情、人間的願望は肉体と共に失せるが、魂には純情と進歩と愛との伴える、浄き、美しき生活が続く。
それは何代に亙る父系の懶惰らんだと不道徳と、母系の無智と淫蕩との蓄積であつたには違ひありませんが、世間並の評價から言へば、相當以上の美貌で、立派に——小日向業平なりひら——で通る金之進でした。
思ひ切つて此の土地を今の間に立ち去ることがやがてよき運命の端緒ともなり、そして何処どこかへ行きさへすれば自分の懶惰らんだは新たな忍耐力と入れ代つて勇気に満ちた生活が出来さうに思へるのだつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
これは懶惰らんだな勉強をしない人の口実にするところであるが、しかしその中にも一分の真理はある。身体さえ強くなっておれば読んだものをぐ消化する、直ぐ理解する。そうして記憶力が盛んになる。
始業式に臨みて (新字新仮名) / 大隈重信(著)
自分の懶惰らんだがもはや許せぬという想いがぴしゃっと来た。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
そして、パンヤのやうにふはふはと舞ひたつ懶惰らんだ
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
だらしもなく 懶惰らんだのおそろしい夢におぼれた。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
これから高尚な懶惰らんだの価値を分からせて上げる。
なにしろ私はそんなおりもメモとか写真とか、また日記をつける習慣さえないので、ほとんど忘れ去るにまかすといった懶惰らんだなんです。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その学者は決して懶惰らんだ無為むい日月じつげつを消する者に非ず、生来の習慣、あたかも自身の熱心に刺衝ししょうせられて、勉強せざるをえず。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
安逸をむさぼる者は、この仕事に堪えることができぬ。工藝は懶惰らんだを許さない。労働のみが豊富な経験とそうして確実な結果とを約束するのである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
知己の者はこの男の事を種々さまざまに評判する。あるいは「懶惰らんだだ」ト云い、或は「鉄面皮てつめんぴだ」ト云い、或は「自惚うぬぼれだ」ト云い、或は「法螺吹ほらふきだ」と云う。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
したがって土佐出身の名士には親昵ちかづきがあったが、文人特有の狷介けんかい懶惰らんだとズボラが累をなして同郷の先輩に近づかず
やがてシューベルトは、自分の情熱的な感傷をそれに交えた。シューマンは、小娘めいた懶惰らんださをそれに交えた。
いつか我が懶惰らんだの習ひにや馴れ染めけん、かつは日頃親しく尋来たずねきたる向島の隠居金子かねこ翁といふ老人のすすめもありてや、浮世の夢をよそに、思出多き一生を大久保の里にうず
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
獅子をもたおす白光鋭利のきばを持ちながら、懶惰らんだ無頼ぶらいの腐りはてたいやしい根性をはばからず発揮し、一片の矜持きょうじなく、てもなく人間界に屈服し、隷属れいぞくし、同族互いに敵視して