いつく)” の例文
そこで毎日、その親たちをよろこばせ、そのいつくしみをうけているいい子をみつけるたんびに、そのためしのときがみじかくなります。
死ぬであろう戦場へおもむくのも、じつは命をいつくしむわが命がさせていると、この心のあやしさ、正成もまたきわめておる。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イエスは富める真面目な青年にいつくしみの目をそそぎ給うたごとく、これらの貧しき素朴なる青年弟子にも愛しみの目をめて
万作夫婦は日々に生いたつお光に慰められて、蝶花といつくしみながら、「妙な子だのう」「妙な子だよ」斯く語り合った。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
日本にっぽん一の御子みこからまたなきものにいつくしまれる……。』そうおもときに、ひめこころからは一さい不満ふまん、一さい苦労くろうけむりのようにえてしまうのでした。
雲より声を出して「これはわがいつくしむ子なり、汝らこれに聴け」と命じた神、その神が「死人の復活により大能をもて神の子と定め」たイエス・キリスト
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼は鳥獣をいつくしみ鰐魚わにをさえもなずけた。彼には鳥獣の啼き声やあるいはその眼の働きやもしくは肢体のうねらし方によってその感情を知ることが出来た。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは姉が須永に対する義理からでもあろうが、一つは自分に子のできないのを苦にしていた矢先だから、本気に吾子としていつくしむ考も無論手伝ったに違ない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おもうに、私等親子のいつくしみを受けて、曾て痛い目にった事なく、暢気のんきに安泰に育ったから、それで此様こんなに無邪気であったのだろうが、ああ、想出しても無念でならぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
特にこの世界の美をいつくしむ心が惠まれてゐる故に、そしてこの世界の美といふものは、ものによつて一番幼い子供にもたやすく、感受出來るものである故に、そのあどけない
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
今は小子それがしが胸には横笛がつれなき心も殘らず、月日と共に積りし哀れも宿さず、人の恨みも我がいつくしみも洗ひし如く痕なけれども、殘るは只〻此世の無常にして頼み少きこと
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
孤子也みなしごなりとていつくしみうまき食物などの有ば常に殘し置てつかはしなどしける此日師匠の用事にて來りけるをりから冬の事にて婆は圍爐裡ゐろりあたりゐけるが寶澤の來るを見て有あふ菓子などを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
胸さわぎするほかは烟草たばこばかりがいつくしまれ、二十分ほど経った所で、椀の物を載せた膳と杯洗とを婢が持来り、酒盃を受けて下に置く時皿の物が来て、膳の体裁はやゝ整ったが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
一 女子は我家に有てはわが父母に専ら孝を行ふことわり也。されども夫の家にゆきては専らしゅうとしゅうとめを我親よりも重んじて厚くいつくしみ敬ひ孝行をつくすべし。親のかたを重んじ舅の方を軽ずる事なかれ。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あの「ぢやぼ」(悪魔)をもひしがうず大男が、娘に子が産まれるや否や、暇ある毎に傘張の翁を訪れて、無骨な腕に幼子を抱き上げては、にがにがしげな顔に涙を浮べて、弟といつくしんだ
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
依然として彼を待ち彼をいつくしみ、相も変わらず彼に望みをつないで、神のためには苦しみかつ死ぬべくあこがれていたのだ、……こうして幾世紀も、幾世紀も人類が信仰と熱情をもって
太陽のいつくしむもの
姫はまだ十七、深窓のいつくしみにくるまれていたが、佳麗な容姿はかくれもなく、つねづね若公卿ばらの野心のまとであった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただちに雲が起こり来たってイエスをつつみ、雲の中から「これはわがいつくしむ子なり、汝らこれに聴け」とのおごそかな神の御声がペテロたちの耳を打ちました。
いつくしむ事生の親にもまさりて彼是かれこれ執成とりなしけるを主税之助夫婦は甚く憎み我子の爲に邪魔じやまならんと終にとがなきお安を牛込神樂坂水茶屋兄吉兵衞の方へ歸しけりかく先代よりの家來に暇を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
或は尊みうやまえと教うれば、舅姑はもとより尊属目上の人なり、嫁の身として比教に従う可きは当然なれども、扨親しみいつくしむの一段に至りては、舅姑を先にして父母を後にせんとするも
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
汝のいつくしむもの
「生れては、北条家の姫様ひいさまとして、たまのようにいつくしまれ、嫁いでは武田四郎勝頼様の御簾中とも仰がれた御身が……」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神のいつくしみ給う子たる自覚をもって世に遣わされた者が、十字架の上に恥辱の死を遂げるということは矛盾ではないか。これがキリストたる者の生涯であろうか。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
として病死びやうししけるにより主税之助は養父の頼の通り兄弟の内に家督かとくつがせんと我が子の如くいつくしみそだてしが其中に主税之助も實子を儲け名をすけ五郎と呼び寵愛ちようあいあさからず何時しか先代平助の遺言ゆゐごん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
母者人ははじゃびとにも、ようようお年、この後は正行をおいつくしみ下されたように、御自身のおからだを御いたわりくださいまし
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またほかの者を遣わしたのに、これを殺した。またほかの多くの僕をも、あるいは打ちあるいは殺した。なお遣わすべき者が一人だけ残っていた。これはそのいつくしむ子である。
のごときいつくしみと守りをささげられながら、ことし早や十一となっていたのであった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は決して美人ではないが、さすがに深窓しんそういつくしまれた肌目きめではあった。それに初産の後のせいかとおるような白い顔と指の先をしている。その手をひどく几帳面きちょうめんに膝へかさねて
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これより出立いでたちまする。父君の御遺訓、母うえが日常の御庭訓ていきん御旗みはたに生かしてひるがえす日は今です。ふたたび、お膝の許に、正行が身、生きては還りますまい。長いおいつくしみ、死してもわすれませぬ。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんないつくしみを持って、今、この時、思い遣ることはできなかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「みかどの、おいつくしみさえ、いまのようならば」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)